ランドルフ王子の憂鬱 6
大きな足音がいくつも響く。
レイモンドが憲兵をふたり連れて戻ってきた。
「またかい」
いぶし銀、と言った表現がしっくりくる老年の憲兵がアンネリーゼとクリストハルトに歩み寄る。
若い新人憲兵はランドルフ王子を見ておろおろしていた。
いぶし銀憲兵に振り向いたアンネリーゼの両眼がキラキラ輝いた。
「また、と申しますと?」
クリストハルトの問いかけに、ベテランは小さくため息をつく。ガシガシと乱暴に頭を掻いた。その仕草にアンネリーゼはときめく。
「このひと月で、この貴族サマみてぇな黒いうわさのある人間が他に三人死んでる。みんな自宅で、朝、家族やメイドに発見されてな」
「黒いうわさとは?」
「この男爵サマはとんでもない高利貸しだって話で、返済に困った若い女をもてあそんで売り飛ばしてた、らしい。どうにか証拠をつかんで懲らしめられないかとこっちで調べていたんだがなァ」
(べらんめえ口調も素敵……)
うっとりしながらアンネリーゼは憲兵とクリストハルトの会話を聞いていた。いかにもたたき上げな雰囲気がアンネリーゼをキュンキュンさせる。
「他の三人も、薬だなんだとキナ臭いのになかなかシッポを出さなくてな」
昨日のできごとから考えるに、ここでローワンがわめかないことにアンネリーゼは違和感を覚えた。
「どうして反論なさらないのですか?」
エリヤとランドルフ王子の後ろで青い顔をして小さくなっているローワンに声をかける。
「な、何も知らない……」
力なくつぶやくローワンが後ずさると、そこにはレイモンドが立っていた。逃げ道はない。
ヘナヘナと床に膝をついたローワンの隣で若い憲兵がまたおろおろする。
頼りない新人にベテランは小さく舌打ちをした。
「後でいろいろ聞きたいから、逃げないようにふん縛っておけ」
「は、はいっ!」
命令に飛び上がった新人憲兵はローワンに手錠をかけてしまう。
エリヤとランドルフ王子はあまりに頼りない新人憲兵に不安を覚えた。
「手錠を使うな!」
「は、はいぃ!」
ベテラン憲兵もがっくりと肩を落とす。
一呼吸置いてから、いぶし銀はアンネリーゼに向き直った。
「副団長の娘ってのはお嬢さんかい」
個人情報をレイモンドが勝手にベラベラしゃべったようだ。それは後でとがめないといけないが、この憲兵に話しかけられたことはアンネリーゼにとって嬉しいことだった。
「はい! アンネリーゼと申します。お名前をうかがってもよろしいですか?」
「シルバーだ」
「シルバーさん……」
(これまでどんな憲兵人生を送って来られたのかしら)
迷子の子猫を助けたり、迷子の子どもを助けたりしたのだろうか。凶悪犯と格闘した経験もあるかもしれない。アンネリーゼはシルバーの過去を妄想して思いを馳せる。
「これ以上首を突っ込むのは止めておきな。お嬢さんがこれを事件だと見抜いたって話が広まったら、お嬢さんが危険だ」
「問題ありません。すでに防御してあります。これは私が受けた依頼です」
どんなに素敵な御仁の忠告でもこれは受け入れられない。
自称名探偵の辞書に、おとなしく引っ込むなどという文字はない。
シルバーの目をじっと見つめると、ニヒルな笑みが深いしわの刻まれた顔に浮かんだ。
「そうかい。なら仕方ねえなぁ」
アンネリーゼも優雅に微笑み返した。




