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荒野の二丁拳銃編 5


 昨日と今日で倒した竜人は十匹。


「次の手をどう打つかで敵の程度が知れるな」

「だね。捜索隊とか出すなら奴らは三流さ」


 ワトの言葉に僕は頷いた。

 七十匹の集団だとして、すでに十四パーセント失っているのである。

 これ以上戦力を小出しにするとしたら、ぶっちゃけバカ以外のなにものでもない。


「そういうものなの?」


 クシュリナーダが小首をかしげる。

 強く、勇気があり、人望もある彼女だが、あまり軍事知識は持っていない。

 そりゃあ僕だって詳しいってほどじゃないんだけど、その僕と比較しても知らない感じだ。


 こればかりは仕方ないけどね。

 軍略とか戦術とか、興味ない人にはまったくないだろうし。

 まして女性だったらなおさらだ。


「最初に四匹倒された。これは偶発的な事態だと思うんだ」

「そうね」

「次に六匹倒された。ならこれはどういう状況だろう?」

「偵察に出した連中がやられちゃったってことでしょ」


 なにを決まり切ったことを訊いているのか、という顔の槍師である。

 まったくその通りなんだけど、それは僕たちが倒した側だから判ることなんだ。


 敵にしてみれば、偵察に出した六匹がどこかでサボっているのか、逃げてしまったのか、倒されたのか、まだ農場で遊んでいるのか判らない。

 子供じゃないんだから、まだ心配する時間でもないしね。


 ただ、二日連続で部隊が戻らなかったら、さすがに不審に思うだろう。


「ようするに竜人のボスは決断しなくてはいけないわけだ。もう一度、誰かに調べにいかせるか、自分で調べるか、あいつらはどこか遠くで幸せになっているだろうと忘れてしまうか」


 僕の説明を補足するように言ったワトが、最後は冗談めかして笑う。


「なるほどねえ。それはたしかに重い決断だわ」


 頷くクシュリナーダ。

 状況が見えない、というのは非常に怖ろしいことなのだ。


 その恐ろしさのなかで、最も正解に近い判断ができるか、というのがリーダーの資質を計るひとつの秤である。

 忌避すべきは希望的観測。


「この場合だと、先に出た十匹は生きていて、なんらかの事情で戻ってきていないだけ、というやつになるね」


 ちょっと気になるから、五匹ばかりで迎えに出る。

 というのが、最も愚かな決断だ。


 そして、僕たちにとっては、最もやってほしいことである。

 五匹で六匹でも良いけど、またまた各個撃破できちゃうから。


「なら、逆に一番やって欲しくないことは?」

「それは簡単だよ。クシュリナーダ。先発した連中はすでに殺されていると判断して全軍を挙げて動く。殺せるだけの戦力が農場にあるものと考え、充分な備えをしながらね」


 つまり、まったく油断せずに、必勝の態勢で挑むということだ。

 それでこられると、ちょっとというかかなり厳しい。

 数の多い方に冷静な判断なんかされたら、たまったものではないのである。


「油断していない相手というのは常に強敵だ。竜人にかぎらずな」

「たしかにね」


 クシュリナーダが大いに頷く。

 ワトの言い方に感じるものがあったのかもしれない。

 あるいは、彼女自身がスポーツや武道などで人と対戦した経験があるのかも。

 それから、少しだけ笑った。


人工知能(AI)のモンスターが相手なのに、ここまで真剣に対応を考えるとか。私たちもたいがいよね」


 まったくです。

 けど『LIO』の敵キャラって、漫然と戦って勝てるほど生やさしくはないんですわ。

 まして高レベルになってくると、なおさらだ。


 いまにして思えば、邪小鬼とかに殺されていた魔法少女時代が懐かしいね。


 クシュリナーダのもっともすぎる意見に肩をすくめる僕とワト。

 そのとき、敵の接近を報せる警鐘が鳴り響いた。


 そうら、おいでなさった。





 僕が偵察隊をやっつけた丘のあたりに現れたのは、二十匹ほどの集団だった。


「こうきたか……まったく、予想の外側を突いてくれる」


 苦虫を噛み潰したようなワトの顔。

 気持ちは判る。


 全軍を挙げて動くか、あるいはまた少数の部隊を送り込むか。僕もどちらかだと思ってた。

 まさか、それなりの数の戦闘部隊での威力偵察、なんて方法をとるとは。


 二十という数字が、じつにいやらしい。

 六匹で負けたから次は十匹、なんてせこい計算ではなく、しっかりと勝算のあるラインで攻めてくる。

 やりづらい相手だ。


 こちらが打って出るか否か、というだけでも、敵にはけっこうな情報が渡ることになる。

 六なら戦えるけど二十なら籠城するか。

 二十でも打って出るか。

 これだけでも、かなーりありがたい情報だからね。


「まったく、本当に機械なのか? こいつらは」

「ぼやかないぼやかない。全滅させるよ」


 愚痴るワトの肩を、ぼんぼんと僕は叩いた。

 この上は、持ち帰られる情報をできるかぎり減らす、というのを念頭に置いた方が良いだろう。

 一匹でも二匹でも取り逃がすと、それだけ知られることも多くなってしまう。


「じゃ、いきましょうか」


 に、と、笑ったクシュリナーダが歩き出した。

 右手に持ったマリーゴールドで、肩をとんとんしながら。

 好戦的な槍師である。


 まあ、ぐだぐだと対策を協議しているよりは身体を動かしたいって気持ちは判る。

 会議なんかに出てるより外回りしていた方が楽しいしね。


 営業なんて、相手に会ってなんぼですよ。

 会議室であーだこーだと喋ってたって契約なんてとれないのさ。


「三人フル前衛でいいんだな? レックス」


 最終確認をするワト。


 うん。

 それで問題ない。

 銃士は、魔法使いみたいに守ってもらわないといけないほど弱くないからね。


「あ、忘れるところだった」


 さっき拾った回復薬を一本ずつ、クシュリナーダとワトに渡しておく。

 僕たちのパーティーには回復役は存在しない。

 だから自分の判断でアイテムを使うしかないのである。


 戦闘が始まったら、仲間を見ている余裕はなくなるからね。

 それがフル前衛だ。


「さあ、見えてきたよ」


 竜人どもが、ぞろぞろと丘をくだってくる。

 隊列もなにもなく、それぞれが勝手に戦おうって構えだ。

 右手で拳銃を抜いて狙いを定める。

 相手の数が多いからね、弾が途切れない戦い方をするさ。


「さあ、ショウタイムだ!」


 轟く銃声。

 先頭を歩いていた竜人の頭が吹き飛ぶ。

 挨拶がわりの一発だ。

 気に入ってくれたかい?


 視界に浮かぶ致命的な攻撃(クリティカルヒット)の文字。

 同時に、クシュリナーダとワトが駈けだした。


 対する竜人どもは蹈鞴(たたら)を踏む。

 いきなり遠距離攻撃があるとは思わなかったらしい。ここまで一匹も逃がしてないのが効いてるね。

 機先は制したぞ。


 慌てふためく竜人どもを、一匹また一匹と撃ち倒してゆく。

 頭をガードしようと盾を上げるやつもいるけど、そろって行軍しているわけじゃないのが裏目に出たね。

 動きがバラバラだよ。


 六発の弾丸で四匹。

 悪くない。

 右手の銃をホルスターに収納し、左手で右脇の拳銃をとった。


 そのときには、槍師と剣士が敵陣に突入している。


 棒高跳びの選手のように空中を舞ったクシュリナーダ、落下速度まで利用したドロップキックでまずは一匹、さらにそこからジャンプして別の竜人の肩に飛びつき、フランケンシュタイナーで投げ飛ばす。


 マンガみたいな格好で頭から地面に突き刺さった竜人が光に変わってゆく。

 相変わらずお強い!

 ほんと、憧れちゃうよね。


 ワトも負けてはいない。

 竜人相手に相性の良くない長剣だが、相手の攻撃をうまくいなしながら、カウンターで着実に倒している。

 昨日みたいに村人をかばいながらじゃないから、だいぶやりやすそうだ。


 二人が好き勝手に暴れ回るもんだから、竜人どもはたまらない。

 最初から隊列を組んで隙なく前進してれば、こんなことにはならなかったのにね。


「残念無念ってやつだね」


 たんたんとリズミカルに発射される左の拳銃。

 六発で三匹。

 うーむ。

 良しとしたもんかな。


 あ、良い感じに耐久ゲージの減った一匹の胸を、クシュリナーダの槍が貫いた。

 そつがない!


 僕たち三人は、順調に竜人どもを減らしてゆく。


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