18話
夜の指導の後、ベイジルはそのまま錬成所に宿泊し、翌朝王宮へ帰還した。
王宮内を移動していると、見慣れた顔があった。
「ベイジル!」
「キースか」
キースは周囲に人影がないことを確認してから話し始めた。
「昨日は錬成所に行ったんだろう?例のあの子、ディルだっけ。どうだった?」
「正直呑み込みが早くて驚いた。追い立てたら相手に触れることなく魔力を封じることもできたから、しっかり鍛えれば王宮所属で使える」
「ベイジルがそう言えるくらいなら大分良さそうだね。でも追い立てたらって一体何をしたの?脅し?」
「…まあそんなところだ」
言葉を濁すベイジルに、キースの目が光った。
「どんなあくどいことをやったんだ?もっと詳しく」
こうなったら折れない性格なのをよく理解しているので、渋々といった様子で口を開いた。
「風の魔剣を使った」
「えぇ!あれを突き付けたの?牢屋も切れるような規格外な力を?僕はあの子に同情するよ」
「こちらも少し調子に乗ったところはある。だが効果はあった」
「普段堅実で堅物な君がそういうなら勝算があってのことかもしれないけど、あんまりいじめないでね?僕も今度会いに行っちゃおうかな。文通も結局一回で止まっているし。あの子の手紙が面白すぎて今でも思い出し笑いできる」
「お前もお前で人のことを言えないだろ。だがまあ、基礎はまだまだ未熟だったから他の生徒も含めて教えに行ってやればいい。王宮所属の魔術師になるためにはしばらくは錬成所で訓練が必要だろうからな」
また飲みに行く約束をして別れた後、ベイジルは昨日のことを振り返りながら歩いた。
これまで誰も太刀打ちできなかった、自分の魔剣に立ち向かえる魔力の持ち主が現れた。それにちょっと、いや、強く脅したら接触することなく封じたことに成功した。
下の者を鍛えていて、その人自身の壁を打ち破る瞬間に出会う時というのがベイジルは好きだ。
成長に立ち会えることこそ指導の甲斐があるともいえるが、昨日のベイジルは内心では恐怖も抱いていた。自分の切り札でさえ押さえられる人物を、他ならぬベイジル自身が育てているのだ。今は簡単にねじ伏せられるとしても、この先どうなるかは分からない。
使い方次第では脅威にもなりえる分きちんと導いていかなければならないし、ベイジル自身も腕を磨く必要がある。持つ能力の差で勝てません、なんてことはあってはならない。
常に上に立つために、己の成長を続けていくことに楽しさを感じつつ、次の仕事へ向かった。