第92話 康太の新たなお仕事:その16「えぴろーぐ?」
とまあ、色々あったけど、無事に事件は解決した。
教団の祭りだけれども、マユ姉ぇ達の活躍による除霊と心身の治癒で、そのまま継続された。
後から、教祖からの説法が行われたけど、チエちゃんから自分が受けた説法を参考にして、家族愛、隣人愛の大事さと、愛ゆえの過ちについて語っていた。
その後、教団はこれまでのお布施重視体制を脱却、健全運営をするように動き出したそうな。
もちろん搾取していた資金の大半は信者に返された。
今回の作戦で救い出されたマサミちゃんだけれども、ぼんやりだけど憑依搾取されていた時の事を覚えていて、騙されていた事は許せないけれど思いを新たにした教祖の教えは嫌いでは無いので、お付き合い程度の関係を今後も教団と続けていくそうだ。
無事に帰ってきた娘を見たご両親やアケミちゃんは大喜び、マサミちゃんのご両親からはこちらの提示額よりもかなり高額を入金してくれた。
もちろん俺は貰い過ぎの事を伝えたけど、感謝の気持ちだと固辞されたのでありがたく頂いた。
超過分については、今回お世話になったカレンさんやシンミョウさんの東京豪遊資金の一部として、またマユ姉ぇ宅のエンゲル係数補填に用いさせてもらった。
だって、俺やチエちゃんはマユ姉ぇ宅のエンゲル係数をかなり上げているだろうから。(笑)
◆ ◇ ◆ ◇
「そんな事があったんですね」
「先生、ワタシ達を放っておいてそんな事していたんですね」
今はカオリちゃん・ケイコちゃんの家庭教師中。
休憩中に教団強襲作戦の事について聞かれたので説明していたところだ。
尚、ケイコちゃんの顔の傷は、昨年度中に完治。
全く跡を残さずに治ったので、ケイコちゃんの花咲く笑顔は健在どころか更にパワーアップ中だ。
「しょうがないでしょ。だって、女の子をエジキにしそうな所に可愛い女子高生2人を連れては行けないでしょ」
俺の説明に、まだ納得出来ない2人。
「私なら『ぐっちゃん』もいるし、大丈夫ですよ」
〝ウン。オレ、カオリ守る!〟
「うん、ワタシも『見える』から危ないときは逃げられるし」
こういう「自信」が一番怖いんだよ。
中途半端な「力」では危険度を把握できなくて、酷い目にあうのは毎度の事。
「それが危ないんだって。なまじ『見える』からと安心して憑り付かれたり、怪我したりするのは良くあるんだ。大体『力』の自覚当初にありがちな事で、自ら危険に近づいて最悪死んじゃう事もあるんだ」
俺は真剣に話す。
その様子に怖くなった2人が可哀想になったので、
「そう落ち込むんじゃないよ。また2人には入試が落ち着いたら、マリちゃんに逢わせてあげるよ。あの子なら大丈夫だし、可愛い子だよ」
2人の頭を両手で軽くぽんぽんしながら俺は言う。
「なら、その前にチエさんに逢わせてくれませんか?」
「うん、チエさんなら絶対大丈夫でしょ?」
チエちゃんなら、時間の都合が取れたら良いかな?
「そうだね、チエちゃんの都合を聞いておくよ」
そのチエちゃんだけれども、今は大忙しなのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃから、ワシは神様じゃないから拝むのは止めてもらえぬか?」
チエちゃん、あの後教団から良くお呼び出しを受けている。
オイシイ御菓子をくれるという事で行っているチエちゃんもチエちゃんだけれども、「胃袋」を掴むことで「神様」を確保している教団も教団だと思う。
教団は建て直しの際に、新たに経典やご神体を作り直す事になり、その教えやご神体のモデルとしてチエちゃんが抜擢された。
まあ、「魔」がつくとは言え「神」なのは確かだし、1000年以上生きてきた「人生」の重みから来る発言は、預言者の発言に匹敵するものがある。
目の前に「神様」がいるんだから、それに縋るのはしょうがない。
「じゃから、ワシを完全崇拝してはならんのじゃ! ワシは決して全知全能じゃないのじゃ! 欠点ばかりの悪魔じゃ。いつも母様に片づけができておらんと叱られておる。暴走して失敗する事も多々あるのじゃ!」
チエちゃんは信者の前で力説する。
「じゃから、ワシはあくまでワシじゃ。お主達はワシにはなれぬが、ワシもお主らにはなれぬのじゃ! 決して同じにはなれぬし、なってはならぬのじゃ! それぞれが違っていて当たり前、違う事こそが素晴らしいのじゃぞ。違いは悪い事ではないのじゃ! 良いな、じゃからワシを参考にするのは良いが、思考停止して崇拝し全てをワシに捧げてはならぬのじゃ! 分かったのじゃな!!」
この説法があるから、皆チエちゃんを拝むんだよね。
悪魔の中で孤立し、「違い」で悲しんだチエちゃん。
そして「人」と触れ合う事で「違い」を良い意味で学んだチエちゃんだから出せた「答え」だろう。
なお、ご神体モデルについては「絶対イヤじゃ、恥ずかしいのじゃ!」との事なので、悪魔形態はアレ以降教団関係者には決して見せてないそうな。
しょうがないので、秘仏扱いで本人にも見せないという条件で、俺はこっそりと映していた写真を教団に送った。
だって、あの姿に魅了されてしまうのは俺も同じだから。
そうそう、例の国会議員も暇を見ては教団に来てはチエちゃんを拝みまくっているそうな。
医者に見離されていたガンを完全治療してもらったのだから、感謝するのは分かるけどね。
◆ ◇ ◆ ◇
「もう、拝まれるのはコリゴリじゃ!」
「そうか、困って居るのかい。でも、人助けになるのだろ。無理しない程度に行って上げなさいな」
「そうだよ、チエ姉ぇ。あれだけの人に慕われるのはスゴイ事だよ」
「ちえおねえちゃん、つかれたらあまいもの、たべたらいいよ!」
教団から避難したチエちゃん、ナナ達と一緒に内藤翁のところにいる。
「騎」の暗躍に一枚噛んでいたチエちゃん、罪滅ぼしという意味も兼ねて内藤老人の家に遊びに行っている。
「ワシ、今まで生きてきて、これだけ沢山の『人間』に触れた事が無かったのじゃ。そこで気がついたのじゃが、ヒトはワシよりも弱く、早く死んでしまう。しかし、ワシよりも『強い』のじゃ。つくづく面白いのじゃ!」
「そうじゃな。ワシもチエ殿程は長くは生きては居らぬが、それでも沢山の出会いと別れがあった。そしてヒトの悲しさ・強さを良く知ったものじゃ」
内藤老人は、チエちゃんの頭を撫でながら言った。
「じゃからの、これからもワシら人間を宜しくな」
「おう、ワシに任せておけなのじゃ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
俺は俺で、日夜修士論文の準備やら修行で大忙しだ。
修士論文については、なんとか題材がまとまりつつあるものの、こうといった結論が出せないで苦戦している。
もうしょうがないので、今はコトミちゃんの力を借りて纏め中。
コトミちゃんも、マサミちゃんを救えた事や今後の作戦には必ず参加させるという約束があるので、非常に協力的なのは助かる。
まあ、コトミちゃんの事だから色々と暗躍しているらしく、どうも教団にチエちゃんの写真集を俺よりも先に送って「お小遣い」にしたとか、チエちゃんやマユ姉ぇと組んで俺のパワーアップ計画にも食い込んでいるらしい。
その修行の方だけど、バカだったタクト君や教団の邪霊程度なら、今の俺でも問題無く倒せる。
しかし、チエちゃん達魔神将クラスでは全く勝負にならない。
大悪魔相手でも「朧」さんに遊ばれている現状では厳しいとしか言えない。
いずれリタちゃんの母星奪還作戦を行う場合、同族をチエちゃんに討たせる訳にはいかない。
それはこの星で最初に出会って「兄」になった俺の役目だろうから。
尚、バカだったタクト君とその上司の美女、更に上の存在については、また後日語る事にしよう。
◆ ◇ ◆ ◇
「ナナ、そういえば最近俺に対してヤキモチ焼かなくなったけど、どうして?」
マユ姉ぇに搾られた修行の合間に、そこに居たナナにふと思った事を聞いてみる。
「だって、コウ兄ぃは必ずボク達のところに帰ってくるんでしょ。正妻はどんと構えているものってお母さんに教えてもらったの! ね、お母さん」
「そうよ、コウちゃんの事だから他所に手を出す度胸も無いけど、それ以前にナナやリタちゃんの事を大事に思っているから、必ず帰ってくるわ」
マユ姉ぇ、娘にナニ教えているんだか。
まあ、ナナやリタちゃんが大事なのはその通りだけど。
「コウ兄ぃ、今度はどんな冒険してくれるの? ボク楽しみにしているよ!」
今は、リタちゃんもチエちゃんもここにはいない。
別の場所で2人何か企んでいる(笑)らしい。
その隙をついて俺に抱きつき、ヒマワリの様な笑顔で俺を見上げるナナ。
それを微笑ましく同じヒマワリの笑顔で見るマユ姉ぇ。
俺は思う、この笑顔を守るためにもっと強くならなければならない。
だから、新たな冒険もドンと来いだ。
せっかくの冒険、楽しんでクリアー目指そう!
「そうだね。今度はどんなのになるのか、楽しみだね」
まあ、女難がこれ以上増えない冒険であって欲しいけどね。
でも多分、ムリかな?
(第2部 完)
これで、第2部完結です。
では、次は第3部をお楽しみ下さいませ。
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