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迫撃の銃装戦士編 1


 なぜか不機嫌になった叶恵をなだめ、僕は実験室を出る。

 ちなみに機嫌をとるために切ったカードは、聖と会うときに彼女も同行する、というものだった。


 しかも叶恵だけでなく美月先輩も。

 解せぬ。


 結局、また四人で食事ですよ。

 なんで僕と聖が二人きりで会うことを、叶恵も美月先輩も警戒してるんだって話だ。


 聖は親友なんだから、間違いなんか起きるはずもない。

 仮に、万が一の可能性として僕と聖がつきあい始めたとしても、叶恵にも美月先輩にも、関わり合いのないことだ。


「まさか、じつは二人とも僕のことを憎からず想ってるとか?」


 うーん。

 さすがにないか。


 叶恵は国立大学卒の才媛だし、僕みたいな三流私大を出た凡才を相手にするとは思えない。

 美月先輩だって、あの美貌だもの。

 間違いなく引く手あまただろうから、僕なんかを恋愛対象とみるわけがないってやつだ。


 たぶんあれだね。一緒に遊んでも安全な男、という認識なんだろうね。

 なんてせちがらい世の中だ。


 僕の女神は、いったいどこにいるのだろう。

 クシュリナーダみたいな。

 また会えるかなあ。


 ていうか、僕もたいがいだよね。

 会いたいなら、別れ際にIDの交換をすれば良かったんだ。格好つけずに。


 そこで躊躇っちゃうんだから、亜里砂からヘタレ扱いされるのもやむをえなからざるところだろう。

 しょんぼりである。


 まあ、しょんぼりしてばかりもいられない。

 店を探そう。


 とっておきはもう出しちゃったからなあ、どこにしようかな。

 肉かな。

 すき焼きとか。


「あ、先に家に連絡しておかないと」


 極端には遅くならないだろうけど、夕食はいらない旨は伝えておかないとね。

 気遣い屋の母は、作っちゃう人だから。


 端末腕環を操作して自宅に連絡を入れる。

 個人ではなく家の端末に繋いだのは、べつに深い意味があったわけじゃない。なんとなくだ。

 けど、その気まぐれが重大な結果をもたらすことがある。


『はい。鏑木でございます』


 とても丁寧な口調と美しい声で応答したのは、なんと亜里砂だったのだ。


「亜里砂? なんでお前が家にいるんだ?」

『なんでとはご挨拶ね。ウチが家にいたらいけないわけ?』


 ぽんと端末腕環から3Dウィンドウがポップアップして、亜里砂の上半身が目の前に現れる。


 いつも思うんだけど、これって無駄機能だよなあ。

 声だけで良いと思うんだけどね。べつに顔が見えなくても。


 なんでも、百年くらい前に電話を使った詐欺が横行して、それでこんな機能が一般化していったんだそうだ。

 互いに顔も見えるし、通信記録は一字一句あまさず端末に記録される。


 えらく堂に入ったセキュリティだけど、当時は被害総額が地方都市の年間予算並みに膨れあがるほどだったらしいよ。

 怖ろしい時代だね。


「だってお前、平日の昼間から学生が家にいたら驚くだろ。普通は」

『は。社会人になると、夏休みって言葉すら忘れてしまうようね』


 鼻で笑われた。

 そっかー 夏休みかぁ。

 いいなあ。学生。


 僕も長期休暇ほしい。高校生みたいに五十日くらいの。

 うちの会社の夏期休暇って、交代で八日間とれるだけだから。


『そんなに哀しそうな顔をしないでよ。兄さん。なんかウチが悪いことしてるみたいじゃない』

「わりわり。つい」


 馬鹿話で盛り上がってしまう。

 ここは会社の廊下で、僕はまだ就業中なのに。


 女子高生といかがわしい会話をしていました、なんて噂が立ったら、僕の社会生命は終わってしまうだろう。

 くわばらくわばら。


「裕也くんが女子高生といかがわしい会話をしてる」

「げぇぇ! 美月先輩っ!?」


 いきなり社会生命の危機である。

 僕の背後に美月先輩が立っていた。


『あ、美月さん。兄がいつもお世話になってます』

「おひさしぶりね。亜里砂ちゃん」


 そして、ごく普通に会話を始める女性二人。

 僕の存在なんて、つけあわせのパセリ程度のものである。

 理不尽なり。


「で、いったいどうしたの? 仕事中に妹さんにラブコールなんてして」


 美月先輩が訊ねる。

 いいがかりだ。

 なんで僕が亜里砂にラブコールをしなくてはならないのか。


「今夜、食事に行くじゃないですか。その連絡ですよ」


 肩をすくめながら応える。


『わざわざ外で食べなくても、うちにきてもらったら良いじゃない』


 画面の向こう側で亜里砂が笑っている。

 なんか微妙に迫力のある笑顔だ。


「じゃあ、ご挨拶を兼ねてお邪魔しちゃおうかしら」


 対する美月先輩が、にやりと笑った。

 にっこりと表現したいところだけど、どうみてもにやりだ。


『挨拶!?』

「ええ。ご両親にも挨拶しないと」


 怖い。

 このふたり、なんか怖い。


『……お待ちしておりますわ。美月さん』

「またあとでね。亜里砂ちゃん」


 時間とかを確認して通話が終わる。

 耐えかねたように美月先輩が吹き出した。


 なんだなんだ?

 僕は首をかしげる。意味不明だ。


「なんなんです? 美月先輩」

「ん? たぶん亜里砂ちゃんは誤解しただろうなって話よ」


 花が咲くような笑みだ。

 誤解を招くような発言なんかあったかな?






 定時で仕事を終えた僕たちは、聖と合流して自宅へと向かう。

 途中、スーパーマーケットに立ち寄って惣菜だのお菓子だの酒だのを買い込んだ。


「なんだかこういうのも楽しいねい。ゆーやんや」


 二十一世紀も終わろうというのに、いまだ決着をみない戦争を続けているお菓子を両方ともカゴに入れながら聖が笑う。


「だね。家に来るのは七年ぶりくらいか。聖は」

「卒業式いらいじゃからのう」


 懐かしいね。

 高校の卒業式のあと、仲の良かった友人たちと僕の家で宴会をしたんだ。


 なんで会場が僕の家だったかといえば、父子家庭だったからさ。ようするに昼間は親が不在だってこと。

 卒業記念ってことで、お酒を飲むのも咎められないからね。


 法律に照らせば十八歳から飲めるんだけど、在学中はさすがに怒られちゃうのさ。

 卒業と同時に解禁ってことで、ぱーっと騒いだんだ。

 初めての飲酒で、みんな大変なことになっちゃったけどね。


「あ、でもそうすると、聖は母と妹を知らないのか」

「おじさん再婚したんだっけ?」

「そそそ」

「そしてゆーやんは、血の繋がらない妹と禁断の恋に……」

「なんでやねん」


 華麗な裏拳ツッコミを聖の肩に決め、二人で笑い合う。

 うん。

 このスタンスが心地良い。


「強敵ね……」

「あそこまで踏み込まれてるとさすがに……」


 そしてまた美月先輩と叶恵がぼそぼそ喋っている。

 微妙に僕たちから距離を取って。


 他人のフリをすんなー。

 言いたいことがあるならはっきり言えー。


「神代ちゃんも王さんも乙女じゃからのう」


 そして聖の謎コメントである。

 乙女とはなにか。

 難しいテツガクだ。


「あ、塩も買わないと」


 テツガクは僕には判らないので、食材の仕入れを続けよう。


「んん? またソルティドッグかい? ゆーやん」


 あんたも好きねえと笑う聖。

 紹興酒党の僕だけど、ソルティドッグというカクテルか好きなのだ。初めて飲んだお酒もこれだった。


 グラスの縁に塩をまとわせるスノースタイルってヤツが、なんか格好いい上に美味しいのである。

 しかもウォッカとグレープフルーツジュースを混ぜるだけだから、とっても簡単だ。


「でもゆーやん。べろべろと塩を舐めきってしまうのは間違った飲み方らしいよ」

「まじでっ!? あれが美味しいのに!」

「あんたは酒が飲みたいのか。塩を舐めたいのか」

「どっちかっていうと塩かな?」

「なんでやねん」


 今度は聖の裏拳ツッコミが僕の肩に決まる。

 これだ。

 こうでなくては。


 そして聖が、美月先輩と叶恵に笑いかける。にっこりと。

 ツッコミはこうやるんだよって指南してるみたいだ。

 べつに漫才講座とかやってるわけじゃいんだけど。


「くっ」

「やりますね……」


 なぜか悔しそうにする二人。

 まじか。あんたらも漫才やりたいのか。

 意外とノリの良い人々だなぁ。


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