迫撃の銃装戦士編 3
銃士と戦士系の中間あたりに、複合役割が作られることになった。
これはまあ、戦士系と魔法系の中間にいる魔法剣士みたいなもんである。
理屈としては判るし、そういう器用貧乏的な役割をやりたがる人は、じつはけっこういる。
特化した方が強いって判ってるのに、ついつい他のこともやりたくなってしまうのだ。
それは良いんだけど、
「聖戦士ってネーミングはどうなんだべなあ」
僕はぼそりと呟いた。
荒涼とした大地。
そよぐ風。
かつて邪小鬼どもとの激戦を演じたトウキョウである。
『まだ仮称ですよ。鏑木さん』
叶恵の声が聞こえる。
それも知ってるけどさ。
もうちょっと、なんかあるだろうよ。適した名前が。
剣と銃を使う戦士の、いったいどこが聖なんだか。
それともあれか? これは聖戦士なのか?
ボケもツッコミもこなす万能戦士とか。
我ながらくだらないことを考えてしまう。
「魔法剣士以上に中途半端っぽいよね。こいつは」
自分の姿を見ながら苦笑した。
黒い胸甲に腰の左に差した長剣。右側にはホルスターがあり、十連装の大型拳銃が収まっている。
手にはかっちょいい指ぬきグローブ。
かなーりちぐはぐな格好だ。
黒髪の聖戦士ウリエル。それがいまの僕である。
そして、あいかわらずレベルは二十五です。
『あまりにもプレイしづらいようだったら、この役割じたい没ですけどね』
「そいつは責任重大だ」
僕のレポートがけっこうなウェイトを占めるってことになるだろう。
きっちりと判定しなくてはいけない。
歩き出す。
懐かしのトウキョウへと向かって。
まあ、懐かしっていっても前は魔法少女だったわけだから、キャラクターとしての繋がりはまったくないわけだけど。
『せっかくだから、賞金稼ぎ互助組合にいってみたらどうですか?』
「聖戦士は銃士よりも冷遇されないかな?」
『逆です。コウモリさんとしてより差別されますよ』
うへえ。
そんなとこいきたくねえ。
ゆーて、ガンスミスショップに行っても同じなのだそうだ。
銃使いにも剣士にもなりきれず、どちらからも白眼視される。
それが最高の不遇役割、聖戦士だ。
「こんなクラス、やる人いるかなぁ?」
『どん底スタートですからね。いないんじゃないですかねえ?』
ひどい話である。
とはいえ、誰もやらないだろうからって実験しないわけにもいかない。
テストプレイのつらいところだ。
からんからんとドアベルが鳴り、入ってきた僕に視線が集まる。
なかには露骨に舌打ちをする賞金稼ぎもいた。
ふふん。
大歓迎じゃないか。
トウキョウの賞金稼ぎ互助組合である。
非好意的な視線に晒されながら僕は歩をすすめ、カウンターの前に立った。
「なにか仕事はないかい?」
受付に座る屈強そうな男が僕にちらっと視線を投げてから、無言のままいくつかの依頼書を並べる。
コウモリなんぞと語る舌を持たないってかい。
ご立派な職業意識をお持ちなことで。
依頼書の一枚を、僕も無言で示す。
オクタマに住み着いた黒邪竜の討伐だ。
簡単な仕事ではない。
ゲーム的にいうなら、推奨レベルは三十からである。
僕では五つほど足りていない。
けど、これが最も緊急性が高そうだったから。
ドラゴンなんて災害級のモンスターだ。そんなのが住み着いちゃったら、近隣に住む人々の恐怖はいかほどのものか。
放置するわけにはいかないだろう。
「これを受ける。だれか、一緒に来るやつはいないか?」
振り返ると、NPC賞金稼ぎたちが目をそらした。
弱い。
さっきまでの小馬鹿にしたような態度はどこに捨てたんだよ。お前ら。
まあ、せいぜいがレベル十くらいの連中だし、仕方ないのかもしれないけどさ。
もうちょっと気概を見せてみなよ。
そんな中、テーブルのひとつから立ちあがる姿があった。
背の高い女性だ。
「その話、乗るわ」
黒い髪を後ろに一本に縛り、背には短槍を背負っている。
髪と同じ色の瞳は、らんらんとした生気に輝いていた。
僕は、もちろんこの女性を知っている。
レベル二十六の女賞金稼ぎ、一の槍クシュリナーダだ。
うん。
運命だね。これは。
「久しぶり、というほど時間は経ってないかな。でもまた会えて嬉しいよ。クシュリナーダ」
微笑しながら話しかける。
ちょっとだけ不思議そうな顔で小首をかしげられた。
「……どこかで会ったかしら?」
「僕だよ僕。レックスだ」
「……言っちゃうんだ。それ」
聞きとれないくらいの小さな声。
「ん? なんて?」
「キャラ変えたのね」
「テストプレイの哀しさだよ。どんなに愛着があっても、指示ひとつでかえないといけない」
「なるほど。それはご愁傷様ね」
肩をすくめる僕に、クシュリナーダが微笑みかけてくれる。
ああもうっ!
きれいな人だなあっ!
これで戦闘になったら、誰よりも危険なポジションに率先して入るんだからね。
惚れるなって方が無理だと思うよ。
「ともあれ。パーティー申請するわ」
「こっちからお願いしたいくらいさ」
互いのレベルや役割などが見られるようになる。
「聖戦士……? はじめてきく役割ね」
「新種だよ。剣と銃をつかう戦士って感じだね」
「それは新種っていうより珍種なんじゃない?」
「違いない」
笑いながら差し出した右手を、クシュリナーダがしっかりと握りかえしてくれた。
ざわざわと組合のなかがざわつく。
一の槍が見込んだ男だと……とか、そうとうな使い手なのか……とか。
僕を見る目も変わっていくのを感じる。
ふむ。
こういうとこもあるんだね。
人望度、とでもいうのかな。ステータス画面にはあらわれないマスクデータってやつだ。
称号持ちって以上に、積み重ねてきた実績みたいのが重要なのかもしれない。
ちょこちょこキャラクターが変わってる僕にはないものである。
一レベルからしっかり育成していけば、たとえば聖戦士みたいな不遇役割でも評価されるのだろうか。
「一の槍が一目置くほどの男か。面白いね」
言いながら、小柄な女性が席を立ちこちらへ近づいてきた。
ていうかステータスが見えるってことは、この人すでにパーティーメンバーだ。
クシュリナーダの仲間か。
「シオウ。魔法使いだよ。よろしく」
「あ、ああ。僕はウリエルだ」
握手を交わす。
緑がかった黒髪はショートボブで、青緑の瞳には生意気そうな雰囲気がある。
「そしてもう一人。回復術士のコーガってのがいるよ」
シオウが指さした先、さっきまでクシュリナーダたちが座っていたテーブルから、かるく頭をさげる男がいた。
実直そうな感じの人である。
なんと、いきなりバランスの良いパーティーができてしまった。
槍師、魔法使い、回復術士、そして聖戦士。
クシュリナーダだけがレベル二十六で、他はレベル二十五だ。
やっぱりこのくらいになると、そう簡単にレベルは上がらないものらしい。
仕方ないよね。
魔王ラークと戦うとか、ああいう無茶な真似は、そうそう滅多にはできないからね。
「すぐに向かう? ウリエル」
クシュリナーダが訊ねた。
普通だったら装備を調えたりする必要があるけど、僕たちはすでに充分な装備品を持っている。
あらためて何かを買い足す必要はないだろう。
と、そこまで考えてアイテムストレージを確認する。
あー やっぱり弾丸は百発しかなかった。
「ガンスミスショップによってもいいかな? 弾を少し買っていきたいんだ」
「ええ。もちろん。ていうかトウキョウにあったのね」
「トウキョウとサガにしかないんだよ。むしろね」
「なるほど。行く機会のない場所だから興味あるわ」
にっこりと笑うクシュリナーダ。
たしかに、戦士はガンスミスショップなんかに用事がないからね。
それは良いんだけど、なんでシオウはにまにま笑ってるんだ?
そして、なんでクシュリナーダに小突かれてるんだ?
謎すぎる。




