ランドルフ王子の憂鬱 10
レイモンドがひとり廊下に出て扉を閉めた。
「もうみんな教室に戻るんだぞー」
ランドルフ王子の謁見の時間はこれで終了だ。
解散するように言われ、ランドルフ王子を見に来た生徒たちはキャッキャッ騒ぎながら退散し始めた。
しかし、去る様子を見せない者がふたり。
フロランスと、同じ制服を着たあか抜けない少女がてこでも動かないと仁王立ちしている。
「ええと、ね……」
言葉を選んでいるレイモンドにフロランスは掴みかかる。
レイモンドは習性でつい身をかわしてしまった。バランスを崩したフロランスはびたんと顔面から転ぶ。
「あ……。その、ごめんね」
「どうしてなの……? どうしてなのよ……っ!」
転倒したショックもあり、フロランスはぽろぽろ涙を流し始めた。
「あんな変人がランドルフ様に選ばれるなんて! 私はずっとお慕いして、選ばれる努力をしているのに!」
フロランスが廊下をダンダン握り拳で殴るので、手を傷めないかレイモンドは心配になる。
「アンネリーゼさんは研究熱心だからなぁ」
ポツリとランドルフ王子の護衛がもらした言葉に、フロランスは勢いよく顔を上げた。
「ランドルフ様は勉学に励む女性がお好きなの⁉」
「うーん……」
本当のことは言えないので、レイモンドは言葉を濁して苦笑いを浮かべる。
「はー、そうなんだべか」
のんびりした口調と独特の声に、フロランスとレイモンドは拍子抜けさせられる。
「王子様は頭の良いおなごがお好きだったか……。あのお人の言う通りにしてたら出会えたから、運命の人だと思ったんだがね」
寛容なレイモンドでさえ、このふたりは図々しいと思う。
「あんたみたいにどこの馬の骨ともわからない田舎モンがランドルフ様を運命の人だなんて、百万年早いわよ!」
「お前さんはとんでもなくめんこいのに、口が悪いんだべなぁ」
くりくりした大きな瞳はおもしろいおもちゃを見つけたように輝いている。
フロランスは真っ赤になって逆上した。
「余計なお世話よ!」
焼けた溶岩のように赤い顔のフロランスからレイモンドへ少女の興味は移っていた。
「お兄さんは、王子様のお付きの人だべ?」
「そうだが……」
少女が何を言い出すのか、レイモンドは警戒する。
「やっぱり都会はすごいねぇ。こっちに来たばっかだけど、本物の王子様やそのお付きの人を見られるなんて思ってなかったべ」
ロロン王国の北方独特のなまりがある話し方の少女は、目をキラキラ輝かせた。
「転校生なのか?」
「いんや。新入生だ」
新入生と言うことは、アンネリーゼと同時期に入学している。来たばかりといえば来たばかりだ。
「王立研究院に入るために上京したのか」
「んだ。都会は怖いから行きたくなかったけども、おっかあの願いだったべな。怖い人もいるけんど、親切な人もいるだ」
人情話に弱いレイモンドは少し感動していた。
「寂しくて泣いてたら、無料でもんげー占いばしてくださって、言う通りにしてたらホント良いことばっかり起きるようになったんよ」
「占い?」
「んだ。なーんか薄ぐれぇ場所で、怖い人に絡まれて困ってたら助けてくだすった」
薄暗い場所というのは、娼館の集まる一角のことだと予想したレイモンド。多分男爵の件と関係ないとは思った。だが、もしものことがあってはいけない。
「……一応、アンネリーゼさんに詳しく話してくれるか?」
「王子様の婚約者と話せるべか⁉」
少女は興奮した様子を見せた。




