表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/41

雷光の大魔法使い編 2


「ヤイバだ」


 言葉短く剣士が名乗った。

 短くした黒髪の目つきの鋭い男で、腰に差した日本刀も格好いい。

 かなりシャープな印象である。


 レベルは二十五。

 どこかで聞いたような数字ですね。


 はい。

 この人もまたテストプレイヤーだ。当然のようにNPCではない。

 我が社の社員である。たぶん。


 社外モニターの可能性もあるからね。

 訊ねるわけにもいかないけど。


「私はカルラ。レンジャーよ。よろしくね。スザク」


 右手を差し出す美しい女性もプレイヤーキャラクター。

 金髪で青い目だ。


「クシュリナーダっていうわ。仲良くやりましょう」


 そしてもう一人、黒髪の槍使いもいた。

 運命的だなぁ。


 ようするに僕を入れて、なんと四人のプレイヤーが集ったわけだ。


 じつはこれこそが、『魔王ラークの野望』を選択した理由である。

 公子の護衛は、ぶっちゃけソロでもやれる。


 けど稀属と戦うっていったら、さすがに一人じゃ無理だ。プレイヤーが何人か揃わないとやばい。ていうか揃っていても勝てないかもってレベルだ。伯爵級なんて。

 で、そのシナリオが選択可能だったってことは、もうすでに何人か名乗りをあげてるんじゃないかなーって思ったんだよね。


 読みが当たったというわけ。

 クシュリナーダがいたのは嬉しい誤算だったけど。


 もちろん彼女は、僕が剣士ニルスだったことは知らない。

 まったく別の人格、魔法使いスザクとして認識している。

 本当はちゃんと名乗った方が良いんだろうけどね。礼儀として。

 照れくさくてさ。


 あなたに憧れてリアルでも身体を鍛え始めました。納得できるまで戦士系は封印です。

 なんて言えるわけないじゃない!

 こっ恥ずかしい!


「城の中は私が案内できる。(やす)んじてお任せあれ」


 そういって胸を叩くのはシュトルム。

 ナゴヤ城の近衛騎士だった男というで、案内役を務めてくれる。

 この人はNPCである。


 総勢五名の精鋭で秘かにナゴヤ城に潜入し稀属ラークを討ち取る、というのが今回の作戦だ。

 見つかったらやばいってのは、ちょっとべつのゲームみたい。


 まともに考えたら、ものすごい難易度だろう。

 だって五人だよ。

 巡回してるモンスターもいるだろうし、誰にも見つからずに玉座の間まで辿り着くなんて、ミッションインポッシブルなんてもんじゃない。


 僕がいなければね。


 魔法使いの魔法には、姿隠し(インビジブル)というのがあるのだ。

 これを使えば、巡回のモンスターに見つかることなく潜入することはできる。

 途中にある施錠されている扉とかは、レンジャーのカルラが開錠できるだろう。


 あ、レンジャーっていうのは、野外活動の専門家のこと。罠を設置したり足跡を追跡したり気配を消したりするのが得意で、開錠とかもできる。

 戦士系、魔法使い系、エキスパート系って大別される役割(クラス)のうち、エキスパートに属してるんだ。

 いろいろと便利で面白そうなスキルが目白押しなんだけど、あんまり戦闘は得意じゃないから、ソロプレイには向かない。


 カルラはヤイバと仲が良さそうだから、たぶんツーマンセルなんじゃないかな。

 剣士とレンジャー。

 面白い取り合わせだ。


 ともあれ作戦としては単純である。移動は僕の魔法で隠蔽し、扉はカルラが開放する。

 城の中はシュトルムが知っている。


 最短ルートで、余計な消耗をすることなく、稀属ラークに近づき、打ち倒す。

 そんなに簡単にはいかないかもしれないが、これが最も勝算が高いだろう。

 そして僕には、もうひとつ腹案がある。


「プランのひとつとして聞いて欲しいんだけどさ。公子がトウキョウに向かってるって情報を流すのはどうだろう」


 僕の提案に、ヤイバがぴくりと眉を跳ね上げる。


「公子を囮に使うというのか。魔法使い」


 微妙に険のある言葉だ。

 見た目はちょっと怖い感じだけど、正義派なんだろうな。この人。

 誰かを犠牲にするような作戦は(がえ)んじない感じ。

 それがたとえNPCでもね。


「囮にするのは情報だよ」


 僕はゆっくりと頭を振った。

 微風公子を見殺しにするつもりは僕にだってない。


「トウキョウだけでなく、センダイ、サッポロ、サガ、それぞれの方面で見たって情報を流すのさ」

「どういうことだ?」

「ラークは公子を殺そうとしている。だからそれらの情報を無視することはできないんだ」


 嘘が含まれていると判っていてもね。

 あるいは、全部嘘なんじゃねって疑ったとしてもね。

 念のために、確認しなくてはならない。


「けど、調べたらすぐに嘘だってバレちゃうんじゃないの?」


 カルラが首をかしげる。

 無意味な策に見えたのだろう。当然だ。意味なんてないんだから。

 嘘だと感づかせるために情報をまくのだ。


「どういうこと?」

「疑っていてもラークは調査しなくてはいけない。調査するってことはそれだけ戦力を割くってこと。たとえ一人でも二人でもね」

「なぁる。悪辣ね。スザク」

「悪辣はひどい。せめて辛辣にしといてよ」


 言いたいことを察したらしいクシュリナーダに、にやりと笑ってみせる。

 疑おうがなにしようが、城の戦力は減る。

 ここが大事なのだ。


 そして、嘘情報だと判れば、微風公子がトウキョウに向かったという情報にも疑いを持つことになる。

 つまり、嘘の中に本当を混ぜることで、すべての情報の信憑性をさげてしまうのだ。


「うわぁ……」

「性格悪いな……」


 カルラとヤイバが、うろんげな目で僕を見た。

 よせやい。

 そんな目で見られたら惚れちゃうだろ。





 情報工作は組合の親父さんが買って出てくれた。

 静かに、けど確実に、ナゴヤの街に広がってゆく。

 城が慌ただしくなるまで三日と要さなかった。


 そして、決行の日(Xデー)である。


 ナゴヤ城にほど近い丘の上。


「そんじゃ、いきますか」


 僕は視界の隅にあるアイコンから魔法一覧をタップする。

 使用可能な魔法と必要魔力(マジックポイント)が、ずらっと表示された。

 その中から選ぶのは、もちろん姿隠しである。


 音もなく五人の姿が半透明になった。

 あ、これは僕たちには半透明に見えてるだけで、他の人からは完全に透き通ってるよ。

 ゲームの性質上、仲間まで見えなくなったら困ってしまうのでこういう効果(エフェクト)になってるんだ。


「詠唱しないのね。スザク」

「いやいや。さすがに恥ずかしいよ。クシュリナーダ」


 剣技は技名を叫ぶだけだから、まだなんとか耐えられるけどね。呪文詠唱は、かなりあれなんですよ。

 たとえば、いま使ったインビジブルの魔法。


「瞳に映るは幻。まやかしゆえに何人の目にも捉えられず。すなわち、姿なく忍び寄る者インビジブルストーカー


 ていう詠唱なんだよ?

 これを素面(しらふ)で唱えろというのですか?

 無理ゲーすぎる。


 するすると移動を開始する五人。

 あんまりのんびりもしていられないのさ。

 姿隠しの魔法の効果時間は三十分しかないからね。


 慎重に、かつ迅速にことを運ばないと。


 シュトルムの案内で裏口にたどり着く。

 カルラの出番だ。

 鍵盤上を踊るピアニストの指のように繊手が動き、かちりと鍵が外れる。


 鮮やかなもんだね。

 ごく細く開けた扉からするりと身体を滑りこませる。

 やがて白い手だけが覗き、ちょいちょいと招く。


 ヤイバ、僕、シュトルムと続き、最後にクシュリナーダが城に入る。

 確認して、カルラがふたたび施錠した。


 開けっ放しにしておくと、誰かが入ったかもって疑うやつがいるかもしれないから。

 いずれバレるにしても、それは遅ければ遅いほど良いってもんだ。


 つぎに先頭に立つのはシュトルムである。

 迷うことなく進む。


 城内をうろつくのは魔豹人(まひょうじん)。レベル十七のモンスターだ。

 戦って勝てない相手ではないけど、音も立てずに倒すってのは少々厳しいかもね。

 もちろんやつらは、姿を消している僕たちに気付くことはない。

 とくに警戒することなく巡回を続けている。


 数としては、やっぱり多少は減ってるんだろう。

 公子を捜しに行った連中もいるだろうからね。

 やがて僕たちは、ひときわ大きくて立派な扉の前にたどり着く。


 謁見の間だ。

 なんで和風城郭にそんなもんがあるのかってつっこんじゃだめだよ?

 異世界ラゴスと混じっちゃってるんだからさ。


 ヤイバが全員に視線を投げる。

 いくぞ、という意味だ。


 僕たちは無言のまま頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ