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ランドルフ王子の憂鬱 18

「天才魔法士と名高いクリストハルトさんにお会いできて光栄です」

「いえいえ」


 ボルマン中将が暑苦しく客に声をかけている中、アンネリーゼは推理に熱中していた。


(ギデオンさんが一番最初、ということに意味があるのでしょうね。多分魔法は完成していなかった。ギデオンさんを使って完成させた。遠隔魔法は的を大きくすれば難しいわけではないけれど)


 魔法も範囲も大きくして火の玉をぶつけるとか、水攻めにするなど、たいへんな量の魔力を必要とするが、できないわけではない。


 しかしアルタウス男爵は見事に心臓だけを貫かれていた。外傷もなかった。繰り返し行うことで、精度を上げていったと考えるのが妥当か。


 アンネリーゼはずっと引っかかったことがあった。


(あれだって似たような現象……。きっと条件は同じだわ)


「はじめまして、アンネリーゼさん。よろしくお願いします」


 中将に声をかけられて、アンネリーゼははっと顔を上げた。


「よろしくお願いいたします」


 一礼してから、再び考えようとするが上手く行かない。


 広い会議室に通された。作戦会議が行われるところだろうか。


「ここでしたら、外部に話がもれることはありません。盗聴などの仕掛けがないか、魔法のチェックも済んでいます」

「では早速ですが、お願いしていた魔法による要人の暗殺などを進言していた人物のリストを拝見できますか?」

「かしこまりました」


 アンネリーゼのお願いにボルマン中将はうなずく。そして副官に視線で指示を与えた。副官はすぐに薄いファイルをテーブルに置いた。


(ロロン王国軍の魔法部隊はまともな方が多いのね)


 危険人物の少なさに安堵しつつ、ファイルを手に取ってめくり始める。偏った思想を持っているとして、出世が見込めなくなり退役した者が多い。


 年齢や退役した時期、研究していた魔法などご詳しく記されている。


「この方の今はわかりますか?」


 アンネリーゼの思う条件に一番当てはまる人物の資料をボルマン中将に示す。答えたのは副官だった。


「申し訳ございません。そこにある通り、軍を辞めた後、職を転々として半年前は娼館の用心棒をしていたところまではわかっているのですが」


 職業に貴賤はないと言いつつも、軍の魔法部隊にいた経歴から考えるとずいぶん落ちぶれたと言わざるを得ない。


「こつ然と消えたのですか?」

「はい」


 なぜか副官が申し訳無さそうに答える。


(研究していた魔法と言い、ギデオンさんと同時期に在席していたのはこの人ぐらいですもの。まずこの人が犯人で間違いないでしょうね)


 あとは言い逃れのできない証拠を、つまりこの人物の魔法紋を採る。


「確かにこの者はギデオンと一番話していましたね。……と、申しますか、この者は気難しく、ギデオン以外とは上手くいかなかったと言うのが正しいかもしれません」

「ギデオンくんほど、あんなに心の底から良い人は珍しいからね」

「あの人柄だから、軍を辞めてランドルフ様の護衛になれたのだと思います」


 ボルマン中将とクリストハルトがギデオンのことを褒めあっている。ランドルフ王子とレイモンドも、うなずきながら話を聞いていた。


「この方は魔法部隊に執着がおありでしたか?」


 しみじみした空気の中、アンネリーゼだけは冷静に質問を重ねる。


「貴族だったのですが幼い頃に破産して一家離散となり、自分には魔法しかなかったと話していましたね。軍で偉くなりたいとも言っていました。魔法で暗殺するための技術の開発に固執するあまり周囲との衝突が耐えなくなり、そこにある通り、刃傷沙汰を起こしまして」


 ボルマン中将の中でこの人物はなかなか荒い気性の持ち主のようだ。

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