第88話 康太の新たなお仕事:その12「教団への強襲!:その7」
「翔太、お前ワシがしてきた事を知っておるのか?」
教祖の問いに翔太君は答えた。
「お父さんがお母さんを助ける為に、霊を使って人から『力』やお金を奪っていたのは知っているよ。そしてお母さんが亡くなった後も同じ事を続けているのも」
どうやら教祖は翔太君の「力」を知らずに居たために、自らの悪行が最初から知られていたのに気が付いていなかったらしい。
「どうしてそれをお前が知っていたんだ?」
「僕は昔から色々と『見えて』いたんだ。今もマリの事は見えているし」
そう言って翔太君はマリちゃんの方を見て泣き顔のまま微笑む。
「マリってそこにいるお前に付けた守護霊の事か?」
「うん、名前が無かったそうだから僕が名前を付けてあげたんだ」
そうか、名前を与える事で翔太君がマリちゃんの事実上の主人になったんだ。
どおりでマリちゃん、生みの親のはずの教祖なんてそっち除けで翔太君の事を守る訳だ。
更に名前を与えられる事でマリちゃんの自我がはっきりとして最強の守護者よりも更に強くなったと。
「だからお父さんがずっと悪い事しているのがイヤだったんだ。どんどんお父さんが悪いほうへ向かっていって、沢山の人を困らせている。そんなのはもうこれで終わりにしようよ。元の優しいお父さんに戻ってよ!」
お縄につき座っている教祖に抱きつき、涙ながらの訴えをする翔太君。
その姿には流石に堪えた教祖。
そこに更にチエちゃんが問う。
「教祖よ、お主の行った所業本来であれば許されざる事なのじゃ。しかし、最初の動機は止むを得ない事もあったのであろう。お主をそこまで追いやったのは妻への愛だったのじゃな?」
すっかり萎れて観念した教祖は言う。
「はい、私はどうしても妻を救いたくて悪行を重ねました。しかし結局妻は亡くなり、私に残ったのは使い道の無いお金と邪霊達、そして教団。ここまで大きくなってしまった教団を壊す事も出来ず、そのままずるずると教団維持の為に悪い事と知りながら人々を食い物にしてきました」
「そうか、最初は妻を救いたいという願望から始めた悪行、今となっては己が欲望ではなく、教団維持の為に続けたと」
「はい、教団には元々はっきりとした経典も無く、私自身には大して『力』も無い上に教えを授けられる程の人格も教養もありませんでした。こんな私が代表ではちっぽけな新興宗教団体、あっというまに壊れてしまいます。そうしたら今まで苦労してきた事や、食い物にしたとはいえ信じてくれた信者の方に申し訳が付きません」
「じゃが、悪行を繰り返してゆけばいつか取り返しが付かぬ様になるのじゃ。現に吸いすぎて魂が磨り減って意識不明になった信者も居るしのぉ」
「そこまでご存知ですか。はい、もう後には引けませんが、かといって悪行無しに教団を維持するのにどのようにすれば良いのか、私にはもう分かりません」
「ならば、教祖お主の『素』の姿を示すのじゃ。お主の妻への愛はホンモノじゃ。ただ、それを行う手段が間違っておっただけじゃ。間違いは誰にでもあるのじゃ。取り返しがつく間違いなら、そこからやり直せばいいのじゃ!」
チエちゃんの説法に、教祖は俯いていたのを止めてチエちゃんを見上げる。
「キミ、いや貴方様は一体何者なのですか?」
どうやら教祖はチエちゃんの深い慈愛あふれる言葉と己の「力」でチエちゃんが見た目通りの幼女でない事に気が付いたようだ。
「ワシはタダの『通りすがりのお節介やき』じゃ! そんな事はどうでもいいのじゃ。教祖よ、教団を正しい姿に変えてゆかんか? 今ならまだ間に合うのじゃ。意識不明の信者達は先日意識を取り戻したのじゃ。それにお主、オンナには指一本触れず、どこぞの国会議員にも献金や生命エネルギー援助をしようともオンナを1人とも貢がなかったのじゃ。だからまだまだ情状酌量はあるのじゃ!」
チエちゃんの言葉に教祖は驚く。
「貴方様は、どこまでご存知なのですか? まさか国会議員が急に縁を切ったのも?」
「そうじゃ、全てワシが関わった事じゃ。ワシはな、泣いている子供を見るのがイヤなのじゃ。どうせ泣くなら喜びの涙じゃなきゃイヤなのじゃ!」
そう言ってチエちゃんは翔太君の方を見る。
チエちゃんの視線で自分の横に居る涙目の翔太君の顔を見た教祖、
「すまない、翔太。お父さん、お前を随分苦しめたんだな」
泣きながら謝る父親の姿を見た翔太君、
「ううん、分かってくれたならもう良いんだよ、お父さん」
「教祖よ、お主の家族愛はホンモノじゃぞ。そこなるマリ殿、お主の作品じゃろうが、立派なモノじゃ。お主の息子を大事にする心が生み出したからこそ、他の邪霊と違って愛に溢れ、愛らしくそして力強いのじゃ。それがお主の真の『力』じゃ。己の力不足を悩むのではないのじゃ。愛は全てを越える力じゃ。行き過ぎれば今回みたいな事件も起こすのじゃ。しかし正しく使えば最強の力となるのじゃ!」
チエちゃんはマリちゃんの横まで歩いていってマリちゃんの頭を撫でながら言う。
「じゃから、自ら己を正すのじゃ! それは教祖に付き従った者達も同じじゃ。ただ教祖に妄信し全て尽くす事が正しい事では無いのじゃ。過ちを正すのに遅い事なぞ無いのじゃ。例え教祖や神相手でも間違いを正してこそ、真の信者であり人なのじゃ!」
その声に感化された教祖と信者たち、自らの過ちに気が付かされたのか、しゅんとしており泣いているものも教祖筆頭に数名いた。
「ワシはあくまで『通りすがり』じゃ。警察にお主らを突き出すとかはしないのじゃ。後は自ら罪を償うのじゃ。その為ならワシはいくらでも力を貸すのじゃ!」
立派なチエちゃんの説法を聞きながら俺は思った。
あれ? この仕事俺の担当じゃなかったの?
すっかりチエちゃんが美味しいところを全部持っていっちゃったよ。
まー、いいか。
泣いている子供が居るのがイヤなのは俺も同じだからね。
すっかりチエちゃんの説法で観念した教祖達である。
俺は教祖に気になった事を問う。
「黒田さん、もう貴方は悪行をなさらぬでしょう。しかし、本来善良な貴方が悪行に手を出したのはどうしてですか? もしかしたらそれは、この『石』が原因では無いですか?」
そう言って俺は教祖の目前に胸元から出した俺専用になった「次元石」を提示した。
石を見てびっくりした教祖、
「はい、そうです。貴方もこの『石』をお持ちなのですか。私は3年程前妻の病気で悩んでいる時にある人物から、この石を使えば『力』が強くなり妻を救えると言われて渡されました」
そう言って教祖は自らの胸元のペンダントを示す。
そこには小さいながらも虹色に輝く石があった。
「その人物は誰なのか教えていただけますか? 俺もこの『石』について色々調べているんです」
俺の問いに教祖が答えようとしていた時、教祖の「石」に何かが飛んできた。
それは素早く教祖から「石」を奪って飛び去り、あるところに向かう。
「先輩、そこに誰か隠れています!」
コトミちゃんの声で俺達は戦闘態勢を取り、その方角へ向く。
そこには石を折り紙の鶴っぽい使い魔から受け取った軽薄な笑いを顔に浮かべた茶髪の若い男が居た。
「教祖さんよぉ、いらん事しゃべるなよ。もうお前は用済みだ。お疲れ様、さようなら!」
その声と共に教祖は燃え上がる。
俺は翔太君を教祖から遠ざけるのがやっとだった。
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