あの子の憂鬱 1
あの子は鼻持ちならない子だった。
貴族でお金持ちで魔法が使える。それが自慢で、いつも威張っていた。
私はあの子が大嫌いだった。貴族でお金持ちで魔法が使えるかもしれないけれど、チビで太っていて、運動はできないし、服のセンスも悪い。
私は貧乏で、親もろくでなしだったけど、あの子にどんなに自慢されても負けたと思ったことは一度もなかった。
しばらくしてあの子の家が商売に失敗して夜逃げ同然にいなくなったとき、ざまあみろと思った。私の親も、酒の肴にしていたくらいだ。
そしてすぐに、あの子がいなくなったことはみんなが忘れた。もちろん私も。
特に仲が良かったわけでもないから当たり前だ。
だから大人になってあの子に会ったときも、全然気づいていなかった。
親がろくでなしだから、私もろくでなしになっていた。
顔と身体は恵まれていたから、貴族の愛人に収まっていた。別に愛していたわけではないけれど、お金に不自由しない生活は最高だった。
彼のところで働かされている女たちの犠牲の上に私の生活が成り立っていると思うと優越感もあった。私はあそこの女たちとは違う。何段も上の存在だ。
彼は恨みを買うことも多かったし、金づるが逃げ出したりもしないために腕の立つ用心棒を雇ったとは聞いていた。
痩せていたから気がつかなかった。
あの子だった。
あの子は私におかしなことを言ってきた。
こんな悪いやつらにだまされているとか。僕が助けてあげるとか。
嫌悪感しかなかった。
だけど魔法が強いと聞いていたから、下手なことを言って逆上されるのも怖くて、あの子を辞めさせてほしいと彼に頼んだ。そしたらあの子はあっさりクビにされた。
あの子が私の視界から消えてホッとしたのもつかの間。彼の小間使いのひとりが死んで、売春宿の主人が死に、右腕が死んで彼まで死んだ。
あの界隈では女たちの呪いだとか言われていたけれど、違うことを私は知っている。
あの子だ。
あの子がやったに違いない。だけど私にはどうすることもできない。
次はきっと、私が殺される。
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あの子に再会したのは、運命だったからだ。
まだ実家が裕福だった幼い頃、年の近い近所の子どもたちと遊んでやっていた。貴族でお金持ちで魔法が使える僕のことをみんな羨ましがっていた。
あの子はその中で一番かわいかったから、大人になったら妻にしてやると決めていた。もちろん、大人になっても美人だったらの話だけど。
それなのにあの子は遠慮がちで、多分、身分の違いを気にしていたんだろう。
親が事業に失敗して多額の借金を背負い、僕は田舎に住む遠い親戚に預けられた。
そこでの扱いは屈辱的なものだった。
その家の兄弟は僕をいじめた。その友達も僕をいじめた。大人も誰も助けてくれなかった。
でも僕には魔法があった。独学で攻撃魔法を覚えて、あの日試した。
死人は出なかったけれど、何人かは一生治らないケガをした。
僕をいじめたからだ。ざまあみろと思った。
因果応報なのにその日から僕はひとりぼっちになった。
兄弟の両親は僕を悪魔だと罵ったけれど、魔法で痛めつけたら寝る場所と食事だけは提供を続けた。
こんな貧相なところは嫌だったけれど、王立研究院の特別クラスに合格するまでのがまんだと思って耐えた。
軍人になったらたくさん人を殺したら褒められるはずだと思って王国軍の魔法部隊を目指すことにした。
そのためにも王立研究院に早く合格したかったのに、僕は四回も落ちた。
あの人が現れたのはそんな時だった。




