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魔力が見えないはずなのに  作者: ツカサ
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5話

例の魔術師の卵探しからしばらく経過したある日のシェフィールの午前中。


ディルは自宅で机に向かって書き物をしていた。

いつも通り焦げ茶でくせの少ない髪を首の後ろで一つに結んでいる。着慣れたV字の襟ぐりの上衣に七分丈の下衣を履いている。同年代の中でもやや細身で背が高いディルは、今日もすっきりとした印象を受ける。


騒動に巻き込まれた詫びとして王城から贈られるという褒賞の中身については、当初の通り万年筆と紙とインクという文房具一式を希望した。それが届いたのは二日前である。


届いたときはとても興奮した。まず箱からして品がある。木箱にもランクがあるのだと、商人の家の子となって四年が経過しているディルは思った。

庶民の子どもが持つには高級すぎる万年筆はずしりとした重みがあり、試しに家にあったインクをつけて書いてみると、これまで経験したことがないくらいサラサラとした書き心地で感動した。これはディルの宝物となった。


紙もディルが想像するよりも上質で量も多かった。ドリーとマリィに商売でも使うことを提案したら、それはディルが褒賞でもらったものだから大切に使いなさいと言われたので素直に頷いた。


また兄妹がいると、誰か一人がいいものを持っていると取り合いになって兄弟ゲンカに発展することだって大いにあり得る。

しかし品物が文房具であるからか、最年少のソフィも使いたがったのは最初の一回くらいであったし、そもそもディルたちは常から平和的解決をすることが多いため、特にそういったこともなかった。


「また書いてるー」

ソフィがやってきた。何を書いているのか気になって机の上を覗き込んだ。


この国では、学校に通う子どもというのは裕福な一握りの家庭や将来兵士や魔術師として活躍することが決まっている子どもだけである。

そもそもシェフィールには学校もない。学校に通うとなったら王都や大規模な街にある学校へ、寮生活をしながら通うことになる。

ディルはこの町の図書館で国の歴史や文化の本を借りて紙に書きつけたりして勉強をしていた。最初は誰かに教えてもらいながらやっていたが、ある程度上達するとできることの幅が広がって独学で勉強するようになった。ちなみに物語を読んだりもするし、商売の手伝いもするから計算もできる。


だが、ディルが今やっていたのは勉強ではない。いや、ある意味社会勉強ともいえるのだが。


「今日はお勉強じゃないの?」

「そうだよ」

今ディルが書いているのは手紙である。


「誰に書いてるの?」

「あー、えーっとねぇ。王城にいる魔術師様だよ」

「えー!なんで?」

魔術師と聞いてマリィがびっくりした声を上げた。


新人魔術師探しの騒動があった後、赤髪の炎の魔術師であるキースはディルのことを調査するため早速動こうとした。しかしこれがうまくいかなかった。

本当はキース本人がシェフィールまで出向いて調べようと思っていたのだが、誘拐騒動の解決に忙しくなってしまい、しばらくは遠出できそうになくなってしまった。ディルを呼びつけるにも、まだ14歳の子どもを正当な理由もなくわざわざ王城に呼ぶわけにもいかない。


褒賞の件が遅くなりすぎてもよくないので、キースはひとまず文房具一式を贈り、その文房具で折角なので手紙を書いてほしいと書き添えておいたのだ。いずれ調査に出向くつもりで。


ディルはそれを読んでとりあえず感謝の手紙を書くことにした。

「かしこまった手紙を出すのは初めてなんだ。だから書き方を調べながら書いているんだよ」


机の上には手紙のほかにもいくつかの本が置いてある。表紙には、『城で生きる男』『恋するアザミ』…などとある。どれも小説である。要は王宮を舞台にした物語の中から手紙の描写がありそうなものを選んで借りてきたのだ。


手紙の書き方の本はなかったので、これがディルなりの解決方法だった。中には身分違いの恋を描いたものもあり、それらを参考にした結果珍妙な手紙になってしまっているのだが独学で書き切ったディルはそれに気づいていない。

送られてきた手紙を読んでキースが笑いながら机に突っ伏すのはまた別の話である。


しばらく手紙と格闘していたディルも、昼前には手紙を書き終わり、早速出しに行こうと外へ出た。



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