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哀しみの魔法少女編 7


 男に案内されたのは、広場のような場所だ。

 庭というより訓練場なのかな。

 中央まできて振り返る。


「名を聞いておこうか。お嬢さん」

「僕はユウ」


 短く答えれば、男がふっと笑った。


「僕っ娘か。流行っているのかな?」

「ほっとけ!」


 なんだそのウィットに富んだ切り返しは!

 あんたほんとにNPCか?


 性別が変わっちゃってるけど、口調や性格まで変えるつもりはないんだ。

 そもそも、好きで少女になってるわけでもない。 


 まあ、一人称代名詞なんてどうでもいいとして、僕の役割(クラス)は魔法剣士ということになる。

 読んで字の如く、剣と魔法の両方で戦う万能タイプの戦士だ。


 一点特化型じゃないから、ちょっと器用貧乏になっちゃいそうなキャラクターなんだけどね。

 近接格闘戦(ドッグファイト)、近距離戦、中距離戦、遠距離戦、どれでもこなせるってのは、逆にいえばどれが抜群に強いってのもないって意味だから。


「私に勝つことができたら採用だ。頑張りなさい」


 刀を抜いた男が構える。

 右上にステータスが表示された。


 名前はゴジョウ。役割は戦士。レベルは三。


 始まりの街に登場するキャラクターの中では抜群に強い。

 ゆーて僕より、二十レベル以上も低いんだけどね。

 こればっかりは仕方がないことだ。テストプレイだから。


 ただし、油断はできないよ。

 なにしろ昨日、レベル一の邪小鬼に負けたばっかりだ。

 腰のホルスターからナイフを引き抜き、順手で構える。


「いざ尋常に勝負!」


 ゴジョウが踏み込んできた。

 抜き胴。


 なかなか鋭い太刀筋だけど、本気じゃないのがまるわかり。

 ぜんっぜん殺気がないんだもの。


 そういう部分まで表現できちゃうのは、ものすげー技術ではあるよね。

 ナイフで難なく弾き返し、横をすり抜けるように一閃する。


「ぐは!?」


 一撃で耐久ゲージの七割ほどを吹き飛ばされたゴジョウが片膝をついた。


「ま、まいった!」


 敗北宣言である。

 頷いた僕がナイフをおろす。


「けっこうなお点前(てまえ)で」

「いやいやユウ。それは仕合のときに使う言葉じゃないぞ」


 あれ?

 ちがうっけ?


 ていうか、NPCに言葉の間違いを指摘される僕って、かなりバカっぽくない?

 なんか哀しい。


 ナイフをホルスターに片付け、頭を掻く僕にゴジョウが笑いかけてくれた。


「合格だ。今日から仲間だな」

「よろしくー」


 差し出された右手を握る。

 その瞬間、ステータスウィンドウの職業が書き変わった。

 賞金稼ぎから、トウキョウ領主軍兵士に。


 まずは第一段階クリアである。





 次々と起こるイベントを難なくこなしていく。

 いやあ、多彩だなぁ。


 ネオサイタマまで米の買い出しとか、シズオカまでお茶の買い出しとか、なんのゲームをやってるのか判らなくなりそうだよ。

 相場の安いところで買って、高いところで売って、軍資金を増やしてってのを繰り返して利ざやで大もうけしたりね。


 そんなことを繰り返しながら順調に出世した僕は、気がついたらトウキョウ領主軍将校って職業になっていた。

 僕たちサラリーマンの感覚でいえば、課長クラスってとこかな。


 ゲーム内の時間で一ヶ月くらい。

 現実の時間では三時間も経っていない。


『スピード出世ですね。鏑木さん』

「現実でも、このくらい早く出世したいもんだよ」


 叶恵の言葉に肩をすくめる。

 戦闘はレベル差で勝ってるだけなので、たいして褒められた話ではない。

 相場情報とかも叶恵が教えてくれるし。


 実際にレベル一からプレイしたとしたら、けっこうやりごたえのありそうなイベントが目白押しだ。

 楽しめるんじゃないかな。


『次はいよいよ合戦ですね』

「なあ神代。僕はいったいなんのゲームをしてるんだっけ?」


 おもわず突っ込んじゃった。

 育成型のシミュレーションゲームかって話だ。


 いやまあ、楽しいんだけどね。

 楽しければなんでも良いんだけどね。


『兵士の身分のままだと、兵隊の一人としての参加になりますから』


 戦士として戦場を楽しめるというわけだ。


「それはそれで楽しそうだけどね」


 ただ、バトルそのものは何度もやる機会があるから、ここは隊長として参加してみるのである。

 リアルタイムで部下に指示を出すってのも面白そうだし。


 ちなみに僕の部下は五人。

 全員が一レベルの戦士だ。

 戦う相手は鬼族で、ようするに邪小鬼たちの親玉である。


 始まりの街からスタートするイベントだから、敵のレベルもそんなに高くない。

 戦いそのものは領主たる赤髭公が勝利するだろう。

 僕もいるしね。


 なにしろ敵のボスである夜叉丸(やしゃまる)のレベルは八。

 よっぽど油断しないかぎり、負けるわけがない。


『油断大敵ですよ?』

「わざわざそういうことを言うってことは、なんか仕掛けがあるのかな?」

『どうでしょう? それはやってのお楽しみで』


 くすくすと叶恵が笑った。

 絶対なんかたくらんでるな。これは。


 そんなこんなで合戦である。

 領主軍百名と鬼軍百五十匹が入り乱れて戦う大イベントだ。


 まー 合戦というには人数が少ないかもだけど、これは処理能力的に仕方がないことらしい。

 コンピューターの、ではなく、プレイする人間の。


 数千人って規模になったら、軍事知識がないとどうにもならない。

 そんなもんが要求されるとしたら、すくなくともそれはゲームではないだろう。


 ゲームを楽しむために軍事を勉強するなんて酔狂な人は、いるのかもしれないけどたぶん少数派だ。

 つまり少数派を満足させるために多数派をないがしろにしちゃったら、間違いなくクソゲー認定されちゃう。


 号砲が鳴り、平原に布陣した両軍が前進をはじめる。

 どっちも、工夫もなにもない横列展開だ。


 叶恵の話だと、ゲーム後半ではもっとずっと複雑な陣形も出てくるんだってさ。

 ぶっちゃけそれも無駄機能だと思うよ。

 戦略シミュレーションゲームじゃないんだから。


 僕は部下五人を引き連れて戦場を駈ける。

 隊長なんていったって、やれることは限られてるのだ。

 視界の片隅に表示されてるレーダーを見ながら、敵のいる場所に突っ込んで蹴散らすだけ。


「よっと!」


 魔法少女ステッキを構え、魔法を連射する。

 撃ちだした数と同じ数の邪小鬼が倒れた。

 ワンキルである。


 これ、敵が弱いんじゃなくて僕が強すぎるだけ。普通にプレイしていたら、この時点でのレベルはせいぜい五か六だから、こんな無双はできない。


「隊長! 道が開きました!」

「よし。突撃だ」


 一進一退を続ける戦場にあって、僕の部隊はめざましい戦果をあげている。

 レベル勝ちしてるだけだから、なんの自慢にもならないけどね。


 とにかく、戦場をところ狭しと駆け回り、敵を倒し、ピンチに陥ってる味方を救出する。

 やー ぶっちゃけ気持ちいいっすわー。

 自分の万能感に酔いしれそう。


 ホントはダメなんだけどね! 

 こういうチートっぽいやり方は。


『鏑木さん。夜叉丸が現れましたよ』


 叶恵の声が頭に響く。

 お。

 ついにきたか。


 ボスが出てくるってことは、領主軍がかなり押し込んだ証拠だ。

 出現条件は、二倍以上の戦力差になる、だからね。


 百対百五十で始まったわけだから、味方の損害がゼロとしても敵を百匹も倒さないといけないんだ。

 これはなかなか厳しい条件である。通常のプレイでは、初戦でいきなりこんな展開にはならない。


 何度も合戦を繰り返して鬼軍を追いつめていくってのが、予定されているストーリーラインだ。

 途中には小イベントがいくつも用意されてるらしい。

 そうならなかったのは、それだけ僕の存在が際立ってるってことだね。


「総大将のお出ましだ。みんな。歓迎の準備は良いか?」


 部下たちに声をかける。


『応ともよ!』


 頼もしい声が返ってきた。

 刀を掲げ、戦闘衝動に目をぎらつかせて。


 もうね。

 おまえら本当にNPCかってレベルだよ。


「つっこめー!」


 僕を先頭に六人が駈ける。


 やがて見えてきたのは、小山のような大男だ。

 いや、大鬼っていうのが正しいのかな。


 身長は三メートルを超えてるだろう。百五十センチもない僕と比較したら、まるでぞうさんとありんこである。

 周囲には取り巻きの邪小鬼が二十匹ほど。

 いかにもボスって感じ。


 つーかこれ、一人のプレイヤーが戦うような相手なの?


「でけえ……」


 漏れた呟きは、やや掠れていた。



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