あの子の憂鬱 2
あの人は突然僕の前に現れた。僕が困っているから現れたんだと言った。
大抵の願いは叶えてあげられるから言ってご覧と、春の陽のようにまったりと優しい笑顔で言ってくれた。
肉親以外の誰かに優しくされたのは、記憶のある限りではこれが生まれて初めてだった。
借金を抱えた親に捨てられ、意地悪な親戚の元でこんなにがんばっているのに誰も僕を認めてくれない。
王立研究院の特別クラスに合格して、卒業したら王国軍の魔法部隊に入りたい。それが僕の願いだと伝えたその年。
僕は本当に王立研究院に特待生として迎え入れられた。
ここからは全てが上手くいくような気がしていた。
三年で卒業して、僕は王国軍の魔法部隊に入った。学生時代からずっと攻撃魔法一筋で、軍に入ったので国のためになる攻撃魔法を考えた。
ピンポイントに殺したい人間だけを、それと気づかれずに始末する。いわゆる暗殺を遠隔でできれば。
これは素晴らしい思いつきだと感じた。やっぱり僕は天才だ。
上司に進言したけれど採用されなかった。愚かだ。この魔法が完成したらロロン王国は無敵になる。逆らう者は皆、容赦なくこの魔法で消せば良い。そんなこともわからないなんて。
同時期に入隊した者に、防御魔法に特化した人間がいた。それがギデオンだ。
僕の意見は却下されて、あいつの魔法は受け入れられた。
誰も傷つけたくないから防御魔法をがんばっているとへらへらしているあの男の周りはいつもみんなが笑顔だった。
僕の周りには誰もいなかった。
昔みたいにいじめてくるやつはいなかったけれど、仲良くしてくれる人間もいなかった。
辛くて夜中に枕を濡らしても、あの人も現れなかった。
また思い通りにならない日々が続いた。
イライラして、だけど魔法部隊では魔法で脅すこともできなくて。
僕を目の敵にしてくる同僚を隠し持っていた刃物で切りつけたら、軍を辞めさせられた。
かすり傷で大げさだと思った。
ギデオンは軍は向いていなかったから辞めると言ったら、みんなが残念がっていたのに。
僕が全部失ってから、あの人はやっと来てくれた。昔と全然変わらない姿で。
助けてほしかったと僕が言うと、理由はわからないけれど来られるときと、そうでないときがあるのだとあの人は言った。
来られたから、また良いことがあるよと言うあの人の言葉通り、あの子と再会した。
派手な化粧をしていたけれどすぐにわかった。
品のない男の情婦をさせられていたから仕方ない。こんなところで僕に助けてもらうのを待っていたなんて。
軍を辞めさせられたのはここに来るためだったんだ。
僕の経歴に、男はすぐに飛びついてきた。
つまらない貧乏人たちを痛めつける日々がやって来た。性欲を発散できるのは良かった。女を管理するチンピラたちに殴られたり、嫌味や文句を言われたのが鬱陶しく感じた。ここで一番強いのは僕なのに、身の程知らずめ。必ず後悔させてやると誓った。
男と時々やって来るあの子は僕が昔みたいにツヤツヤしてないから、僕だと気がつかなかった。
だから会うたびに男の目を盗んで口説いた。強い魔法使いになった僕に、あの子はやっぱり引け目を感じたみたいだった。
早く暗殺魔法を完成させて、何の気兼ねもなく僕のところに嫁に来られるようにしてあげないと。そう思うと研究もがんばれた。
いろんなことが楽しくなってきたのに、僕はクビにされた。
魔法も完成しない。どうして僕ばっかり嫌な思いをさせられないといけないのか。
憎い、憎い、憎い。
かわいそうにって、あの人は優しく慰めるように僕を抱きしめてくれた。
ギデオンに再会して、魔法が完成したのはそれから間もなくだった。




