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荒野の二丁拳銃編 7


 戦い続け、殺し続ける。

 どのくらいそうしているのか、もう時間の感覚もない。


 何匹の竜人を倒したのかも、もう判らない。

 ただひたすら、視界に入ったモンスターを撃ち殺す。

 機械のように。


「ぐあっ!?」


 ワトの声が響いた。

 良いダメージをもらってしまったらしい。耐久ゲージが危険領域(レッドゾーン)に入っている。


 しかし彼は戦い続ける。

 飽くことなく、退くことなく。

 むしろ危機を感じたのは僕の方だ。


「ワト! 回復を!!」


 叫ぶ。

 返ってきたのは左手のOKサイン。


 なんでOK?

 違うか。あれは人差し指と親指で、ゼロを作ったんだ。


 回復薬は使い果たしてしまったのかよ。

 仕方ない。ずっと無補給なんだから。


「さがれ!」


 ワトの周囲広範囲を射撃して後退の契機を作る。


「これを!」


 さがってきた剣士に、アイテムストレージから出した回復薬を投げ渡した。


「すまん!」

「最後のひとつだ! 大事に使って!」


 そう。

 僕の手持ちもこれで打ち止め。


 そしてもうひとつ、かなりまずい事実に気付いてしまう。

 残弾だ。


 回復薬を取り出すときに見えてしまった。

 三十二、という数字が。

 もともと持っていた百発はとっくに使い果たし、サガのガンスミスショップで買った弾丸に移行している。

 それも、あと三回フル充填したらおしまいだ。


「……やばいかな。こいつは」


 だいぶやっつけたとはいえ、竜人はまだ二十近く残っているだろう。

 建物とかを盾に使われるから、どうしても射撃効率は悪くなってしまう。おしなべれば、一匹倒すのに六、七発は使ってる計算になるのだ。


「あきらめちゃダメよ。レックス」


 この苦境にあって、なお輝きを失わないクシュリナーダの美貌だ。


 いやまあ、傷とか汚れとか汗とかのエフェクトは存在しないので、どんだけ疲れていても耐久ゲージが減っていても、外見上の変化はないんだけどね。

 僕がいうのはそういう意味でなく、こんな状況でも怯まずに前を向こうって彼女の心意気が美しいってこと。


 惚れ惚れする。


「ああ。そうだね。クシュリナーダ」


 もう一度気を引き締め、僕は拳銃を構えた。

 本当に、きみには驚かされてばかりだよ。


 魔王ラークと戦ったときから、いや、サッポロで出会ったときから、僕はずっときみに憧れているんだ。


 連続する銃声。

 唸りをあげる長剣。

 閃光のように突き出される魔槍。


『ここから先は! 一歩も通さないっ!!』


 三人の声が唱和する。

 村人たちが逃げ込んだ建物を背後にかばって。


 もう何十波になるか判らない竜人どもの波状攻撃が押し寄せる。


「いかせないと言っただろ!」


 二丁拳銃が火を吹き、連続して叩き込まれた銃弾が先頭の竜人を光に変える。

 その光の中から現れる次の竜人。


 さっきから、この連携が厄介なのだ。

 倒された味方を盾にして、死角から攻撃してくるのである。

 しかも今回は数が多い。


「きゃっ!?」


 集中攻撃を受けたクシュリナーダが吹き飛び、後ろの壁に激突する。

 すぐに追い打ちをかけようとする竜人。


「伸びろ! マリーゴールド!!」


 半ば倒れたような状態から魔槍を伸ばして一匹を屠ったのはさすがというしかないが、これでクシュリナーダは手詰まりだ。

 その体勢では得意の体術も使えないし、伸ばした槍を回収するだけの猶予を敵は与えてくれない。


 二匹の竜人が迫る。


「くっ!」


 勝手に身体が動いた。


 左右の拳銃に残っていた弾丸を、まとめて叩き込む。

 僕の方に迫ってくる竜人を無視して。


 竜人が二匹光に変わるのと、僕が斬られるのは同時だった。


「ぐあ!?」


 一気に危険領域まで落ち込む耐久ゲージ。

 僕たち銃士は、戦士ほどの防御力がないから。


 竜人の攻撃を二発なんて耐えられない。

 片膝をつく。


 にやりと好戦的な笑みを浮かべた竜人が、ふたたび蛮刀を振りあげた。

 回復薬はもうない。銃をホルスターに戻しても再充填に五秒かかる。そもそも戻して腰のダガーを抜くほどの余裕もない。

 敵は目の前なのだから。


 万事休(ばんじきゅう)すだ。

 ここまでか!


 と、思った瞬間、横合いから伸びてきた脚が竜人の頭を蹴り飛ばした。


 クシュリナーダ!?

 どうやって!?


「あたしをかばって死ぬとか、百年はやいわよ。そんなかっこつけ」


 降ってくる声。

 見れば、さっきまで彼女かいた場所から、こちらに真っ直ぐ伸びている槍の柄。


 なんとクシュリナーダは、地面に突いた槍を発射台がわりにして自分自身を飛ばしたのである。

 無茶すぎる。


 そして光に包まれる僕の身体。

 耐久ゲージが回復してゆく。

 回復薬?

 僕はもう持ってないのに。


「ラス一よ。私もこれで打ち止め」

「いやいや。自分に使いなよ……」


 彼女だってさっきの一撃で、耐久ゲージは半分以下になっているのだ。

 僕なんかに使っている場合ではないだろう。

 にやりとクシュリナーダが笑う。


「女のために命を捨てる馬鹿な男がいるんだもの。最後の薬を男に使う馬鹿な女がいても不思議じゃないでしょ」


 それを言われると、一言も言い返せないね。

 まったく。

 いい女だよ。きみは。


 勢いをつけて立ちあがる。

 ホルスターに拳銃をぶち込む。

 充填されてゆく弾丸。

 アイテムストレージの残弾がゼロになり、弾倉表示が消える。


 傷を負いながら、ワトが竜人を切り伏せた。

 彼の耐久ゲージも、半分ちょっとしか残ってない。


 残った敵は十匹ってところか。

 OK。


「僕が前線に出て、できるかぎり数を減らす。残った奴らは二人で倒してくれ」


 覚悟完了だ。


 二人の返事も待たずに駆け出す。

 クシュリナーダがなんか叫んでるけど、気にしない。

 これは男の美学(かっこつけ)だから。


 おそらく、というか疑いなく僕はここで死ぬ。

 けど、これしかないんだよ。きみが生き残れるであろう道はね。


 三人仲良く討死(うちじに)ってのは、僕の好みじゃない。なにがなんでも生き残ってもらうからね。クシュリナーダ。






「うおおおおっ!」


 叫びとともに突進。

 振り下ろされた蛮刀を紙一重で回避して懐に潜り込み、顎の下から銃弾を叩きこむ。

 まず一匹!


 左右から突き込まれる刀。


「遅い!」


 バク転して回避。

 空中で両腕を伸ばして、左右の竜人どもの頭を撃ち抜く。

 これで三匹。


 着地と同時に横っ飛びしながら、突進してきた一匹の足を払う。

 無様に転倒したそいつの頭に一発。


「四匹。さあ、次はどいつが殺されにくる?」


 笑ってみせる。

 弾丸は残り八発、敵は六匹。


 前後左右から竜人どもが襲いかかってくる。

 四匹同時か。


 まずは正面!


 発射した弾丸は掲げた盾に防がれる。

 くそ! 読まれてたか!


 舌打ちしながら続けざまに四発撃ち込み、なんとか倒して退路を作る。

 囲みを破っていったん距離を……。


「え?」


 倒した敵の向こう側にも、やっぱりが敵いる。

 包囲は二重。

 慌てて方向を変えようとしたが遅かった。

 振り抜かれた蛮刀が腹を薙ぐ。


「ぐ……」


 ごっそりと削れる耐久ゲージ。

 一気に減りすぎたため、次の行動が疎外される。

 がくりと膝をついてしまう。


 そんな僕を尻目に、クシュリナーダたちの方へと向かおうとする竜人どもが四匹。

 死に損ないの僕には一匹残れば充分ってかい?

 ふざけるな。


 ずるずると這って竜人の足首を掴む。


「どこにいく気だよ……お前らの相手は僕だ……」


 微弱な抵抗を鼻で笑った竜人が蛮刀を振りあげる。

 しかし、それが振り下ろされることはなかった。


 真横に吹き飛ばされる竜人の頭。

 タァーン、という銃声は、遅れて聞こえた。


 視線を巡らすと、馬に乗った男たちが数人、こちらへと駈けている。


 馬……いたんだ……。

 じゃあ僕の靴についてる拍車は、ただの飾りじゃなかったんだね。

 どうでもいいことを考えてしまう。


 先頭はガンスミスショップのセイギだ。

 美味しいところを持っていくなあ。


 突然の援軍に、竜人どもが動揺する。


 そして僕は知っていた。

 その動揺につけ込まないほど、クシュリナーダもワトも甘くないってことを。


 同時に突進した剣士と槍師。

 長剣と魔槍が、次々と竜人を薙ぎ倒す。


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