第97話 康太は公安と仲良くなる:その4「修行中!」
「ひぃぃ!」
タクト君の悲鳴が聞こえる。
今は皆で修行中、というか俺とタクト君をいぢめる時間中。
タクト君はリタちゃんと対戦中、リタちゃんが繰り出すホーミング魔力弾に対して着火を全弾にできたらタクト君の勝ち、出来ずにタクト君に着弾したら負けというゲーム。
最近、リタちゃんはコントロール能力もパワーアップしており、威力も小さめという事もあり、20発以上の魔力弾を同時コントロールしている。
これがまた「板野サーカス」ばりの高機動をするから、気移りしがちで集中力に欠けるタクト君が勝てるはずも無い。
先ほどの悲鳴は、おとりの魔力弾の影から出てきた弾が、着火で防げたと思い込んで油断していたタクト君に着弾した結果だ。
「たくとおにいちゃん、だいじょうぶ?」
心配して覗き込むリタちゃんに身体中が焦げたタクト君、
「大丈夫だよリタちゃん、ありがとう。俺、こんな事で負けていられないから」
妙に熱血風味だけど優しいタクト君。
軽薄で捻くれていた彼もリタちゃんやナナには甘いし、優しく話す。
タクト君、地元には彼女たちと同年代の妹がいるそうで、リタちゃん達を見ていると最近あまり会えていない妹を連想するんだそうな。
チエちゃんの事は、外見は妹分なんだけど「正体」を知っているだけに畏怖の方が強いんだとか。
まあ、その彼もリタちゃんやナナの大火力を身を持って知り、ちょっと困っているけど。
「それはいい心がけじゃ。ワシが治療してやるから休憩後、今度はワシも攻撃側に加わるのじゃ!!」
サドっ気満載笑顔のチエちゃんを見たタクト君は、怯えながら言う。
「チエ姉さん、それはご勘弁を。お母様、助けてください!」
「えー、私の事オバサン呼ばわりした子が私に助けてくれって言うのかしら?」
マユ姉ぇも笑いながらだから本気で苛めている訳じゃないけど、少しは根に持っているかもね。
「兄貴助けて――!!」
すまん、タクト君。
俺も死にそうになっているんだけど。
「ごめん、こっちも手一杯なんだ。自分の身は自分で守って!」
俺のお相手はナナ。
ナナが操る九十九神小物集団を掻い潜り、ナナにタッチ出来たら俺の勝ち、小物にやられたら俺の負け。
最近、ナナもコントロール力がついてきて、どっかのニュータイプ女帝様並みの漏斗使いをしてくるし、映画時にはあまりに早すぎて見えなかったのでメディア化時に映像補正しなおした和バサミ小物バリの高速攻撃をしてくる。
まあ、流石に切断攻撃とかはしてこないけど、それでもタイル小物に乱打されるのが毎度の日常だ。
「よっと! ナナ、動きが単調だぞ。これなら全部避けられるし」
「そうかなぁ、コウ兄ぃこそ甘いよ!」
小物の動きが妙だ。
単調なリズムなので避けやすいし、ナナへの道が出来ている。
しかし最初の頃ならいざ知らず、戦い慣れてきたナナがこういう油断をするんだろうか?
ありゃ、俺の動く方向を誘導されている気がしてきたぞ。
まさか、これ俺追い込まれたの?
「はい、コウ兄ぃ包囲網完成、チェックメイト!!」
俺はまんまと望遠鏡サンが待機していたところに追い込まれた。
「あ!!」
そして俺もタクト君と同じくコンガリと焼けたとさ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ぷしゅー」
俺とタクト君は、揃ってマユ姉ぇ宅縁側で転がっていた。
「2人ともマダマダじゃ! コウタ殿は落ち着いて考えたらスゴイのに、瞬間思考だとバカするのが弱点じゃ。もう少し落ち着くのじゃ! タクト殿は突っ込みすぎじゃ! 前に行く事ばかりじゃなくて後ろから見る眼を養うのじゃ。お主の術は中盤から後方向き、距離を取る戦い方になるのじゃからもっと俯瞰的に戦場を見るのじゃ!」
2人揃ってチエちゃんのお説教を受けている訳だ。
「そういえばタクト君、先週は来なかったけど今日は随分熱心だね」
「兄貴、それは先週ちょっとイヤな事件があって実力不足を感じたんだ」
素直に自分の弱さを語るタクト君。
自分を知るという意味では良い傾向だ。
「スイカ切ってきたから、皆どうぞ」
マユ姉ぇがスイカを全員分切って持ってきてくれた。
チエちゃんを筆頭にナナとリタちゃんが少しでも大きなスイカをと奪い合う。
しかし、いつもなら最初に齧り付くはずのタクト君が妙に大人しい。
「タクト君、随分悩んでいるようだけどもし良かったら俺達に話してくれない? もちろん守秘義務があるならムリにとは言わないけど?」
「別に姉御達に口止めもされていないし、兄貴達には話しておいた方が良いから聞いてくれる? 先週、派出所への襲撃事件があったのは、皆知っているよな。」
タクト君の話は、スイカを前にするには血なまぐさい話だった。
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