【大阪のおかんの異世界転生】食材を買いに出かけたらトラックで轢かれたんやけど私こんなん分からんで?~始まり~
今日はあっちのスーパーの方が安いわぁ。
毎日欠かさずチェックしているスーパーのチラシに目を通して買い物リストを頭の中で決めてと。
台所から廊下に歩いて畳の居間で寝転がる息子に一声かけよかな。
「ほな大樹、お母さん行ってくるで」
「どこに行くねん」
「どこって信号渡ってすぐん所のスーパーやないの」
「なんで当たり前みたいな顔してんねん」
「そんなん、夕方にお母さん出かける言うたらスーパーやないの」
「いや、知らんて」
「もー……全く、テレビの音もうちょっと小さしときや。あと、煎餅のカスこぼさんといてな」
「……うっさいわぁ」
今の所だけ聞き取られへんかった。
「今なんて言うたん?」
「おかん、お菓子」
「なぁにが、お菓子、やの。えっらそうに言いよって。お母さん悲しなるわ」
「そんなんええから」
「はいはい、飴ちゃんでええな」
「カウビーのポテトチップス」
「何を贅沢言うとんねんな、飴ちゃんしか私は買いませんっ」
「飴ちゃんなんかいらんて!」
「ほなな」
「あ、待って――」
ピシャッと襖を閉めてそそくさとスリッパを履いてお出かけ。
「もう、外も暑なってきてるわぁ。嫌やわぁ。私、夏だけはあかんねん」
一軒家が建ち並ぶ道を右に行ったり左に行ったり。
信号の向かいに目的のスーパーが見えた。
「信号待つだけでもしんどいわぁ……」
視線を右に左に泳がして見ても誰もおらへん。
「信号待ち暇やわぁ」
プ――――――――!!!!!
「なんやのぉ! でっかいクラクション鳴らしてぇ!」
音の鳴る方にキッと顔を向けて――
「え、そんなんまさか――――――――――――」
~********~
「……おお、勇者よ、目覚めるのです」
なんやけったいな起こし方……。
「なんやの急に……お母さんも忙しいねんからぁ……」
あぁ、もう……膝も腰もガタが来よるわコレ。
「って……ココどこやねん。私信号待ちしてたのにいつの間に連れて来たんよっ」
真っ白な部屋で、こんなん大樹のテストの答案用紙やないの……。
「お、おばさん……だと」
「連れて来といて何言うてんの、早く帰して――ってあんた男前やないの!」
目の前に居る韓流スターっぽい子の顔がよく見たらイケメンやんか!
変な白い麻布みたいなん体に巻き付けとるけど、多分スーツの方が似合うと思うわぁ……。
「でもあんた、そんな長い黒髪垂らして女の子みたいやな。うちの近くに良い床屋さんあるから紹介したろか?」
「え、いや、大丈夫です……」
「なんも遠慮せんでええんやで。私から言うたるから。まけといてって♪」
「そ、そんなことよりも勇者? よ」
「さっきから勇者勇者言われても、私ただのおばさんやて」
韓流スターが気まずそうな表情で目線を泳がせとるわ。どうしたもんやろか。
「あ、そうやそうや、カバンの中に飴ちゃん入ってるからあげよか」
「え、いや、大丈夫で――」
「そんな遠慮せんとほら、はい、あげる♪」
「あ、ありがとうございます……じゃなくてっ」
「なんやのー、あんたみたいなイケメンに肩掴まれたら照れるやないのぉ」
「貴方には私の世界に来て頂きたい! そして、私の世界をどうか救ってください!」
「あんたさっきから何言うてるんか知らんけど、おままごとなら別んとこで友達とやりなさいよ。おばさんスーパーにネギ買いに行かなあかんねん」
「ネギと私の世界どっちが大切なんですか!」
「いっつも200円のネギが98円になる方が大切に決まってるでしょが!」
「え……」
「ほら、タイムセールも終わっちゃうやんかぁ……はよ帰してーなー」
「……」
なんや、急に真剣な顔しよってからに……。イケメンやないの♪
「貴方はもう戻れません」
「それはあれかいな、告白みたいなやつか――」
「いえ、違います……」
「えらい早い返しやないの」
「聞いてください! 貴方はトラックに轢かれて死んだのです!」
「そんなアホなこと言わんといてっ」
「これを見てもまだそんな事が言えますか」
「なんよ急に……」
急に現れた映画館のスクリーンみたいな壁に私が映ってる。
「あんたコレ手品かなんか?」
「いや、もうそこは気にしないでください……」
「おばさん、こういうの珍しいから。未だに家のテレビブラウン管やって、今質屋に流したら高いんちゃうかーってお父さんに言うてんけど人の話まったく聞いてくれへんねんで? どう思う?」
「い、いいからモニター見てください!」
「はぁ、これモニター言うんかぁ」
「いいから!」
「はいはい、おばさんイケメンの言うことだけは聞くから」
「私が映ってるやないの。んで……トラックのクラクション鳴って私逃げずに立ち尽くしてるやないの……あらぁ……これ俗に言うゲームオーバーちゃうか?」
「え、ええ……その通りです」
「うわぁ、まだ家のローンとか養育費の積み立てとか残ってたのにどうすんのぉ……。お父さん一人やったらそんなん見てられへんで?」
「私に聞かれても……。ただ一つ、戻れる方法があります」
「ふーん、一応聞いとこか」
「私の世界を救ってくださればこの世界に生きて戻してあげられます」
この子の世界とかよう分からんけど、生き返ってまたおばちゃんからスタートっちゅうんもなぁ。
戻れる言われてもなぁ。死んだらそれまで思うてたし、もうええんちゃうか。
「いや、別にええわ」
「なっ!」
「だって戻ったかて毎日スーパーのチラシ見てご飯作って掃除して洗濯して、洗い物して、煎餅と飴ちゃん舐めてるだけやもん。ドラマ見てな?」
「で、では、私の世界を救ってくださらない……ということですか?」
「まぁ、暇潰しに行ったろか」
「ひ……暇潰し……」
韓流スターの顔がちょっと曇ったやないの。言い過ぎたんかいな私。
「ごめんやでお兄ちゃん、やることないからおばさん行かせて頂きます」
「あ、ありがとうございます……」
「なんやの、おばさんじゃ不満か? そんな顔しとるで」
「い、いえ、そんなことは……」
「ほな、はよ連れて行き」
「はい……」
いやぁあああ! イケメン韓流スターみたいな子に頭触られてるやないの私っ!
「汝、我が魔の力にて世界を越境せし者とす……」
「なんや、よう分からんこと急に」
「黙っててください!」
「はいはい、お口チャックチャック」
「…………彼の者を我が盟約においてオーサカに移転!」
「え、大阪?」
――見上げようとした時、めっちゃ眩しい光に襲われてなんも見えんようなった。