16話
訓練場に着いたらかなり暗かったので、ディルは場内を明かりを灯して回った。
その間ベイジルは置いてある練習用の武器を物色していた。
「もっと早く様子を見に来るつもりだったんだが、こちらも忙しくて来るのが遅くなってしまった。さて、これまでの訓練の成果を見せてもらおうか」
そう言って刃を潰した模造刀を渡された。ベイジルも同じような模造刀を手にしている。
「相手はベイジルさんですか」
「他に誰がいる」
「いえ、みんなから羨ましがられてしまいそうだなと思いまして」
さっきの騒ぎを思うと、ベイジルから直接ご指導いただけるなんてとてもありがたいことなのではないか。
この二カ月の訓練の成果を出せるよう気を引き締めた。
向き合って剣を構える。
「いつでもいいぞ」
こちらが攻めていいようだ。一呼吸入れてからディルは踏み込んだ。剣同士がぶつかる音が響く。
数回剣を交えたところでディルは焦った。新米であるディルでも明確に理解できるほどの力量差が、手に取るように分かってしまったからだ。
固い。こちらが押してもびくともしない。どの角度から切り込んでも全て同じように防がれるのに全然ぶれないし隙が無い。
「筋力がないなら力で押そうとするな、逆に押されてしまう。こんな風に」
「!」
剣を交えたまま角度を変えられてそのまま刃をなぎ払われてしまった。
体勢を立て直す前にベイジルの剣先がディルの胸元に突き出される。勝負あり。
ベイジルはそのまま剣を最初の位置に構え直す。
「勝つためにやっているわけではない。もう一度」
「はいっ!」
力では勝てそうにないのでフットワークを軽くしてヒットアンドアウェイを狙うことにする。
何発か打ち合い、間合いを取っては踏み込む。
これでもベイジルから一本取れるかと言われればそれは難しいという状況ではあったが、要は自分に合ったスタイルを見つけて少しでも相手に有効な手立てを考えた方がいいと思ったのだ。
ウェイトは年齢、性別的にも他の人よりも軽くなってしまうし、それは一朝一夕に変えられることではない。そのため、身軽さを生かして戦うのが今の自分には向いている。
「そうだ。剣を振った後の動作が短くなったな」
ベイジルに息の乱れは見られない。
「振ったら終わり、ではなく戻すのも一つの動作だと考えろ。まだ動きに無駄が多い」
言われた通り、惰性で出てしまう動きを減らして戻るのにもしっかりと筋力を使うようにする。
「もっと重心を落とせ」
「はい」
途中でベイジルに見本をやってもらいながら、もう何回か打ち合う。
「そうだ」
何度かやってみるとコツが分かってきた。
「戻りが早くなった気がします!」
息を上げながらそういうとまた改善点を言ってくれる。
しばらく続けた後、声がかかった。
「多少は良くなってきたな。とりあえずは力が無い分は他のところで補え。今のを忘れずに練習するといい」
「はぁはぁ…。ありがとうございます!」
指導も的確で強い…!これはみんなが尊敬するのも分かる。ディルももれなくその一員になった。
息を整えながら思いの丈を述べた。こういうのは直接伝えるのが一番だ。
「ベイジルさんは本当にお強いですね。地面に縫い付けられているのかと思うくらいビクともしませんでした。そんな方に自分が必要なことを見抜いて訓練していただけて、とても嬉しいです」
「新人に負けるくらいヤワではない。それと下の者を育てることも上の者の役目だからな」
強いのに変に偉ぶったところもなく面倒見がいいところも、ベイジルが尊敬される所以だろう。
「次に魔力封じの方だが…そっちの方はどうだ」
「相手に触れていないとダメで悩んでいます。せめて剣を介して魔力を封じたいと思っているんですが、なかなかうまくいかなくて…直接触れていることが条件の能力なのかもしれません」
現状あまり芳しくないことを伝えると、ベイジルは目線を落として思案した。
ぼそっと「できるか分からないが…荒療治でいくか」という声が聞こえた気がする。
なんだか嫌な予感がした。