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ランドルフ王子の憂鬱 4

「アルタウス男爵が⁉」


 報告を受けたランドルフは珍しく驚いた様子を見せた。


「間違いないのかい?」

「レイモンドの報告なので、間違いありません。自宅で亡くなっていたそうです」


 スラリと背の高い、執事のエルキュールがランドルフ王子にいたって冷静に、事務的に告げる。


 昨夜、王宮に戻った王子は早速、アンネリーゼを婚約者候補としたい旨、ついては王宮に自由に出入りさせたいと両親に伝えた。


 突然の申し出に、国王も王妃も驚いた様子だった。これまでランドルフからこの手の話を聞くことはなかった。ランドルフと結婚したいと申し込まれることは多数あったが、どれも王子自身が首を縦に振ることはなかった。


 アンネリーゼは憲兵団副団長の娘と言う身元のはっきりした人物なので、候補として問題はないと許しを得た。


 それから部屋に戻り、ランドルフ王子の独断でアルタウス男爵をけん制する書簡を用意した。


 このような行いは初めてのことだったので王子は緊張した。作成はエルキュールにずいぶん助けてもらった。


 助詞のひとつさえ揚げ足を取られぬように、細心の注意を払った。

 王子の行動はわずかなミスでも命取りになると自覚している。国王に迷惑をかけるわけにはいかない。


 時間をかけて完成させた書簡を今朝、レイモンドが携えてアルタウス男爵家を訪ねた。しかし家の様子がおかしく家人に話を聞いたところ、アルタウス男爵が動かないのだと言う。


 レイモンドは身分と用件を明かし、屋敷の中へ入った。寝台に横たわるアルタウス男爵をひと目でおかしいと感じ、すぐに医者を呼ばせた。


 駆けつけた医者がアルタウス男爵の死亡を確認した。その左手の甲に謎の紋を見つける。


 レイモンドは何も動かさないように指示をし、すぐに王宮に戻りエルキュールに事の次第を伝えた。


「すぐに向かおう。今日の予定は全てキャンセルする。クリストハルト先生とアンネリーゼさんにも連絡をしてほしい」

「承知いたしました。王立研究院へは、すでにレイモンドが向かっております」


 ランドルフ王子はうなずく。側近たちは命令がなくてもランドルフの意思を理解し、先回りの行動を起こしてくれる。


 部屋の端に控えるブラントにランドルフは目配せをした。


 王子の動きに応えるようにブラントも歩き始める。


 ふたりはアルタウス男爵家へ急いで馬を走らせた。



 ✙✙✙✙✙✙✙✙



 レイモンドが駆けつけ、アルタウス男爵家へ行くよう要請を受けたアンネリーゼとクリストハルトは馬車で訪れた。エリヤも馬で後を追ってきた。


 すでにランドルフ王子とブラントも到着していた。


「お前は、昨日の……!」


 長男のローワンが王子たちと共に玄関にいた。泣いていたようで目が赤い。


「彼女は専門家なので来てもらったんだ。男爵に会わせていただけるかな?」

「専門家?」


 ランドルフ王子のお願いを、ローワンはいぶかしく思いながらも断ることはできなかった。


「ここです。側近の方に言われた通り、何ひとつ触れていません」


(まさか、こんなに急展開になるなんて)


 アンネリーゼは緊張しながら一歩踏み出す。


 部屋にはいくつかの臭いがあった。ひとつは死臭だろう。腐乱しているわけでもないのに、すでに漂っている。鼻をつまんで臭いを遮断したい。


 しかし気にしているのはアンネリーゼだけのようだ。鼻が利くのも考えものだ。


 内心は恐る恐るだが、周囲にそうとは気づかれないよう背筋をピンと伸ばしてアンネリーゼは寝台に近づく。


 初めて見る人間の遺体にアンネリーゼは恐れを抱いていた。

 しかしこれは乗り越えなくてはいけない。物語に出てくるような名探偵になると決めたのだから。


 寝台に横たわっている遺体は、本当に眠っているようだった。それにアンネリーゼは少しほっとする。


(……って! ほっとしちゃいけないのよ! この先どんなぐちゃぐちゃなのとか首がないのとかに出会うかわからないんだから!)


 動揺が面に出ないのが救いだった。クリストハルトやランドルフ王子になめられたくない。


 感覚を研ぎ澄ます。死の臭いの中に、確かに魔法のそれも感じた。


 左手の甲にあるイモムシような絵を描いたミミズ腫れ。


(これがランドルフ王子の言っていた、謎の紋様かしら)


 捜査に集中し始めたことで、余分な緊張も解けてきた。

 そこで見逃してはいけない情報に気づいた。嗅覚が教えてくれる。


 紋様に魔法紋の浮かぶ液体をかけ、心臓の辺りにもかける。


「何を……!」


 アンネリーゼに掴みかかろうとしたローワンを、エリヤとランドルフ王子が同時に取り押さえる。


 ふたりの鋭い視線にローワンはひるんだ。


「手に残る紋様と、心臓を止めた魔法の使い手は違う人間です」


 手の甲と左胸には違う魔法紋が浮かんでいた。

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