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告白のサラリーマン編


 なんとクシュリナーダは美月先輩だった。

 びっくりである。


「あたしもびっくりしたのよ」


 撮影を終え、平服に着替えた先輩が笑う。

 場所はいつもの中華ダイニングバー。


 最初は美月先輩も僕の正体には気付いていなかったらしい。サッポロのニルスのときも、ナゴヤのスザクのときも。

 サガのレックスのとき、はじめて疑問を持った。


 彼女は、僕が銃士をテストすることを知っていたから。

 それに言動が、どうにも僕っぽかったんだってさ。


 そしてクシュリナーダは思い出す。

 これまで出会ってきた、僕っぽいキャラクターたちを。


「最初は、稀属イーダスの館でしたね」

「違うわよ。そのまえのいかがわしい店よ」


 僕の言葉にくすくす笑う先輩。


 あれ?

 あそこにキャラクターなんかいったけ?


「ポールダンスの練習をしていた娘たちがいたでしょ。あのなかに紛れてたのよ」

「なぜ紛れるのか……」


 紹興酒のグラスを傾ける。

 先輩は趣味でポールダンスをやっている。ゆえに、せっかくだしゲーム内でもやってみようかって気になったらしい。

 そこに僕たちが入ってきたというわけだ。


 うん。

 聴いてるうちに思い出してきた。

 店を出るときに感じた視線、あれ先輩のものだったんだね。


 そして直後に派生したイベントに参加する形で僕に出会った、と。


「運命を感じますね……」

「ゆーて、社内社外あわせて百二十人しかプレイヤーはいないわけだからね。運命というには世間が狭いわよ」


 おつまみのナッツを口に運びながら先輩が笑う。


 いやいや。

 あの広大な『LIO』の世界で、たった百二十人が出会うなんて、運命的じゃあないですか。

 ともあれ、その後も運命的な再会は続き、ウリエルとクシュリナーダはフレンドとして登録するに至った。


「そして僕は、フレンドから一歩進みたいと思ってます。美月先輩」

「…………」

「考えておいてもらえませんかね?」

「うーん……」


 ぽりぽりと先輩が頭を掻く。

 なにそのリアクション。


「裕也くんってさ、あたしじゃなくてクシュリナーダに惚れてるんじゃないの?」

「きっかけはそれです」


 格好いいと思った。

 憧れた。嫉妬した。自分もああなりたいと思った。


 スタートは間違いなくそういう思いだ。

 だから、クシュリナーダに惚れているといわれても、完全に否定することはできないだろう。


 だけど、


「僕はたぶん、クシュリナーダに先輩の面影を重ねていました」


 それもまた本当のことなのだ。


 頼りになる相棒。

 いつだって安心して背中を預けられる。


 大学出たての甘ちゃんでしかなかった僕を、厳しく優しく指導して一人前の社会人に育ててくれた美月先輩と同様に。


「苦しい戦いのときに、何度も何度も先輩の顔が浮かんだんですよね」

「あたしは鬼教官か」

「だから戦い抜けたんだと思います」

「おいこら。せめて否定してから先に進め。さらっとスルーして進むな」


 つん、と、頭を小突かれた。

 いやあ、その言葉に反応しちゃうと、話題がコメディ方向にいっちゃうし。

 ここはふざけちゃいけない場面だから。


「美月さん。好きです」


 まっすぐに目を見て告げる。


「……正面からきたかあ。ジョークじゃないんだよね?」


 数秒の沈黙をセリフの前に挿入し、先輩も僕の目を見た。


「さすがにこんな冗談を飛ばすほど、ふざけた人間ではないと思います」

「そう。なら真剣に応えないとね」


 白い頬が染まっている。


「あたしも好きよ。裕也くん」


 大きくも強くもない声が、しっかりと僕の耳に聞こえた。

 こじゃれたダイニングバー。

 ムーディーな音楽が、ゆったりと回遊している。



最後までお付き合いありがとうございました。

これにして完結です。

VRの皮を被った恋愛シミュレーションでした。

主人公が選んだのは美月ルート。もしかしたら、叶恵ルートや亜里砂ルートもあるかもしれませんね。

とかって。

それでは、またいつか文の間でお会いしましょう。

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