第91話 康太の新たなお仕事:その15「教団への強襲!:新たな信仰の始まり?」
「では、まず教祖の方じゃな。どうじゃ、己がバカしていたのが分かったのじゃろ。お主の悪行は全てこのバカの親玉が仕向けた事じゃ。おそらくワシらが来なくても近日中に口封じされておったのじゃ。良かったのぉ、襲われたのがワシらが居った時で」
チエちゃんからの話を聞いた教祖、ようやく服を着替えて俺達に話す。
「はい、十分に自分の馬鹿さを理解しました。また宗教本来の形を何か掴んだような気がします。人の心を守り、慈しむ事が宗教の役目。それを忘れてはいけないと」
教祖の回答を聞いたチエちゃん、
「それでいいのじゃ! まずは自分を助け、身近な人々を助ける。そして余裕があれば他の人も助けていく。これが良いのじゃ。百里の道も一歩からじゃ。自分の息子を泣かせておる宗教家は失格なのじゃ!」
その発言を聞いた翔太君が、チエちゃんにお礼を言う。
「チエちゃん、どうもありがとう。僕のお父さんを本当に助けてくれて。一体キミは何者なの? もしかして神様なの?」
それを聞いてはっとした教祖、
「そうだ、貴方様は私の命の恩人。心身ともにお救い頂き、ありがとうございます。宜しければ御身の正体を教えては頂けませぬか。息子ではありませぬが、人とは思えません。本当に神様ではありませんか?」
拝むようにチエちゃんにすがりつく教祖やその他の信者に翔太君。
「いや、その、ワシはただの『通りすがり』のお節介なだけの一般人じゃ!」
その様子を見て笑いあう俺達、
「結局、どこに行っても拝まれているのね、チエちゃん」
「こら、コウタ殿、それに皆。ワシを茶化すではないわい!」
「だって、一般人が完全治療魔法をバンバン使わないもんね!」
俺の突っ込みに怒ってみせるチエちゃん。
「コウタ殿、後で覚えておくのじゃぁぁ!!」
そう言いながらも信者たちからの「信仰」が恥ずかしくも嬉しいからか、顔を真っ赤にしているチエちゃん。
そうか、感謝の感情もチエちゃんにとってはご馳走なんだ。
「分かったから、ワシの正体教えるのじゃ。だから今は落ち着くのじゃぁ! じゃから、ワシの話を聞かんかぁ!!」
まー、あそこまで熱狂的になったらしょうがないか。
多分、結果は同じ(笑)だと思うけど。
◆ ◇ ◆ ◇
「うっつ!」
気絶から復活したバカことタクト君。
自分が負けて捕縛されている事に気がつく。
尚、腎臓打ちや強度の脳震盪は流石に重症なのでチエちゃんやシンミョウさんに治療してもらいました。
「おい、お前! コウタとか言ったな。どうやって俺を倒したんだ!」
さあ、礼儀を少しは叩き込もうか。
「タクト君、その口の聞き方はどうなんだい? 未成年のキミなんだから、少なくとも年長者に対しての敬意は持とうね」
俺の答えに自分の身分がバレた事に気がついたタクト君、
「どうして俺の年齢を知ったんだよ!」
「だって、免許書持っていたら見るよね。あ、住所や電話帳もコピーしましたから」
俺達は気絶していたタクト君の持ち物検査をさせて頂きました。
ま、そのくらいは基本でしょ。
使い魔用の御札やナイフ等危険物も全部没収済み。
「う、プライバシーの侵害だぞ! 訴えてやる!」
「さっきまで相手を殺そうとしていた人が言うセリフなのかい、タクト君。実に甘いぞ。俺達にはキミの生殺与奪、つまりキミを生かすも殺すも自由だよって権利があるのだけれども。勝負のときの約束を忘れたのかい?」
俺の発言に押し黙るタクト君。
「そうじゃな、約束じゃから教えてはもらえぬかのぉ、お主の飼い主の事を。どうせ犯罪を見逃してもらうなぞの司法取引でマッポの手先とかじゃろ?」
「チビ、どうしてそれを知っているんだよ!」
はい、バカ。
簡単に誘導尋問に引っかかりすぎ。
こいつ、ここまでバカだと心配してしまう。
先のある未成年がコレでは将来が不安だよ。
「そうか、公安の使いパシリなのじゃな。しかし本来なら犯罪抑止が公安の仕事。何故に犯罪を誘発させるような事をしておるんじゃろうか? まあ、お主は知る由もなかろうて。いつでも切り捨てられるシタッパーではのぉ」
チエちゃんの挑発にグウの音も出ないタクト君。
「そうじゃろ、近くに潜んでおるバカの上司よ!」
え、まだ居るのかよ!
「そうですねぇ、そこの影に潜っているのはアタシもさっきから分かっていましたよ。ナナちゃん、リタちゃん、そこに大火力ぶっこんであげて!」
「そうじゃ、やってやるのじゃ!」
コトミちゃんとチエちゃんの発言で驚いた「影」はすぐに姿を現す。
「部下が不始末をしまして、誠に申し訳ありません。これには理由がありまして、実は部下には『石』の回収を命じておりましたが、口封じまでは命令していませんでした」
そう言うのは「影」こと黒いスーツに身を固めた女性。
おそらく20代後半からアラサーのすっきり和風美人、その身のこなしや話し方からバカと違い、かなりの使い手と見る。
「その言葉、真実じゃろうなぁ。嘘であればワシは容赦せぬぞ!」
チエちゃんの言葉に少したじろぐ美女。
「はい、間違いありません。貴方様の事は調査させて頂いておりましたが、とても私共でお相手できるお方ではございません。出来ましたら、我々日本国に敵対をしないようお願いしたいのですが」
それを聞いて怒るチエちゃん。
「そちらから攻めておいて敵対するなとは、ふざけては居らぬか! それにワシはともかくワシの家族友人を危険に晒すとは不届き千万じゃ! ナニをすれば許してもらえるのか、分かって居ろうなぁ!」
その怒りに怯える美女。
「はい、申し訳ござませんとか申せません。ここは一つ、そこのバカの首と私の首で許してはもらえないでしょうか?」
それを聞いて余計に怒るチエちゃん、ついに変身をする。
「バカか、お前らは! どれだけ苦心してこのバカの命を奪わずに無力化したと思うんじゃ! それにお主の命貰って誰が喜ぶと思うのじゃ! そりゃワシはこんな悪魔じゃ! じゃがな、命の大切さは重々理解しておる。簡単に命を投げ出すんじゃないのじゃ! 失ったらもう元に戻せないのじゃ! 失ったらどこかの誰かが悲しむのじゃ! それはワシはイヤなのじゃ!!」
半分泣きながら怒る悪魔形態のチエちゃんの姿を見た美女は怯え震えると同時に魅了されたらしい。
それは教祖含めてそこにいた信者の方々も。
また、命を助けてもらったバカも。
泣きながら命の大切さを問う巨大美人異形の悪魔、それは恐ろしくも美しく、そして気高く高潔で可憐だ。
それに魅了されない者は誰も居ない。
もちろん俺達も含めて。
「はい、分かりました。もう命がどうとかは申しません。後日上のものと相談して謝罪に参りたいと思いますので、それで宜しいでしょうか? もちろんここにいる皆様の安全は我々が保障致します」
美女の発言を聞いてやっと怒りを納めたチエちゃん、幼女形態に戻って言う。
「それで良いのじゃ。後でゆっくりと話してもらうのじゃ。ホレ、そこのバカを連れ帰るのじゃ。絶対処分なぞするんじゃないぞ。処分したらワシは絶対お主らを許さないのじゃ! もちろんこやつの教育はちゃんとするんじゃぞ。こやつ、このまま社会に置いておくのは危険じゃ。それはこやつ自身を含めて誰の為にもならんからのぉ」
「はい、分かりました。仰せのままに致します。タクト君、さあ帰るわよ!」
美女に促されて縄を解かれたタクト君、チエちゃんの方を見て恥ずかしそうに話す。
「チエさんと言ったよな。俺みたいなクズの為に泣いてくれて、その上に命まで助けてくれて、ありがとう」
タクト君の感謝の言葉を聞いたチエちゃん、ニッコリと嬉しそうに話す。
「そうじゃ、それで良いのじゃよ。タクト殿、またワシの所に来いや。その性根含めて鍛えなおしてやるのじゃ! 約束じゃぞ!」
「ああ、必ず行くよ! コウタさん、今度はきちんと貴方と戦いたい。良いかな?」
「うん、いいよ。殺し合いじゃない『戦い』ならいつでも歓迎さ」
こうやってコトミちゃんの話から始まった教団事件は一応の解決を見た。
完全ハッピーエンドだから良いよね。
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