表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

迫撃の銃装戦士編 3


 銃士と戦士系の中間あたりに、複合役割(クラス)が作られることになった。

 これはまあ、戦士系と魔法系の中間にいる魔法剣士みたいなもんである。


 理屈としては判るし、そういう器用貧乏的な役割をやりたがる人は、じつはけっこういる。

 特化した方が強いって判ってるのに、ついつい他のこともやりたくなってしまうのだ。


 それは良いんだけど、


聖戦士(クルセイド)ってネーミングはどうなんだべなあ」


 僕はぼそりと呟いた。


 荒涼とした大地。

 そよぐ風。

 かつて邪小鬼どもとの激戦を演じたトウキョウである。


『まだ仮称ですよ。鏑木さん』


 叶恵の声が聞こえる。

 それも知ってるけどさ。

 もうちょっと、なんかあるだろうよ。適した名前が。


 剣と銃を使う戦士の、いったいどこが(セイ)なんだか。

 それともあれか? これは(ひじり)戦士なのか?

 ボケもツッコミもこなす万能戦士とか。

 我ながらくだらないことを考えてしまう。


「魔法剣士以上に中途半端っぽいよね。こいつは」


 自分の姿を見ながら苦笑した。

 黒い胸甲(ブレストプレイト)に腰の左に差した長剣(ロングソード)。右側にはホルスターがあり、十連装の大型拳銃が収まっている。

 手にはかっちょいい指ぬきグローブ。


 かなーりちぐはぐな格好だ。

 黒髪の聖戦士ウリエル。それがいまの僕である。

 そして、あいかわらずレベルは二十五です。


『あまりにもプレイしづらいようだったら、この役割じたい没ですけどね』

「そいつは責任重大だ」


 僕のレポートがけっこうなウェイトを占めるってことになるだろう。

 きっちりと判定しなくてはいけない。


 歩き出す。

 懐かしのトウキョウへと向かって。

 まあ、懐かしっていっても前は魔法少女だったわけだから、キャラクターとしての繋がりはまったくないわけだけど。


『せっかくだから、賞金稼ぎ互助組合にいってみたらどうですか?』

「聖戦士は銃士よりも冷遇されないかな?」

『逆です。コウモリさんとしてより差別されますよ』


 うへえ。

 そんなとこいきたくねえ。


 ゆーて、ガンスミスショップに行っても同じなのだそうだ。

 銃使いにも剣士にもなりきれず、どちらからも白眼視される。

 それが最高の不遇役割、聖戦士だ。


「こんなクラス、やる人いるかなぁ?」

『どん底スタートですからね。いないんじゃないですかねえ?』


 ひどい話である。

 とはいえ、誰もやらないだろうからって実験しないわけにもいかない。

 テストプレイのつらいところだ。






 からんからんとドアベルが鳴り、入ってきた僕に視線が集まる。

 なかには露骨に舌打ちをする賞金稼ぎもいた。


 ふふん。

 大歓迎じゃないか。


 トウキョウの賞金稼ぎ互助組合である。

 非好意的な視線に晒されながら僕は歩をすすめ、カウンターの前に立った。


「なにか仕事はないかい?」


 受付に座る屈強そうな男が僕にちらっと視線を投げてから、無言のままいくつかの依頼書を並べる。

 コウモリなんぞと語る舌を持たないってかい。

 ご立派な職業意識をお持ちなことで。


 依頼書の一枚を、僕も無言で示す。

 オクタマに住み着いた黒邪竜(ブラックドラゴン)の討伐だ。


 簡単な仕事ではない。

 ゲーム的にいうなら、推奨レベルは三十からである。

 僕では五つほど足りていない。


 けど、これが最も緊急性が高そうだったから。

 ドラゴンなんて災害級のモンスターだ。そんなのが住み着いちゃったら、近隣に住む人々の恐怖はいかほどのものか。

 放置するわけにはいかないだろう。


「これを受ける。だれか、一緒に来るやつはいないか?」


 振り返ると、NPC賞金稼ぎたちが目をそらした。

 弱い。

 さっきまでの小馬鹿にしたような態度はどこに捨てたんだよ。お前ら。


 まあ、せいぜいがレベル十くらいの連中だし、仕方ないのかもしれないけどさ。

 もうちょっと気概を見せてみなよ。


 そんな中、テーブルのひとつから立ちあがる姿があった。

 背の高い女性だ。


「その話、乗るわ」


 黒い髪を後ろに一本に縛り、背には短槍を背負っている。

 髪と同じ色の瞳は、らんらんとした生気に輝いていた。

 僕は、もちろんこの女性(ひと)を知っている。

 レベル二十六の女賞金稼ぎ、一の槍(スピアヘッド)クシュリナーダだ。


 うん。

 運命だね。これは。


「久しぶり、というほど時間は経ってないかな。でもまた会えて嬉しいよ。クシュリナーダ」


 微笑しながら話しかける。

 ちょっとだけ不思議そうな顔で小首をかしげられた。


「……どこかで会ったかしら?」

「僕だよ僕。レックスだ」

「……言っちゃうんだ。それ」


 聞きとれないくらいの小さな声。


「ん? なんて?」

「キャラ変えたのね」

「テストプレイの哀しさだよ。どんなに愛着があっても、指示ひとつでかえないといけない」

「なるほど。それはご愁傷様ね」


 肩をすくめる僕に、クシュリナーダが微笑みかけてくれる。

 ああもうっ!

 きれいな人だなあっ!


 これで戦闘になったら、誰よりも危険なポジションに率先して入るんだからね。

 惚れるなって方が無理だと思うよ。


「ともあれ。パーティー申請するわ」

「こっちからお願いしたいくらいさ」


 互いのレベルや役割などが見られるようになる。


「聖戦士……? はじめてきく役割ね」

「新種だよ。剣と銃をつかう戦士って感じだね」

「それは新種っていうより珍種なんじゃない?」

「違いない」


 笑いながら差し出した右手を、クシュリナーダがしっかりと握りかえしてくれた。


 ざわざわと組合のなかがざわつく。

 一の槍が見込んだ男だと……とか、そうとうな使い手なのか……とか。

 僕を見る目も変わっていくのを感じる。


 ふむ。

 こういうとこもあるんだね。


 人望度、とでもいうのかな。ステータス画面にはあらわれないマスクデータってやつだ。

 称号持ちって以上に、積み重ねてきた実績みたいのが重要なのかもしれない。


 ちょこちょこキャラクターが変わってる僕にはないものである。

 一レベルからしっかり育成していけば、たとえば聖戦士みたいな不遇役割でも評価されるのだろうか。


「一の槍が一目置くほどの男か。面白いね」


 言いながら、小柄な女性が席を立ちこちらへ近づいてきた。

 ていうかステータスが見えるってことは、この人すでにパーティーメンバーだ。

 クシュリナーダの仲間か。


「シオウ。魔法使いだよ。よろしく」

「あ、ああ。僕はウリエルだ」


 握手を交わす。

 緑がかった黒髪はショートボブで、青緑の瞳には生意気そうな雰囲気がある。


「そしてもう一人。回復術士(ヒーラー)のコーガってのがいるよ」


 シオウが指さした先、さっきまでクシュリナーダたちが座っていたテーブルから、かるく頭をさげる男がいた。

 実直そうな感じの人である。


 なんと、いきなりバランスの良いパーティーができてしまった。

 槍師、魔法使い、回復術士、そして聖戦士。

 クシュリナーダだけがレベル二十六で、他はレベル二十五だ。


 やっぱりこのくらいになると、そう簡単にレベルは上がらないものらしい。

 仕方ないよね。

 魔王ラークと戦うとか、ああいう無茶な真似は、そうそう滅多にはできないからね。


「すぐに向かう? ウリエル」


 クシュリナーダが訊ねた。

 普通だったら装備を調えたりする必要があるけど、僕たちはすでに充分な装備品を持っている。

 あらためて何かを買い足す必要はないだろう。


 と、そこまで考えてアイテムストレージを確認する。

 あー やっぱり弾丸は百発しかなかった。


「ガンスミスショップによってもいいかな? 弾を少し買っていきたいんだ」

「ええ。もちろん。ていうかトウキョウにあったのね」

「トウキョウとサガにしかないんだよ。むしろね」

「なるほど。行く機会のない場所だから興味あるわ」


 にっこりと笑うクシュリナーダ。

 たしかに、戦士はガンスミスショップなんかに用事がないからね。


 それは良いんだけど、なんでシオウはにまにま笑ってるんだ?

 そして、なんでクシュリナーダに小突かれてるんだ?

 謎すぎる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ