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迫撃の銃装戦士編 2


 家に帰ると亜里砂が玄関まで出迎えてくれた。

 なんかちょっとおしゃれして。

 普段はほとんどしないメイクまでして。


 なにやってんの? お前。


「いらっしゃいませ。美月さ……ん?」

「こんばんわ。お邪魔するわね。亜里砂ちゃん」


 くすくす笑う美月先輩。

 あ、誤解ってそういうことか。


 亜里砂のやつ、美月先輩だけ(・・)がうちにくると思ってたんだ。で、大人の女性に負けまいとおしゃれしていたと。

 背伸びしたい年頃なのである。


「テストプレイでコンビを組んでる神代叶恵さんと、『LIO』のシナリオライターの水上聖さんだよ」


 真っ赤っかになってる妹に、叶恵と聖を紹介する。

 大誤解して恥ずかしいだろうからね。助け舟のつもりで。


 ところが、亜里砂の反応はちょっと僕の予想を超えていた。

 ぎゅりんって勢いでこっちに顔を向ける。


「みみみみみずかみ先生っ!? 水上先生って言った!? 兄さん!!」

「お、おう」


 噛み付かれそうである。

 怖い。


「聖って先生って呼ばれる立場なんだなあ」

「びっくりじゃろう?」


 怖いから、妹は放置してまずは客人たちを居間に案内しよう。


「ほっといて良いんですか? 鏑木さん」

「そのうち再起動するんじゃないかな」

「扱い悪いですねえ」

「兄妹なんてそんなもんさ」


 居間には両親が揃っていて、なぜか半笑いだった。

 三人の女性たちがそれぞれの為人で挨拶をする。

 先輩はどこまでもエレガントに、聖は親しげに、叶恵は愛らしく。


 父親がかるく僕の肩を叩いたあと、大きな座卓を居間に運び入れた。

 なんで叩かれたん?


 僕たちは卓上に料理やお酒を並べてゆく。

 いやあ、ちょっと買いすぎたかな。

 でも外で食べるよりずっとずっとお金がかかってないんだけどね。

 宅呑みばんざい。


 そして僕はちょっと台所に移動してソルティドッグを作りましょう。

 ひさしぶりだねー。自分で作るのなんて。


 お皿に塩をしいて、半分にしたレモンでタンブラーの縁を濡らす。

 で、それをお皿にぽんっとつける。

 これでスノースタイルの完成。

 それからロックアイス入れて、ウォッカとグレープフルーツジュースを注いだら、軽くステアしてできあがりだ。


 簡単じゃろう?


 四人分用意して、テーブルに運ぶ。


 するとどうだろう。

 なんと頬を染めた亜里砂が、聖の隣に座っている。

 そして聖もちょっと照れながら、本にサインをしていた。


 まじか。

 亜里砂お前、聖の読者だったのか。

 しかもデータじゃなくて、ばっか高い紙の本なんて、どんだけコアファンなんだよ。


「なんとも照れるでござるなあ」


 握手まで求められて、聖が後ろ頭を掻いている。

 いつも以上に言葉がおかしくなってるから、相当こそばゆいんだろうね。


「こういうシーンを見ると、聖ってほんとに作家なんだなって思うよ」


 皆にグラスを配りながら僕は微笑した。

 もちろん疑ってたわけじゃないけどね。


「なんて失礼なことを言うのよっ! このバカ兄貴は!」


 そして亜里砂にパンチされました。

 ヒドス。


「まあまあ。妹ちゃん。わたしとゆーやんは昔からこんな感じなんじゃよ」


 ふかーふかーと威嚇する亜里砂を聖がなだめる。

 サインを書き終えた本を手渡しながら。


 ちらっとタイトルが見えた。『潮騒の街から』だってさ。

 なんかそそらない題名だね。言ったら亜里砂に蹴られそうだから言わないけど。


「感動ですっ! ありがとうございますっ! まさか兄さんが水上先生と知り合いだったなんて」

「知り合いどころか。高校時代は夫婦漫才って言われてたのじゃよ。なあ、ゆーやん」

「なぜかね」


 肩をすくめてみせる。

 最高の相方ではあったよね。

 夫婦かどうかはともかくとして。


「めおと!? いやでもそれは……くっ! でもありか。ありかもしれない……しかし……」


 亜里砂が百面相を始めた。

 お前さん。いったい何に葛藤をしているんだい?


「いともたやすく外堀を埋めたわね……」

「水上さん……おそろしい人です……」


 そしてぶつぶつ言いながら、すでに飲み始めてる我が社の名花たち。

 せめて乾杯とかしませんか?






 亜里砂がテストプレイヤーだったことは、わりとすぐにばれた。

 というか自分から告白(カミングアウト)した。

 聖がシナリオを担当してるって知ったから、どうしても社外モニターの抽選に通りたかったんだって。


 まったく。

 内緒にしようっていってたのに、このていたらくである。

 基本的に身内(・・)しかいないから良いようなものの。


「で、ゆーやんとしては、わたしに口頭で伝えたいってことじゃな? 銃士の使用感とかを」


 酒もつまみもそこそこ進み、場があたたまってきたところで聖が本題に入る。

 僕は軽く頷いて見せた。


 こんな宴会など開かなくても、普通に僕と聖が会って話せば良いだけなのに、叶恵と美月先輩が強硬に反対したのである。

 一対一などとんでもない、と。


 でも現実問題、銃士の話なんて、その役割(クラス)をプレイしてない美月先輩や亜里砂にはさっぱり判らないだろう。

 技術部の叶恵だけ、かろうじて関係がありそうってだけだ。


「やっぱり少し強すぎるね」

「モノにお金がかかってもかい?」

「そこが問題なのさ」


 今現在、銃や弾丸の価格が高いことでバランスをとっている。

 それはそれでありだとは思うんだけど、ゲームとして考えた場合、つまらないと思うのだ。

 せっかく銃士になったのに、思うように銃が撃てないというのは。


 僕はテストプレイって性質上、資金とかを気にすることなく戦ったけど、実際はそうはならないからね。

 資金繰りにひいひい言いながらプレイするってのは、楽しみ方としてちょっとばかりコアすぎる。

 どんだけマゾゲーだよって話である。


「銃を持つなら、バカスカ撃ちたいと思うのさ。僕としては」

「つまり銃の威力を下げた方が良いってことじゃね?」


 先回りして聖が確認する。

 頷く僕にちょっとついてこれなかったのか、叶恵がきょとんとした。

 僕と聖の間柄である。

 お互いの言いたいことはだいたい判るのだ。


「弾丸をぐっと安くして簡単に買えるようにする。気持ちよく撃ちまくれるくらいにね。そのかわり弱くするのじゃよ。五分の一くらいが適当かのう」


 リアリティという部分からはちょっと離れる。

 普通に考えたら、五発も六発も撃たれて平然としている人間はいないだろう。

 けど『LIO』はあくまでもゲームだし、敵も人間ではない。銃弾は効果が薄いって説明でいけるのではないか。


「そして効果が薄いからこそ安価である、とかね」

「となると、いまはもう作られてないって設定は、いじったほうがいいかもねい」


 ふむむ、と、聖が端末腕環を操作する。

 アイデアをまとめてるのだろう。


「ゆーやんの記録(ログ)にあった「銃は等化器」って言葉、使っていいかい?」

「ああ。もちろんだよ。聖」


 誰にでも同じだけの(パワー)を与えてくれるって意味だ。

 ゲーム内なら、筋力度とか関係ない。いくら高くても補正はつかないし、いくら低くてもペナルティはつかない。

 剣や槍なら、必要筋力度ってのがあるからね。


「そのラインでいくかねい。話をすこしいじることになるけど」

「そんな簡単にいじれるものなのか?」

「もう慣れたもんじゃよ。突然連絡がきて、三日後までにここを何とかしてほしい、なんてザラだったからのう」

「ひでえな。うちの会社」


 なんとかってなんだ。なんとかって。

 具体的な指示もなく、直してほしいとか。

 鬼畜か?

 そしてそれに応えちゃう聖って、修羅か?


「つまり、そんなに強くないけどバカバカ撃てるって感じになるのね?」

「そうじゃね。王さんや」

「それのほうが面白いかもね。出し惜しみしながら戦うってのは、けっこうストレスだもの」


 美月先輩も納得したようだ。

 現実ならともかく、『LIO』はゲームだからね。


 叶恵と亜里砂もこくりと頷いた。

 ていうか、よく考えたら聖と叶恵いがい、銃士の戦い振りなんか知らないじゃんか。


 なんで訳知り顔で頷いてんだよ。

 美月先輩も、亜里砂も。


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