ランドルフ王子の憂鬱 8
憲兵たちに後を任せて、ランドルフ王子一行はアルタウス男爵家から王立研究院へ移動することにした。
手に入れた証拠や情報を整理したいというアンネリーゼの希望だ。
「軍の魔法部隊に?」
「はい。できればギデオンさんのいた頃の話を聞かせてくださる方をご紹介ください」
「承知した。執事に頼んで手配してもらうよ」
ランドルフ王子の双眸には覚悟を決めた光が宿っていた。クリストハルトをまねたヘラヘラした態度が薄まっている。
アンネリーゼはどうしたのだろうと首をかしげた。
できるだけ人目につかない道を選び、一行は研究室へ戻った。つもりだった。
「あれは……」
ほうきを持った少女の視線はランドルフ王子に釘付けになった。
ただ歩いているだけの姿なのに、ランドルフ王子はキラキラ輝いている。彼女の目にはそう映る。
見つめる少女の瞳もキラキラ輝きはじめる。
「これが運命ってことだったんだべか」
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「では、一息入れましょうか」
クリストハルトは笑顔で立ち上がる。
アンネリーゼの作業にクリストハルトが助言を与えるだけなので、王子や護衛たちは参加する必要はなかった。しかしランドルフ王子の希望で同席していた。
集中の解けたアンネリーゼは大きく伸びをする。
シルバーからアルタウス男爵以外に同じような状況で亡くなっていた三人の情報も教えてもらった。
三人とも性別は男性。平民がふたり。ひとりは売春宿の主人。もうひとりはスラム街のチンピラ。
三人目は子爵。裏社会とつながっていて、麻薬で一財産築いて爵位を金で買ったとうわさされている人物だ。狡猾な人物で、憲兵団の捜査の手を巧くくぐり抜けている。
時系列で並べると、一番最初に亡くなったのはギデオンだ。次に売春宿の主人、チンピラ、子爵、そしてアルタウス男爵。
ギデオン以外はいわゆる悪い人間と評されるような人々ではあるが、彼らが狙われた理由はあるのだろうか。
しかしどうしてもギデオンの存在がどうにも引っかかる。ランドルフ王子やクリストハルトの話を聞く限り、実は裏の顔がありましたとはならない人物のような気がする。
(やっぱり鍵は軍の魔法部隊……)
アンネリーゼは推理する。遠隔魔法で殺す技術。これが誰でも使えるなんてことになったら大変だ。
もしも軍がそんな研究をしていたら。
(……それはとんでもなくマズイわ)
まずいが、現に使っている人物がいる。発動させる条件を探らなくては。
(そうだわ。オードリーさんの赤ちゃんだって……)
あれの応用だとアンネリーゼは気がついた。お腹の中の赤ちゃんが持つ情報。
(……音?)
どうにもしっくりこなくて、アンネリーゼは頭をひねる。後でクリストハルトに相談しようと決める。
売春宿は情報が取りやすそうだが、王子を連れて行くわけにはいかない。でもアンネリーゼを相手に何か教えてくれるだろうか。
そんなことを考えいてふと、研究室の外が騒がしいことに気がついた。
レイモンドとブラントも異変に気づいていたようで、出入り口へ近づく。
ブランドは眉根のひとつも動かさずに剣の柄に手をかけた。
ドアに耳を当てたレイモンドは顔を血相を変える。
「ランドルフ王子……!」
小さな声で叫び、王子へ踵を返す。
「王子がここにいることに気づかれているようです」
「仕方がないね」
ランドルフ王子はすっくと立ち上がった。




