第99話 康太は公安と仲良くなる:その5「派出所襲撃事件!2」
「え、それってもしかして『石』が暴走したの?」
俺はタクト君が話している途中にツイ突っ込んでしまった。
「現場に居た巡査部長の証言にもあるし、俺も現場で見たから多分そうだと思う。とりあえず、話を続けるぞ」
「うん。ごめんね、話の腰を折って」
◆ ◇ ◆ ◇
警察署から応援が来た時、そこには倒れ伏す血まみれの制服警察官2人と数箇所に銃弾を受けてもビクともしていない銀色の毛皮に覆われた身長2 mくらいの狼男が居た。
狼男の胸元には虹色の光るものがあり、その目は血走り真紅であった。
「全員、発砲許可。こっちに被疑者を引き付けている間に負傷者を回収するんだ! 後、SATと機動隊にも応援を要請するんだ!」
集まった警察官の中でも上官と思われる人物の指示で各員が動く。
各員が狼男の胴体部へ向けて発砲する。
ラウンドノーズ(先端が丸い弾)の.38SP弾が数発命中するも、その弾は分厚い毛皮に阻まれて中に通らない。
元々威力が低い.38SP弾では比較的貫通力があるラウンドノーズ弾でも狼男相手では効果が薄いのだ。
「ウわォぉォ!!」
暴れる狼男は発砲している警察官達に飛び掛り、彼らをツメと牙で傷つけていく。
警察官たちも接近戦は不利なので、十重二十重で囲みこんで射線を重ねないようにしながら時々発砲するのがやっと。
どんどん応援が到着し、機動隊が到着して盾で完全に囲い込みが出来たものの、火力不足で一向に埒があかない。
SATも現着後、.30-06スプリングフィールド弾使用ライフルで狙撃するも、狼男は一向に弱る兆しを見せ無い。
もうダメか、自衛隊に応援を頼むかと現場指揮官が思ったとき、狼男の顔が突然燃え上がった。
「一体、どうした?」
「これはウチの協力者の攻撃です。私は警察庁警備局公安課 超常犯罪対策室の者です。これ以降は、私にお任せ下さい」
現場指揮官は、突然現れた真っ黒なスーツを着こなした若い美女に驚いた。
「北辰一刀流、神楽坂あやめ、参る!!」
アヤメは俊足の踏み込みで5m以上離れた狼男まで一気に接近し、手に持つ刃渡り2尺3寸(約60cm)、反りが浅め肉厚、江戸幕末期の業物新刀を居合い気味に叩き込んだ。
その霊気が篭った一撃は逆袈裟がけの傷を狼男に刻むが、直ぐに治癒していく。
「ぐワぉ!」
狼男はアヤメ目掛けてツメを薙ぐが、そこには既にアヤメは居ない。
アヤメは狼男の右斜め後ろに回りこみ、2連撃の平突きを腎臓があると思われる場所に突き刺す。
しかし一向に効果がないのか大して出血もせず、狼男は振り向きながらアヤメを攻撃する。
「これは困りましたね。タクト君、支援攻撃はどうなっているの?」
アヤメは攻撃を凌いだものの、その端正な横顔に冷や汗を流しながら耳元のブルートゥース端末でタクトに連絡をする。
「姉御! 早すぎて支援なんで出来ねーよ!」
タクトは頑張ってはいるものの、動きが早い狼男頭部に照準を合わせられず苦戦している。
「ムリに頭部狙わなくてもいいの。手足でもいいから注意を引ければ十分よ!」
アヤメは一旦刀を鞘にしまい、懐から拳銃SIG SAUER P230JPを出す。
それを見た現場指揮官は言う。
「そんな豆鉄砲じゃ効かないぞ!」
しかし、アヤメは気にせず言う。
「大丈夫ですわ!」
アヤメは狼男の攻撃を十分引き付けてから瞬動法で避け、狼男の左側に回りこんで拳銃を狼男の目に押し付ける。
そして総弾数9発の.32ACP弾を連続で全部狼男の左目に叩き込んだ。
「グぅワぁわァワァ!!!」
狼男は左眼を抑えて叫ぶ。
「まだ、脳には届かなかったか。やはり.32ACPじゃ威力が足らないわね」
アヤメは狼男から離れて拳銃の空になった弾倉を抜き、下の方を銀色に塗った弾倉を新たに拳銃に装填した。
痛みで動きが止まった狼男の顔は、再び炎に覆われた。
いくら再生能力が高い狼男とは言え、顔が炎に覆われ酸素が取り入れられなければ弱っていく。
「タクト君、このまま顔を燃やし続けて。一気にカタをつけるわよ」
「了解、姉御!!」
アヤメは再び拳銃を構え、今度は虹色に光る胸元を狙う。
「ホントの銀弾喰らいなさい!」
アヤメが発射した9発の.32ACP銀製弾は狙い違わず、狼男の胸の中心で輝く虹色を貫く。
そしてアヤメは拳銃を放り出して刀を抜き、渾身の勢いで踏み込み狼男の胸、先ほど銀の弾が着弾した所を突き刺した。
その剣先は狼男の背中から突き出し、そこから激しく出血した。
突き刺した胸からも大量に出血し、アヤメは返り血で血だるまになる。
しかし、怯まずアヤメは突き刺したままの刀を更に根元まで突き刺してから一回転捻り込み、そして刀を狼男から抜いた。
そしてトドメに膝を突く狼男の開いた口の中に平突きをして捻り、延髄ごと下に切り裂いた。
この攻撃で、狼男の胸元で光っていた虹色は完全に消え、狼男は前のめりに倒れた。
アヤメは念の為に狼男の頚部を触り脈を確認したが、既に狼男は息絶えていた。
アヤメは自分の拳銃を回収後、刀を懐紙で丁寧に拭って鞘にしまい、自らの血まみれになった顔も懐紙で拭いた後、狼男の前に立ち手を合わせて黙祷をした。
この一連のすさまじい戦闘に、普通の警察官は全く手出しをすることも出来ず、ただ傍観するのみであった。
「おい、オマエは一体何者なんだ?」
現場指揮官はアヤメに食って掛るが、
「言いませんでしたか? 私は警察庁警備局公安課 超常犯罪対策室の者ですって」
そう言って血塗れた姿のまま警察手帳を提示するアヤメ。
「被疑者の遺体は一旦そちらで回収願えますか。後から身元確認や解剖の際には、私も同行させて頂きます」
そのあまりに迫力ある雰囲気に呑まれる現場指揮官であった。
「では、私はこれで失礼します。早くクリーニングしないと服がダメになりますし、感染症もイヤですから。タクト君、撤退するわよ。私これじゃ運転できないから、運転宜しくね」
アヤメは耳に刺したブルートゥース端末でタクトに連絡をした。
「あいよ、姉御! お疲れ様」
◆ ◇ ◆ ◇
「とまあ、俺があんまり役に立たなかったから、もう少しなんとかならないかと思った訳なんだ。ラッキーだったのは警察に重傷者は多かったけど、犯人以外は誰も死ななかったんだ。」
あまりに血なまぐさい話を聞いた俺。
もし俺がアヤメさんの立場だったら、そこまで徹底した攻撃を出来ただろうか。
おそらくもはやニンゲンに戻れないだろうとは言え、人を俺は切り捨てられるのか。
「ふむ、そうじゃったのか。いや、ネット上で『狼男がどーとか』いう妙な話が流れておったから調査をしておったが、現場に居た人から話が聞けたのは良かったのじゃ」
チエちゃんは、顔がおそらく青いだろう俺を見て、
「コウタ殿、お主はお主のままで良いのじゃぞ。いきなりムリはせぬでもいいのじゃ。それにその狼男なるもの、変身した段階でもう手遅れじゃったぞ」
俺はチエちゃんに聞く。
「手遅れってどういう事?」
「コウタ殿や母様、教祖殿などの『力』持ちならば次元石の『力』を自分でコントロール出来るので、暴走する事はまずないのじゃ。じゃが、全く『力』を持たぬ者が悪意を持って次元石を持たば、石が集める邪霊、悪鬼その他に憑り付かれた上に暴走する次元石に取り込まれて異形のバケモノに成り下がるのじゃ。まあ、悪意を持たず石を持って居っても、ポルターガイストに襲われるじゃろうがな」
チエちゃんから恐ろしい「石」の力を聞いて俺は震え上がる。
この石は神にも悪魔にもなるものなのだと。
ブックマーク、感想、評価・レビュー等を頂けますと、とても嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します。