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魔力が見えないはずなのに  作者: ツカサ
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28話

食堂で思いがけず同郷生徒との対面を果たしたディルは、ひとまず互いに自己紹介をすることにした。



「私はシェフィール出身のティタニアといいます!13歳です」

ティタニアは明るい茶色のロングの髪の毛を揺らしながらお辞儀をした。ふんわりと柔らかな印象の子で、少し大きめで新品の制服がなんだかまぶしい。

「僕はディルです。こうしてまた会うことができて嬉しいな。あの後は大丈夫だった?」

「ええ。しばらくは怯えて生活していたのですが、今ではもう落ち着いて過ごしています。私たちを誘拐した犯人とそれを指示した人たちはみんな処罰されたのはお聞きになりました?私は怪我もありませんでしたし、むしろディル先輩が首元に怪我をしていたのが気になっていて…」

とティタニアは心配そうに首を傾けた。主犯格も捕まって処罰されたことはディルは知らなかったので、いい情報を得た思いである。


「ディルたちは誘拐されたの!?」

錬成所ではまだ誰にも言っていなかったので、ハリーがびっくりして声を上げた。

「正確には誘拐未遂かな。まあそういう事件があったんだよ。事の顛末を聞かないままこちらに来ることになってしまったんだけど、犯人たちがきちんと捕まってよかった。僕もかすり傷みたいなもので、傷もほとんど残っていないくらいだから大丈夫」

そういって首元を見せると、ティタニアもほっとしたように微笑んだ。

「そう…ですか。よかったです」


ディルは気になっていたことを訊ねた。

「僕の名前を知っているみたいだけど、地元で聞いたの?」

「はい!あの時、私はパニックになってしまいましたけど、ディル先輩は捕まるまで動けなくなってしまった御友人方を守るように敵に向き合っていたのが忘れられなくて…!あの後町中を探したんです!」

「え…そうだったんだ」

「それで、何とか情報で辿り着いてみると、なんと既に錬成所に編入したっていうじゃないですかーー!!こうして御一緒に魔術師としての勉強をすることができることがとっても楽しみだったんですーー!!」


ディルは口をポカンと開けてテンション高く語るティタニアを眺めてしまった。

「ディルの追っかけか?」

とラスカルが耳元で聞いてきた。ディルも「いや、名前もさっき初めて聞いたんだ…」と苦笑いする。

「髪型がすっかり変わっていたのですぐに気づきませんでしたが、先程ディル先輩の名前が聞こえてきて!ますます格好よくなっていてビックリしましたー!!」


ディルは15歳でティタニアは13歳。憧れの先輩に出会ったかのような熱気に少し尻込みしてしまう。

「で…でもあの時の僕は刃物で脅されて何もできずにパニックになっていただけだよ…?」

「それは仕方がないことです!でもあの御友人を守ろうとする姿、そして情報を集めていくうちになんて素敵な方なのだろうって…!」

「ちょ、ちょっとこっちへ来て」

これ以上話すとまずい。ディルはティタニアを引き寄せ、他の人から距離を取ってからコソコソ話を始めた。



「単刀直入に聞くけど、僕の性別知ってる?」

「え、ええ。凛々しい女性だと」

「オーケー分かった。…実は僕はここでとある任務に就いていてね、女であることを隠して潜入しているんだ」

「!!」

ティタニアは驚き、口元を押さえてコクコクと頷いた。

「だから、それがバレてはまずい。ここを出ていかなければならなくなる」

「そんなっ…」

先程憧れを語ったばかりなのに別れの可能性があることを聞き、ショックを受ける。


「だからティタニア。これから僕と秘密の共有をしてもらえないかな」

「!それは、女性であることを隠すということですか…?」

「そうだ」

「もちろん喜んでっ…喜んでお守りしますっ…!!」

目元に涙を浮かべながら感極まったように肯定の言葉を絞り出した。

「ありがとう。このことはまだ君しか知らないんだ。とっても可愛いお嬢さん、これからよろしく」

ニコリと微笑む。自分を慕ってくれているのであればこれくらい言ってあげた方が喜ぶかと考えてそう伝えると、ティタニアは胸の前で両手を組んでこちらを見上げて感激していた。



秘密の話を終えてみんなの所へ戻る。

「おまたせ」

「どうかしたのか?」

「何でもないよ」

「なんかあった気がするんだけど」

ティタニアの夢見心地度が増しているのを訝しみながらも、誰もそれ以上は聞いてこなかったので先程の会話に戻る。


「そういえば、ディルは女子の間でファンクラブができているくらい人気らしいぜ」

「そんなものがあるの!?初耳だよ!」

とギョッとしてしまう。

「まあ、素敵です!」

「結構前からあったんじゃないかなぁ。でもクラウス先輩絡みで色々あって、それでも立ち向かう姿で隠れて応援している人が増えていって、バングルを外した先輩にも勝ったじゃない?その後急激に、こう…ね?」

「お前は女子とはそれとなく距離を取ってるからか、直接声をかけるよりも眺めて楽しむ隠れファンが多いらしい」

「そういえば俺も、ディルってどんな人なのって女子に聞かれたわ」

ディルのことについてディルよりも詳しい同室たちが怖い。あとでもう少し詳しく聞こう。


「僕もディルの好きな食べ物は何ですかって聞かれた。同室だからってさ」

「えっ…貴方がディル先輩の同室…」

一瞬ティタニアが引いた。

「俺たちも同じだよ」

「!?」

「そう、三人ともそうなんだよーアハハハ」

そこで驚いてはいけないんだよティタニア!と心の中で唱える。

「そっ、そうだったんですね!仲がよろしいんですね!羨ましいです!」

「?」



さっきまで賑わっていた食堂も、いつの間にか人がまばらになっていた。そろそろ切り上げようとディルが場を締める。

「ついつい長く話してしまったね。ティタニアもその友達も今日は疲れたでしょ?明日もあるからゆっくり休んでね」

「いえ!お話しできてとっても楽しかったです!ご心配いただきありがとうございます」

ティタニアがお礼を述べると、一緒にいた一年生の女子たちも軽くお辞儀をする。他の子も初めは先輩に対して緊張していたのが、少しほどけて楽しめたようだ。



解散してすぐに、ティタニアがハリーに駆け寄って「私もファンクラブに入会させていただきたいのですが…」と尋ねる声が聞こえた気がする。それ以上追及しないことにして、ハリーを置いて部屋に戻ることにした。


この錬成所でディルの秘密を知る一人目の人間として可愛らしい後輩が現れたのだが、うまくやっていけそうな気がする。多分。



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