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魔力が見えないはずなのに  作者: ツカサ
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3話

大きな物音がした方を見ると、発生源は天幕のほうだった。


何事かと思ったが、中の様子は分からない。3人で顔を見合わせた。


その直後、天幕から人影が飛び出した。顔を隠した大人が二人で、一人は子どもを抱えている。さらに後ろからは人影を追いかける兵士や軽装の人間が追いかける。



状況的に、これは…


「魔術師の卵をさらおうっていう魂胆か!」

ダンが叫んだ。


突然の出来事に、集められていた子どもたちがパニックに陥り、広場は阿鼻叫喚の様相だ。


ディルたちは天幕の近くにいたためとっさに逃げようとするが、タキがその場で固まって動かなくなってしまった。足がすくんでしまったのか。


「タキ!」

ダンもタキが動けなくなっているのに気付いた。そしてタキをかばうように抱えて守りながら地面に伏せた。先程守ってやるよと言っていたのが、魔力はなかったが早速有言実行された。かっこいいぞダン。


私はというと、友人たちを置いて逃げることもできず、ダンたちを守るように敵と向き合った。


誘拐犯たちは怪我をしていた。きっと兵士によるものだろう。

誘拐犯の一人と目が合った。何をする気か。


おもむろに誘拐犯がこちらへ歩み寄ると素早く私を捕らえて持ち上げ、首筋に刃物を当てた。

「これ以上追いかけるならば、この小僧らの命はないぞぉっ!」


「ディル!」ダンが叫んだ。タキは震えてこちらを見るばかりだ。


自分はというと恐怖で声が出ない。刃物を当てられたら当然だ。周囲の兵士たちもその場で踏みとどまった。


数秒そのまま膠着状態が続く。冷静ではない頭でグルグルと思考を働かせると、自分を人質に取ったとして、それは人質の価値があるのだろうかということに思い至った。

なぜなら自分には魔力なんてない。魔術師の卵だけが今助けられるとして、ディルを見殺しにして一人だけ救出することだってできる。兵士がディルを守る義理は正直いって無いのではないか。


もちろん人間の命は大切なものではある。しかし、馬車に子どもがはねられたとしても馬車が地位の高い人間の者であれば、飛び出した子どもの命のほうが軽んじられる。命の重さがすべて平等ではない。そういう時代だった。


二重の意味で震え上がりながらディルは誘拐犯と兵士たちの動きに注力した。

魔術師の卵を抱えたほうの誘拐犯がそろりと動く。それに合わせて、兵士が追いかけようと踏み出す。すると自分の首に触れる刃物が強く押し当てられた。

見捨てられる!とディルは死を覚悟した。


「待て!」

兵士側から鋭い指示が飛んだ。見ると兵士の鎧装備よりも軽い服装、そして燃えるような赤髪を肩口まで伸ばした若い男だった。魔術師のようだ。

その命令によって兵士たちの動きが止まる。どうやら指揮系統があるらしい。そのおかげで首筋にひやりとした冷たい感触がほんの少しだけ薄まった。

だが違和感があって、ちらっと目線を下に落とすと自分の襟の一部が赤く染まっている。ひょえぇ、と小さくつぶやき、恐怖で痛みは感じないものの怖すぎて泣きそうだった。


さらに続けて別の声が聞こえた。

「そいつらのうち、魔力があるのは手前の奴だけだ!身体機能強化だが力は相当薄い!」

メインの天幕付近に兵士に守られながら立つのは、さっきの魔力透視の魔術師たちだった。

手前の奴、というとディルを捕まえているほうだ。様子からしてどうやらビンゴらしい。


「余計なことを!こいつらがどうなってもいいのか!それに俺の魔力は薄くなんてねぇんだよっ!!」

そこへ赤髪の男が言い返す。

「魔力はともかく、お前たちは魔術師の子を殺せない!だからもう一人人質を取ったのだろう!だが人質に何かあればすぐにこちらも動く!」


確かに誘拐犯が魔術師の卵を屠ったとしたら、今回の収穫物がなくなるわけだからそれはできない。ディルの人質としての価値は一応あるのか。兵士側もどうやらディルを守る対象として見てくれている。


が、捕まえる自信があるとしても、犯人をあおると一番危険なのはディルなので、そんなに追い詰めないでほしい。


「くそっ…!」

誘拐犯たちが逃走のため動いた。私を抱えている男がもう一人の誘拐犯の胴をがっしりとつかむ。身体機能強化というのがどのようなものかよく分からないけれど、もしや屋根にでも飛び乗るつもりか。

ディルの首に強い力がかかり思わずうめいた。

「んっ…ぐう!」

苦しい。刃物を持っている側の腕で私の首をしめて持ち上げようとしたらしい。この後動かれると首が抜けそうだ。思わず男の腕を両手でつかんだ。


男の動作的にやはり上方向への移動を考えているようだ。子どもが二人いるとはいえ、四人分の体重を支えて平屋の屋根の上に飛び乗ることができるのならそれは普通の人間にはできない。魔力とはなんとすごいものなのか。


そして男は飛び上がろうとした。…が。


「!?」

しかし、誘拐犯は踏み切れずその場で一人飛び上がった。拳二つ分くらいは跳躍したかもしれない。だがそれだけで終わってしまった。


「何やってんだよ!」もう一人の誘拐犯がキレる。

何かが不発になったと見え、今が勝機とばかりに赤髪の指示に兵士たちが動いた。


赤髪の魔術師も火球を飛ばしてきた。どうやら誘拐犯に命中したようである。

「熱っ!?」

ディルは、わあわあともみくちゃにされながらも次に兵士に抱えられた時には、すべてが決着していた。

誘拐犯たちは捕らえられ、魔術師の卵も無事だ。


どうやら一件落着のようだ。



ディルが天幕の中で首の傷を治療しているとタキとダンがやってきた。

「ディルー!」

「大丈夫か!?」

タキが抱きつきながら声をあげて泣く。

「大丈夫だよ、傷も浅いってさ」

「よかったな…」

「ディルが死んじゃうかと思ったあぁぁ!」

「まあどうなるかと思ったけど、兵士さんたちが助けてくれたから」

いや、途中見捨てられるかもと思ったけど。結果オーライだ。


治療が終わるとタキたちは先に帰された。ディルは兵士に引き留められたのでそのまま待っていると、先程の赤髪の魔術師がやってきた。

「こんにちは。私は今回の部隊の長を務めているキースです」

「あ…ディルといいます」

改めて近くで見ると、燃えるような赤髪がとてもきれいだ。鼻立ちもすっきりしていて美形といえる類の人だ。その上実力もあるのだから、きっと人気があるのだろうなあ。


「ディル君か。今日は大変な目に遭わせてしまい申し訳ない」

キースはそういって深々と頭を下げた。魔術師様に謝られると思わなかったのでディルは慌ててしまう。

「そんな。その場にいただけですし、むしろ逃げられずに人質になってしまって申し訳ありません」

礼儀正しくを心がけてそういうと、キースはクスッと笑った。

「いや、君たちは友人を守っていたのだろう?勇敢な行動だったよ。」

「魔術師様にそう言っていただけると光栄です」

危険な行動を咎められるのではないかと思っていたので、手放しで褒められて頬が赤くなった。


「あの女の子を守る二人の少年を見ていてとてもかっこいいと思ったんだ。この先どちらかが本物のナイトになるのかな?」

ん?キースの言葉に違和感があった。

「あ、いえ、それは…」

「はは、別に言わなくてもいいさ。これからも三人で仲良くね」

まあいいか。


「せっかく縁があったから少しだけ私の力を見ていくかい?」

「いいんですか!」

ディルが目を輝かせながら言うと柔らかい笑顔で「もちろんだ」と微笑み返してくれた。


キースは天幕の中央付近に立ち手元に次々と炎を出してくれた。ディルは端のほうでうわあ、とかすごいなどとつぶやきながら眺めた。

「もっと近くで見るかい?」

「はい、ぜひ」

ディルはキールのすぐ近くに移動した。キールはディルの肩に手を置きながら話し出した。

「魔力は使い方次第で良くも悪くもはたらく。私たちは日々訓練をしていてね、魔力の強さだけでなく心の強さも磨くんだ。そうして魔力を自分のものにすることでこうやって、ん…?あれ、おかしいな…」

どうしたのだろう。

「火が出ない…?」

「?」

よく分からず見守っているとキースが慌てている。


キースがディルの肩から手を離し、両手を正面に向けて力を貯める姿勢をとると、ゴウッと大きな炎が出た。

「わあ!」

びっくりした。

「よかった、問題なく使える。…まあいいや。ディル」

「はいっ」

「今回はとても勇敢だったよ。王城から改めてお詫びの品を贈るからほしいものを考えておくといい」

「えっ!いいんですか」

「もちろん。あれだけ怖い目に遭ったんだからね」


キースは別の兵士を呼び、ディルを家まで送るように伝えた。家で両親に褒賞の話を打ち合わせるのも兼ねるのかもしれない。


「君には魔力がないとのことだったけど、機会があればまた会うこともあるかもしれない。元気でね」

「はい。ありがとうございました」


あんまり高価なものは迷惑になってしまいそうだな、じゃあ何にしようか。自分の万年筆が欲しいな、あと紙とインクがあれば嬉しいかもしれない。紙は商売で使う分ももらえないだろうか。

そんなことを考えながら護衛の兵士と共に家に帰った。


家に着いた時にはもう夕食時だ。夕食を食べながら家族に今日あった出来事を話そう。



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