第90話 康太の新たなお仕事:その14「教団への強襲!:延長戦」
俺はゆっくりと装備と呪の準備をする。
哀れなバカは、やっと動けるようになった身体を動かしてこっちを睨む。
準備の間に俺はバカの装備とさっき使った呪文らしきモノからバカの手の内を考える。
大型ナイフらしきものが見えるのと、おそらくさっき「石」を回収した使い魔がいる。
他には教祖をいきなり燃やした火炎系の呪文、おそらく火炎弾を撃つのではなく、任意地点への着火、パイロキネシスの類。
そうなら視線先に着火するタイプだろうから、そこが注意点であり逆に弱点。
「コウタ殿、すまん。お主をダシにしてしもうた」
チエちゃんが俺に近づいて謝る。
「いいや、逆にありがたかったよ。あのバカ一発殴りたかったし。それにこれは俺の仕事だもの。これ以上チエちゃんに迷惑かける訳にもいかないし、美味しいところ取られっぱなしなのもね」
俺はチエちゃんにウインクして見る。
「コウタ殿、アヤツはおそらく着火能力者じゃ。ぬかるではないのじゃぞ」
チエちゃんの助言を聞いた俺は自分の予想が当たっていた事を感謝して、
「助言ありがとう、チエちゃん。俺も薄々そうだとは思っていたよ。おそらく生まれつきの能力で悪さしていて捕まってこき使われているのかもね」
◆ ◇ ◆ ◇
その頃、屋敷外で除霊準備をしていたマユ姉ぇ達は、チエちゃんからのミッションクリア及び延長戦の事を聞いていたそうだ。
「コウちゃん、今からバカ退治ですって。もう教祖は改心させたそうだから、私達は先にこっち片付けてコウちゃんの活躍の応援に行きましょうね」
「はい、お姉様ぁ。私の方はいつでもOKですぅ」
「うん、おかあさん。はやくおにいちゃんのところにいこーね!」
マユ姉ぇはひらりとスカートをなびかせて舞い踊る。
シンミョウさんも膝丈スカートを翻して舞う。
リタちゃんも魔法少女杖を手に華麗にワンピースをひらりと妖精の舞をする。
シンミョウさんは、肩当付きのマントを羽織っている。
それはチエちゃんからもらったアイテム。
カレンさんのと同じで普段はペンダントトップに金剛鈴をつけた形をしているが、起動する事でマント、2つの金剛鈴、尺杖が現れる。
マントは防御及び呪文の増幅、金剛鈴は呪文の強化及び防御用の飛行体、いわばナナの小物と同類の作用をし、尺杖も同様の働きをする。
シンミョウさんが止まって呪文を使うタイプなので防御と呪文強化に特化したアイテムであるそうな。
因みに俺は後日、このアイテムの効能を教えてもらいました。
3人の「舞」を見守りながら周囲を警戒する「朧」サン。
「実に良い舞を見せて頂きました。これがマスターの言う『萌え』でしょうか?」
まあ、大悪魔に「萌え」は難しいかな。
でも美しいというのは分かってくれているのは良いことだよ。
3人の「舞」と魔力呪力は重なり合い、広範囲に広がっていく。
そして教団敷地内に濃く広がった後、呪が開放される!
マユ姉ぇの浄化炎、シンミョウさんの静心、リタちゃんの癒しの雨。
それぞれの呪文が敷地内の全ての人々を浄化し、心身共に癒していく。
信者たちに憑いていた邪霊達は吹き消され、邪霊によって磨り減っていた信者の心身が癒されていく。
退魔だけをしていれば、今までの異常な自らの行動に気がついてパニックになっていたであろうが、心身ともに癒されて心が落ち着いた信者達は、今の祭りを「まーいいか」って感じで楽しんでいた。
「ふう、皆良くやったわ。じゃあ、コウちゃんの戦い、観戦に行きましょ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、始めようか。おい、お前名前くらい名乗れよ。それとも名乗れないくらい恥ずかしいキラキラネームかい? 礼儀だから俺から先に名乗るぞ。俺の名前は、功刀 康太だ。」
俺は珍しくバカを煽った。
今まで散々俺達を煽ったのだ、このくらいは許して欲しいぞ。
「遠藤 拓斗だ。お前が最後に見るヤツの名前だ。覚えておけ」
おう、それがカッコいいと思っているんだ。
多分今まではそれで勝っていたのだろうけど、世の中そんなに甘くないぞ。
「じゃあ、始めようか、バカタクトくん!」
俺の挑発に乗ったバカは早速、着火能力で俺を攻撃した。
「バカはお前の方だ。燃えちまえ!」
俺の周囲が着火する。
ふむ、空気中の引火物を燃やして対象物を燃やすんだ。
これなら酸欠も狙えるから、術を知らなければ厳しいね。
しかし、バカは自分の手の内を既に晒しているのを忘れていた。
キミの能力は初見殺しだ、対策されればそれまでなんだよ。
「なんで燃えないんだよ、お前!」
そう、俺は燃えない。
そうだね、バカに少しネタ晴らししようかな。
「バカタクトくん、キミの能力は着火だね。それも空気中の引火物を燃やしてから対象物を燃やすタイプの」
俺の言葉にびっくりするバカ。
どうやら今まで自分の能力を分析された事がないらしい。
「そうか、図星だね。着火能力だと分かっていたら、いくらでも防御方法はあるんだよ。残念、もうキミの能力の優位は無いよ」
因みに防御方法は、少なくとも勝負が終わるまではバカに説明するつもりは無い。
「じゃあ、こっちから行くよ!」
俺は左手に雷撃を纏ったスタン「光の盾」を構えてバカに突進する。
それを見たバカ、着火能力を使わずにナイフを抜いて俺に向かう。
うん、その脚捌きではダメ。
マユ姉ぇの華麗な脚捌きを見ていた俺の敵ではない。
ナイフを振りかざしてくるバカ、これも減点対象。
正解は、ナイフを腰だめにして体当たり。
または、手首等大きな血管が表皮に近い部分、もしくは腱を冷静に狙う。
ただただ振りかぶるのでは、小型刃物では効果は半減だ。
俺は落ち着いて盾をナイフにぶつけにいく。
ナイフに雷撃の火花が飛んで、バカは顰めっ面をする。
ふむ、ナイフを手放さなかったのは合格だ。
俺は右手を開き、バカの眼前に晒す。
ここで着火をしなかったバカの負け。
例え効きにくいといえど、連続着火すれば勝算はまだあった。
何せ、俺の着火対策は、身体の周囲に纏わせた水天・風天によるミストシャワーが尽きるまでという、時間・回数制限付きなのだから。
俺は冷静に右手で小さな気弾を作り爆発させた。
この簡易猫騙しフラッシュで眼を瞑ったバカ、はいこれで勝負あり。
俺はすかさず瞬動法でバカの向かって右側後ろに回りこみ、右手掌底をバカの腎臓があるあたりの背中に密着させる。
そしてそこで発勁気味に弱気弾を炸裂させた。
腎臓打ち、それはボクシングでの禁じ手、一歩間違うと相手を殺してしまう業。
血管が大きく集まる臓器、腎臓。
そこは多数の痛点も存在し、傷つけられれば激痛に襲われる。
そして、背後からのナイフひと刺しにより無音で殺せる急所。
バカは一撃で激痛に悶絶し、ナイフを落とし両手で腹を抱えてうずくまる。
うずくまったバカの顎先を、俺は右脚で軽く蹴り上げた。
そして仰け反ったバカの顔に左フックで電撃スタン盾を叩きつけて、更にトドメにバカの顎先狙ってムエタイもどきの右フック+右エルボーを叩き込んだ。
この一連の打撃で激しい脳震盪に襲われた哀れなバカは、気持ちよく(?)ノックダウンした。
「ふー。あー、すっきりした!」
俺の勝利に沸く仲間たち、そして俺がちょうどノックダウンした瞬間にマユ姉ぇ達も俺達の元に来てくれた。
「コウちゃん、やったわね。カッコいいわ!」
「コウタ殿、流石です」
「コウ兄ぃ、やったー!」
「こうにいちゃん、すっごーい!」
「コウタ様ぁ、やりますねぇ!」
「コウタ殿、良い動きじゃった。参考までに使うた技について教えてもらえぬか?」
「先輩、本当に強かったんですね。アタシにも教えてください!」
皆それぞれ口々に俺の事を賞賛してくれる。
うん、こりゃ知らない人から見たらハーレムだね。
「話すけど、まずそこのバカふん縛って手当てしてからにしようよ。後、教団の方々は縄解いてあげてね」
忙しかったので、教祖以外の縄解いていませんでした。
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