7話
複数の荷車を馬に曳かせてキリクスたちは目的地へとたどり着いた。
今日の野営地はシェフィールの中でも端にある地区である。ある程度の地位がある者は宿に泊まっており、それ以外の兵士や同行者は人数が多いため、比較的安全な場所で野営を行っている。
今回の目的は、とある大臣の国内視察だ。大臣らを守るために魔術師を含む兵士らが同行している。
事前に計画されている視察だったため、もともと食糧は必要な分だけ用意していた。しかし、出発してから一行の中に密偵が紛れ込んでいることが分かり、捕まえて処分をした。その密偵が食糧管理担当者だったため、念のため毒に警戒して新たに食料を補充し直したのだった。
幸い密偵の目的は大臣の暗殺などではなく、視察に関係する交渉を少しでも有利にするため情報をつかもうとしていただけだったため、手引きしている人間や依頼した富豪とのつながりも判明した後は視察は予定通り行うこととなった。
同行していたキリクスは怪力の便利屋魔術師として一応信頼があるので、食糧の補充のために別行動をした、というのが今日の昼間のことである。
夜になり、野営地では兵士たちが葡萄酒を飲んでいた。酒は景気づけや娯楽になるだけでなく、水より腐りにくいためこういった任務では必須の飲み物である。今晩見張りの任のない兵士たちが集まって火を囲んでいた。
「まさかあそこでくしゃみが原因で荷車を壊すとは思わなかったよ」
「いやぁ穀物をいくつも背負ってたら、重さは大丈夫だったんだが細かい粉を吸い込んじまったみたいでな。数が多かった分、粉が多く出たんだろうよ」
その時のことを思い出してキリクスは豪快に笑った。
魔術師に興味を持っていて声をかけてきた町の少年の話もした。
「しっかし不思議だったんだよな。町の少年が帰るときに握手をしたんだが、その時急に力が抜けて危うく樽を落としそうになった。落としてたら今飲んでいる酒も樽ごとダメにしてたかもしれねえ」
周りの男たちが楽しみを奪われるところだったなぁとキリクスの背中をバンと叩いた時、
「その話、もう少し聞かせてくれないか?」
と、低い男の声がして、兵士たちの会話が止まった。
キリクスが振り返ってみると、黒と茶の大型の猟犬を連れた魔術師らしき男がキリクスの背後に立っていた。周りが暗いので判別しにくいが、若くて髪は黒っぽくて短く、足首まである黒いローブを身に纏っている。魔力の種類にもよるが、基本的に兵士と違って魔術師は動きを妨げないように鎧の類を身に着けないことが多い。
「ええと、あんたはどちらさんで」
「私はベイジルという。護衛魔術師の一人だ。同じ町で似たような話を最近耳にしたので詳しく聞きたい」
シェフィールがうっかり実在の地名になる前(語尾にドを足すだけ)に次の舞台へ旅立ちたい




