ランドルフ王子の憂鬱 17
人間に上も下もない。彼は穏やかな微笑みを浮かべてそう言っていた。
私は驚いた。
彼は私より下だと、ずっとそう思って生きていたから。この人は何を言っているのだろうと不思議に感じた。
彼は生まれもいやしいどころか、親が誰かさえわからない。
ただ、魔力は強かった。その一点でのし上がり、失敗した。
私はそう思っていた。私も浮き沈みの激しい人生を送っていたから。
この日、彼と街ですれ違ったのは偶然だった。久しぶりで、私は見た目もあの頃とは全く変わったのに、彼はすぐに私だと気がついた。
みじめだった。私の昔を知る人間とは会わないよう生きてきたのに。
今、何をして暮らしているのか。身なりが良いので気になって彼に問いかけた。それが失敗だった。
彼は知らぬ間に、ランドルフ王子の側近になっていた。
それを聞いて、私は自分自身が急に恥ずかしくなった。
どうして同じところで挫折を味わったのに、彼だけが再び浮上しているのか。
私の脳は理解することを拒んだ。
なぜ私だけが未だに泥水をすすり、地べたを這いずり回っているのか。
冷たい飲み物を片手に、ランドルフ王子がこう言った、ランドルフ王子とこんなことをした。
彼の自慢話など聞きたくなかったが、私も大人なので相づちは打った。腸は煮えくり返りそうだった。
どうして私がこんな格好をしているのかを、彼は全く聞いてこなかった。気を使っているのだろうが、それもまた腹が立った。
自宅へ行きたいと申し出ると、彼はあっさり連れて行ってくれた。疑うことを知らないのは昔からだ。
そんな彼の性質には虫酸が走る。
家の場所がわかったので、私にとってはたいへん都合が良かった。
まだ諦めていなかった、あの魔法を使うために。
いろいろな理由をつけて、彼の家にあったものを数点もらって帰った。物乞いは悔しかったが、魔法を成功させる可能性を上げるために仕方ない。
その日から深夜に私は彼の持ち物をひとつずつ試した。
三日目、遠くで私の魔力が爆ぜた感じがした。成功した。そう確信した。
朝になって彼の家へ様子をうかがうに行くと、人が入れ代わり立ち代わり、騒然としていた。
野次馬に尋ねると、どうもここの住人が死んでいたらしいと教えてくれた。
胸がスッとした。私をバカにしたからだ。私を憐れんだからだ。笑いをこらえるのがたいへんだった。
この成功を詳しく検証し、私を傷つけたゴミどもの掃除に着手しよう。
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秘密の話は誰でも気軽に立ち入れる場所でしない方が良い。
しかし、資料がなければ知りたいことがわからない。
ロロン王国軍の基地に、ランドルフ王子一行はお忍びで訪れた。
個人的な面会なので、一部の人間にしか知らされていない。
出迎えはボルマン中将が自ら来てくれた。事務能力に長けていそうな副官を伴っている。
ボルマン中将は赤毛のライオンのたてがみのような髪型で、身体も大きい男性だ。レイモンドより大きい。歴戦の勇士という雰囲気が漂う。
「無理を言って申し訳ない」
「とんでもない! ランドルフ様のお願いです。それにギデオンの弔い合戦ですから」
(ボルマン中将は情の厚い方のようね。それにしても、ギデオンさんはやっぱり良い人のようだわ)
ギデオンは軍を離れてずいぶん経つのにこんなふうに言ってくれる人がいる。
それなのに他人を喰い物にしていた人間たちと、どうして同じように殺されたのか。アンネリーゼは考えていた。




