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迫撃の銃装戦士編 8


 どう、と、邪黒竜が倒れ、光の粒子に変わってゆく。


 僕は立ち上がり、流れてもいない額の汗を拭った。

 勝った。

 大勝利である。


「やったでゴザル!」


 全身で喜びを表現するように、ぴょんぴょんとマサムネが跳ねる。

 いや、それでいいのか? ニンジャガールよ。


「やったわね。ウリエル」


 近づいてきたクシュリナーダが右手を挙げた。

 ハイタッチの要求である。


「ああ」


 頷いた僕が、思い切りそれに右手をぶつけようとして、すかっとすり抜けてしまった。


 ぐは!

 攻撃として判定されちゃった!?


 視界に、「プレイヤーへの攻撃は禁止されています」って警告が出てるし。

 ヒドス。

 ハイタッチくらいはできるようにしてよ。


 これ、あとから叶恵に言っておいた方が良いよね。


「強く叩こうとしすぎなのよ」


 半笑いで僕の手を取った、クシュリナーダが軽く打ち付ける。

 ぱん、と。


「だって、嬉しかったんだよ」

「気持ちはわかるけどね」


 シオウとコーガも寄ってきた。

 なんだかほくほく顔だ。


「どうしたんだい? 二人とも」


 訊ねると、レベルアップしたのだと教えてくれる。

 お、いいなあ。

 さすが強敵だったから、経験値もいっぱい入ったんだね。


 僕はどうかな?

 ステータス画面を確認すると、あとすこし、ちょびっとだけ足りてない。


 仕方ないね。

 聖戦士とやらになったばっかりだし……って、役割(クラス)の名前が変わってるし。

 まあ、仮の名前だったからなあ。


「けど、なんぼなんでも銃装戦士(ドラグーン)はどうかなぁ……」


 中なんとか病の度合いが上がった気がするよ。


「けっこう香ばしい役割(クラス)名ね。やる人いるかしら?」


 クシュリナーダも笑ってる。

 正直、ちょっと微妙だと思うよ。


「これやるくらいなら、割り切って銃士(ガンナー)の方が良いと思うなあ」


 僕も苦笑だ。

 いくら中途半端な複合系といったところで、さすがに半端すぎるだろう。


「そうでもないでゴザル。ボクは面白そうだと思ったでゴザルよ」


 口を挟むマサムネ。

 なんでもやれそうで、じつはなんにもやれないってのがマニア心をくすぐるのだそうだ。


「そんなもんかな?」

「強いキャラをやりたいってのは、わりと幼稚な楽しみ方なのでゴザルよ」


 なんだかプレイスタイルに一家言(いっかげん)ありそうである。

 エキスパート系のレンジャーを極めて、ニンジャになっちゃうような人だもんなあ。

 玄人っていうか、ゲーム廃人っていうか。


 でも、そういう遊び方をする人だって当然いるよね。

 がっつりやりこんで、自分なりのスタイルを確立しちゃう人。


「なら、これはこれでありなのかなあ」

「でゴザル。ボクの読みでは剣技と銃技を使い分けながら戦ったら、かなりいけるクラスでゴザルよ」


 なるほど。

 たしかにそこまで育てたらかなり格好いいかも。

 もうちょっとだけ、この銃装戦士とやらを使ってみても良いかな。


 レポートは、それからでも遅くない。

 となると、問題はこの後もソロで、孤剣を携え放浪するのかって部分だよね。

 ちらりとクシュリナーダを見る。


 はい。

 言葉を飾っても仕方ない。僕としては今後もクシュリナーダと一緒に冒険したいんです。


 これまで、しばしばパーティーを組んでるけど、あくまでも偶然の結果だからね。

 そんな幸運がいつまでも続くわけがないし。


「ねえ、クシュリナーダ。良かったらフレンド登録しない?」


 誘ってみる。

 さりげなさを装ってるけど、心臓ばっくばくだ。

 もし断られたら、僕は世を儚んで死んじゃうかもしれない。


「ん? いいわよ」


 もっのすごくあっさりOKされたっ!

 これはこれで拍子抜けだよ!


 いやまあ、たぶんこの人もうちの会社の社員だからね。

 社員同士でトラブルには発展しないだろうって踏んでるのかもしれない。

 ステータス画面を開いて、フレンド申請を送る。

 ごく普通に了承された。


「あ、良かったらシオウとコーガも……」

「そんな、ついでのように言われてもなあ」

「ねえ」


 にやにやと笑ってる回復術士と魔法使い。

 ヒドス。


「仕方がないでゴザル。ウリエルがクシュリナーダを見る目は、どこからみても恋する乙女のものでゴザルから」


 にはははとマサムネが笑った。

 誰も馬にドロップキックされて死にたくはないでゴザル、なんてほざきながら。


 うっさいうっさいっ!

 誰が恋する乙女か! 


「私にそっちの気はないわよ?」


 クシュリナーダが小首をかしげる。

 そっちってどっちよ。

 ちょっと責任のある回答をしてもらいましょーか。





『LIO』から現実世界に戻り、ついでに部署に戻ると、なぜか美月先輩が上機嫌だった。


「どうしたんです? いったい」

「ちょっと良いことがあったのよ」

「宝くじでも当たりました?」

「惜しい。社内オーディションに受かったの」


 まったく惜しくなかった。

 サッカーと水泳くらい遠かった。

 ていうかオーディションってなんぞ?


「あたし、ちょっとしたスポーツをやってるんだけど、それでプロモーションビデオのエキストラに応募してみたのよ」

「スポーツが活かせるエキストラですか?」


 ちょっと想像がつかない。

 通行人Aとかじゃないってことだよね。


「しかも、それは、ふふ。なんのPVだと思う?」

「もったいつけますねえ」

「だって嬉しいんだもの」

「教えてくださいよ。僕と先輩の仲じゃないですか」


 どんな仲だ、なんて訊かないでね?

 僕にも応えられないから。


「なんと『LIO』のプロモーションよ」


 ばばーん、と、辞令を見せる美月先輩。

 おお。

 発売に向けて、そういうのも撮るのか。


 それは楽しみだけど、コンピューターグラフィックスじゃなくて実写でやるんだ。

 ちょっと不思議な感じだね。


「もっとも、一シーンか二シーンくらいなんだろうけどねー」


 上機嫌で嘆いている。


「それでもすごいですよ」

「撮影を見学に来る? 裕也くん」


 興味深いけど、そんなほいほいいけるもんなんだろうか。


「話を通しておくわよ。じっさい部外者ってわけじゃないんだし大丈夫でしょ」

「まあ、たしかに関係者ではありますね」


 社員だし、テストプレイヤーだもの。

 美月先輩が端末腕環を操作して、どこかに連絡を取っている。

 すごく楽しそうだ。

 そして、すごくきれいな横顔だ。

 なんかドキドキしちゃうね。


「おっけ。じゃあ行きましょうか」

「え? これからなんですか?」

「そうよ」


 戸惑う僕の手を引いて立ちあがる。


 なんだろう。

 こういうふうに浮かれてる先輩って、初めて見た気がする。


 PV出演の他にも良いことがあったとか?


 社内のスタジオに移動する。

 CMとかを撮ったり、宣伝ポスターなんかの撮影にも使われる場所で、僕たち営業社員にとっては、わりとお世話になっているアイテムがここで作られる。

 実際に入ったのは初めてだけどね。


 そのスタジオの中心部には、なにやらどーんとポールが立っていた。

 その周囲には何台ものカメラがセッティングされている。

 あれはなんに使うものなんだろう?


 ぼーっと突っ立っていると、撮影用の衣装に着替えた美月先輩がやってきた。

 黒いボディスーツなんだけど、関節部分に白い斑点があってそれらが白いラインで結ばれている。

 CGに動きを取り込むためのものだ。


「どう? 裕也くん」

「どうといわれても、先輩ってスタイルいいですよね、としか応えようが」


 おしゃれさとか色っぽさとは無縁の衣装なんだもの。


「いやいや。身体の線が出てるんだから、もっとこうドギマギするとか」

「先輩は僕を思春期の少年だとか思ってます?」

「ええ」

「即答した!?」


 解せぬ。

 二十五の若造ですけどね。


 それなりには酸いも甘いも噛み分けてるんですって。僕だって。

 全裸で登場されたとかならともかく、ちゃんと服を着てるんだから、無意味に恥ずかしがったりしませんよ。


「つまんない。裕也くんはつまんない」

「僕にいったい何を求めてるんですか。美月先輩は」


 にこっと笑った先輩が、突然僕の肩に手を回し、耳元に口を寄せる。


「せせせせんぱい!?」


 さすがにこれはびっくりするって!


「教えてあげない」


 耳道をくすぐる声。

 そのとき、撮影開始を告げる声が響き、先輩が身体を離した。


 唖然とする僕を尻目に駆け出す。

 惚れ惚れするような美しいフォームから、ポールに飛びつく美月先輩。

 まるで重力を無視したような動きで、くるくると回りながら上昇する。


「あ……れ……?」


 僕、この動きを知っている。

 重力なんかないみたいに舞っていた、槍使いの女性。


「クシュリナーダ……?」


 呟き。

 聞こえたのだろうか。

 美月先輩は、足だけをポールに絡めて上下逆さまなポーズのまま、僕に投げキッスをした。



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