ランドルフ王子の憂鬱 13
「死んだんだろう、あいつら。親玉まで。おおかた、女たちの怨念に呪い殺されたんだろう。いい気味さ」
「ご存知でしたか」
(ずいぶん早耳ね)
アルタウス男爵が死んだのは今朝だ。大店だけあって、情報屋も抱えているのだろうかとアンネリーゼは推測する。
(アルタウス男爵は親玉……)
重要なピースの逃さないよう、脳内でパズルを組み立てる。シルバーの言っていた死者たちはつながりがあったようだ。
「で、お嬢様はあんなゲス共の話なんて聞いてどうするつもりだい?」
値踏みをするような遣り手の目。遣り手にまでなった人間を相手に小手先のごまかしは通用しない。アンネリーゼは正直に話した。
「犯人を見つけたいのです」
「犯人?」
「はい。彼らは殺された可能性が高いです。遺体は火葬されているので断定はできませんけれど。ですが、今朝亡くなったアルタウス男爵は何者かに殺害されたと見て間違いありません」
今はアンネリーゼの協力者の報告待ちだ。
「……あんた、あいつらの仲間かい?」
遣り手の両眼が鋭く細められる。
むき出しの敵意に、アンネリーゼは胸を張って、あえて余裕のある笑顔で応えた。
「まさか。探偵のようなものと理解してください。こちらの領分を侵すつもりはありません」
「探偵って……」
遣り手は腹を抱えて笑い始めた。
「あんた正気かい? あんなもんは物語の絵空事だよ」
「正気です。彼らは悪人だったかもしれません。ですが殺してしまっては、犯人も同じ穴のむじなです」
目尻に溜まった涙を、遣り手は装飾を施した指先を傷つけないよう気をつけて拭う。
「綺麗事だね」
「探偵は綺麗事でできているものです。彼らはどのような悪事を働いていたのか、教えてください」
目の前の女性が高い天井を見上げたので、アンネリーゼはそれに倣った。
「お嬢様はどうしてこの店がこんなに大きいかわかるかい?」
「皆さんここで生活なさっているからでしょうか?」
淡々と答えるアンネリーゼ。遣り手は鼻で小さく笑ってからアンネリーゼの言葉を肯定した。
「そうだ。だけどそれには理由がある」
「きちんとした娼館は、教育や教養を与えてくださると何かの本で読んだことがあります」
アンネリーゼの答えに遣り手は目を丸くした。
「あんた、良く知ってるね」
「本気で探偵を目指してますから。この世界のいろいろなことを調べています」
アンネリーゼは得意げにならないよう、感情を押し殺して淡々と話す。
エリヤは穏やかな双眸でアンネリーゼを見守っている。内心はお嬢様、完璧ですと賛辞を送っていた。
遣り手は大きなため息をついた。
「あんたぐらいモノを知っていれば良いんだけど、私を含めこんな世界に堕ちてくるのは大抵学がない。字の読み書きすらままならないのが多いさ。それじゃあこの店では勤まらない」
一流の娼婦を置く店は客も選ぶ。暗黙の了解で、互いに互いを守るためのルールでありマナーだ。
「こんな仕事、一生できるわけがないからね。将来一人でも何とか生きていける力をつけさせるのが、この店のこの界隈で一番な理由さ。育てるのに金がかかっているから、確かに最初はほとんど給料はもらえない。だけど寝る場所と食べ物はあるんだ。勉強までさせてもらって。オーナーを良い人間とは言わないが、悪徳とは私は思っていないよ。借金を返し終えたらこうやって遣り手として雇ってくれてるんだから。そのありがたみに、バカだから気づかないのも多い。あいつらが狙ったのはそういう子たちだ」
遣り手の表情に悔しさがにじんだ。何人も救えずにこぼれていったのだろうとアンネリーゼは推察する。
「もちろん、別のルートもあるさ。そっちはチンピラに貢ぐ子を引っ張るやり方だから、感情に振り回されたらあっという間に転落だよ。顔の良いろくでなしを集めてたからねぇ」
遣り手はちらりとエリヤを見やる。
「あんたほどのとびきりの男前がここにいてくれたら、みんなあんなやつらに惑わされずに済むよ」
「私はお嬢様のものですから」
「彼を手放すつもりは毛頭ございません」
くくっと喉の奥を鳴らすよう遣り手は笑う。
「おお、怖い」
大げさに肩をすくめて見せた。
「最初こそ高い給金をチラつかせるけれど、すぐに男やクスリで巻き上げられる。そういうシステムをあいつらは作っていたんだよ」
遣り手は吐き捨てるように言って口元を歪めた。




