ランドルフ王子の憂鬱 7
「知っていること、気づいたことを話していただきましょうかね」
アルタウス男爵の屋敷で一番広い部屋にランドルフ王子一行、アルタウス男爵の家族、ふたりの憲兵は移動した。
シルバーが話を聞こうと切り出すと、ローワン、男爵の妻、男爵の娘がそれぞれに顔をそむける。
「昨夜は誰も訪ねてきたりはしておりません……」
蚊の鳴くような声で男爵の妻が答える。突然のできごとに憔悴しているだけではないやつれ方だ。
「お父様がいなくなって、悲しいのはお兄様ぐらいだと思いますわ!」
ローワンとそっくりな、気の強そうな少女が語気強めにシルバーに言った。おそらく妹だろう。強い口調とは裏腹に、両目は今にも涙がこぼれそうになっている。
妹の剣幕に兄は青い顔でうろたえていた。
「どんなお仕事をされていたのか私はわかりませんけれど、真っ当なお仕事でないことくらいはなんとなく察していました! 昼間からあまりよろしい感じのしない女性を連れて歩いているところも見たことがあります! アルタウス男爵家はもともとお母様のお家だったのに!」
(逆玉の輿と言うやつね)
アンネリーゼとローワンの妹の年齢は同じくらいだろう。
父の浮気現場を目撃したのは、さぞ気分が悪かったと思う。
「お母様を叩いて蹴って、言いなりにさせていたのも知っていました。だけど……」
涙が一筋こぼれたことで張り詰めていた糸が切れたのか、妹はうつむいて号泣を始めた。彼女がこれ以上話すことは難しいと思われる。
新人憲兵が傍らへ行き、優しく肩を叩いて慰める。
「お兄ちゃんは知ってたのかい?」
シルバーは器用に目をすがめてローワンを見る。
堂に入ったいぶし銀憲兵の姿に、アンネリーゼは内心喜んでキャーキャー騒いでいた。もちろん、表面上はすまし顔でいるが。
「し、知りません……」
昨日のゾーイに対する態度とは全然違う。
自分より強そうな相手にはヘコヘコするタイプのようだ。知れば知るほど、アンネリーゼの嫌いな種類の男。
「だけどお兄ちゃんだけはお父さんが好きだったんだろう? いい思いさせてもらってたんだろ?」
「いい思いなんて、そんな……」
絶対にシルバーと目を合わせないと言うローワンの強い意思を感じる。
ローワンはしきりに瞬きをして、唇をなめる。冷や汗もかいていた。
(この家に犯人はいないわ)
遺体を解剖していないので想像でしかないが、苦しんで死んだようには見えなかったので心臓を一息に潰されるような即死だったとアンネリーゼは考えている。
魔法は外から飛んできていたし、この家にそんな魔法を使える人間のいる様子はない。かすかに残っていた匂いも違う。
これ以上の情報は期待できないと興味を失う。アンネリーゼはひとり思考の海に漂い始めた。
(ロロン王国軍の魔法部隊)
アンネリーゼの勘が、調べるならそこだとささやく。
シルバーの言っていた悪党たちが次々に死んでいる話も気になるが、まずはそちらの線を当たりたい。
(手の甲の魔法も気にはなるけれど、直接の死因とは考え辛いわ。きっと何か意味があるから残されているのでしょうけれど)
軍に乗り込むとなると、ランドルフ王子の力を借りるしかない。
アンネリーゼがちらりと視線を上げたことに、エリヤが目ざとく反応した。
「危ないことですか?」
「今はまだ大丈夫よ」
小声でささやきあう。
不敵な薄い微笑みを浮かべるアンネリーゼを見て、エリヤは誇らしくなる。シュツルム家で暮らし始めてアンネリーゼを守ると決めた時から、彼女だけを見つめていた。
「どこまでもついて参りますので」
「期待しているわ」




