荒野の二丁拳銃編 6
残り八匹!
一気に半数以上を撃破したのは上出来だけど、やっぱり数は力だね。
クシュリナーダに二匹、ワトにも二匹、そして僕には四匹が突っかかってくる。
判断としては間違ってない。
なにしろ僕の撃墜数が最も多いから。
けどね。
それは悪手なんだ。
クシュリナーダとワトを甘く見ちゃったね。
「剣技! 唐竹割り!!」
ジャンプ一番、竜人の脳天から股下までをワトが一刀両断する。
すげえ!
掲げた盾ごとばっさりですよ。
そういう剣技もあったんだねえ。
「ぐ……」
だが、スキル発動後の硬直を突かれ、大きく跳ね飛ばされてしまう。
二度三度と地面にぶつかりながら。
耐久ゲージが、一気に半分近く持っていかれる。
追い打ちをかけよう近づいた竜人の足を、しかし彼は素早く起きあがって払った。
ぐらりとよろめいたところで、
「剣技! 昇竜閃!!」
伸び上がりざまに一閃。
今度は股下から脳天までを存分に切り裂いた。
そしてふたたびの硬直。
もしもこの一瞬に攻撃を受けたら、相当にやばい状況になっただろう。
かなり捨て身の戦いだ。
どうしてそんな無茶ができたのかといえば、もちろん向かってきた敵が二匹だけだったから。
レベル二十五の剣士は竜人の一撃では死なない、と、判断しての、まさに肉を切らせて骨を断つ。
剛毅な御仁である。
でも、もし向かってきた竜人が三匹だったら、この手は使えなかっただろう。
これが竜人どもの悪手なのだ。
ばぁぁ、と、光に包まれるワトの身体。
回復薬を使ったみたいだね。
耐久ゲージが元に戻ってる。
クシュリナーダの戦況は、ワトに比較して楽そうだ。
槍の方が、剣よりも竜人と相性が良いらしい。
リーチも違うし、まして彼女のマリーゴールドは伸縮自在だから。
蛮刀の有効範囲外から、ざっすざっすと刺してくるんだもの。竜人としてはたまったものじゃない。
しかも彼女の動きは、あの魔王ラークが「ちょこまかと!」って怒ったくらい速いからね。
ごりごりと地味に耐久ゲージを削られ、クシュリナーダと相対していた竜人二匹は、なんの盛り上がりもなく倒されてしまう。
うん。
お見事。
そして僕である。
迫ってくる竜人四匹。
盾で顔をガードしながら、ある程度のダメージを覚悟の上で。
「まあ、そうくるよね」
クリティカルヒットは狙えない。
なら確実にダメージを蓄積させて倒すのみ。
両手に銃を構えて走り出す。
敵のど真ん中へと。
まさか向かってくるとは思わなかったのか、ほんの一瞬だけ竜人が戸惑った。
その隙を逃がすことなく、僕は前方に身体を投げる。
慌てて振られた蛮刀が、一瞬前まで僕がいた場所を薙いだ。
ごろごろと転がり、起きあがりざまに左右二発ずつ。
正面にいた竜人に叩き込む。
よし。
削りきれた。やっぱり至近距離なら四発でいけるね。
射程ぎりぎりならもっと必要だけど。
そのまま右へ横っ飛び。
派手な音を立てて、振り下ろされた蛮刀が大地を叩く。
舞い上がった砂礫が、ばしばしと身体に当たった。
「いていていて」
いや、べつにダメージはないんだけど、つい言っちゃうんだ。
痛い気がするのよ。
即席の霧で悪くなった視界の中、竜人の目が僕をさがして彷徨う。
そしてその姿勢のまま、ゆっくりと倒れ込んだ。
きらきらと光の粒子に変わる。
銃士の視力をなめんなよ。丸見えだから。
ゆーて、命中ポイントをしめす赤い光は見えないから精密射撃はできないけどね。
だからこそ近接戦闘をやってんのさ。
狙わずに当てられる距離だから。
あと二匹。
左右の銃は、残弾二発ずつ。
計算上、二匹は倒しきれない。
と、おもうじゃん?
「銃技! シューティング・ザ・ムーン!!」
左右から同時に襲いかかってきた竜人に両腕をクロスしたままで射撃。
こんな撃ち方をして当たるわけがない。
が、スキルは必中だ。
そしてこの銃技は、相手の急所を確実に撃ち抜く、というもの。
僕は二丁の拳銃を装備しているから、二匹に対して同時に使うことができる。
頭を撃ち抜かれ、竜人どもがゆっくりと後ろに倒れる。
光の粒子に変わりながら。
どーよ?
片膝を地面につき、両腕を交差させたまま、僕はにやりと笑った。
「おみごと。レックス」
自分の受け持ちの敵を倒し、僕を援護しようと駆け寄ってくれたクシュリナーダが拍手する。
「素晴らしい戦いぶりだったな」
ワトも褒めてくれた。
僕はポーズを崩さない。
「…………」
「…………」
きょとんとするふたり。
なにやってんだお前って目で。
「……このスキルの硬直時間は十秒もあるんだよ……」
ぼそりと、僕は言った。
大変に強力なスキルなので、反動も大きいのです。
二回同時に使った計算だから、二十秒だ。
うん。
なにも言うな。
判ってるから。
言いたいことは全部わかってるから。
なまら格好つけたポーズのまま、僕はワトとクシュリナーダの、なまあたたかい視線に晒され続けた。
つらい。
農場の方から、警鐘と悲鳴が響く。
僕の硬直が解けたと同時くらいに。
「なに!?」
驚いて振り返るクシュリナーダ。
「やられた! 別働隊か!」
ワトが無念の臍を噛む。
僕たちが戦った二十匹。彼らは敵のすべてではない。
竜人の盗賊団は、あと四十匹も残っているのだ。
そいつらは本拠地にじっとしていたのではなく、ぐるりと農場を迂回して反対側から接近していたのだろう。
つまり僕たちは、まんまと敵の囮作戦に引っかかったというわけだ。
「くそっ!」
「悔しがるのは後! 急行するわよ!」
地面を蹴りつけた僕の肩をぽんと叩き、クシュリナーダが駆け出す。
そうだった。
悔やんでいる場合じゃない。
村人たちを助けないと。
「行こう! レックス」
「ああ!」
ワトと僕も走り出した。
みんな、無事でいてくれ!
最高速に乗って駈けること一分ちょっと。
農場で暴れる竜人どもが視界に入った。
やばい。
もう中に入られてる。
農場の周囲に張り巡らされた柵は、ほとんど何の役にも立たなかったようだ。
逃げまどう農民たちを追い回す竜人ども。
子供たちを守りながら避難させていたチコにも、蛮刀が迫る。
「くっ! チコ!!」
射程ぎりぎりから発砲し、なんとか竜人を倒した。
六発かよ。
いきなり全弾撃ち尽くしてしまった右の拳銃を収納しながら、さらに駈けた。
僕を追い抜いて、クシュリナーダとワトが竜人の中に乱入する。
「みんな! 無事か!!」
叫びながら。
「ここは私たちが引き受けるから! みんなは建物の中に避難して!」
もちろん建物が安全なわけじゃない。
乱入されたら、むしろ逃げ場がないくらいだ。
だけど、外にいたら本当に無造作に殺されてしまう。
すでに何人かの遺体があちこちに転がってるのだ。
くそ!!
よくもやってくれたな! モンスターどもが!!
怒りに燃えながら、目につく竜人を撃ち殺してゆく。
倍返しだ!
連続して火を吹く拳銃。
効率とか考えない。
僕の視界に入った敵は、すべて殺す。
が、やはり数が多い。
三人で四十匹を相手にしているのである。
建物とかを盾に使えるけど、それは敵だって同じだ。
撃ち尽くした拳銃をホルスターに収め、逃げ遅れた村人をかばいながら移動する。
どこだ。
どこで失敗した?
丘の上に見えた二十匹は、放っておくべきだった?
農場から外に出るべきじゃなかった?
頭の中で疑問と後悔が渦を巻く。
「ぐ……」
集中を乱した背中を斬られる。
がくんと減る耐久ゲージ。
背後から忍び寄られていたらしい。
無言のまま、背中越しの連射。
斬りつけた竜人の顔すら見ないまま。
「お兄ちゃん……」
「無事だったかい? チコたちのところへ行くんだ」
心配そうな子供の背中をぽんと叩き、建物の方へと向かわせる。
一撃で七割も持っていかれるとは。
アイテムストレージの回復薬を使用する。さっきの戦いで得たものもふくめて、のこり五つか。
上等。
使い切るまでに全滅させればいいだけだ。
「さあ! 死にてえヤツから前に出ろ!!」




