第84話 康太の新たなお仕事:その8「教団への強襲!:その3」
俺達は祭りが行われている教団敷地内に入った。
そこでは多くの出店が出店されており、それらは信者たちが行っているらしい。
「マサミちゃん!」
コトミちゃんは目聡く、救出対象のマサミちゃんを発見した。
なるほど、中学生にも見えそうな幼い外見の子だ。
「あ、コトミちゃん、一本どう?」
マサミちゃんは「焼きとうもろこし」担当らしいのだが、いまひとつ覇気が無く眼も虚ろな感じ。
霊視をすればマサミちゃんの背後に邪霊らしきものが憑いていて、マサミちゃんから何かを吸い取っている様に見える。
「ごめん、私行くところがあるんだ。また、後で来るね!」
そう言ってその場から離れるコトミちゃん。
どうやらコトミちゃんにも邪霊は「見えた」らしく、少し涙ぐんでいる。
「先輩、絶対にマサミちゃんを助けましょうね」
そう小声で俺に言うコトミちゃん、
「ああ、絶対に!」
さあ、ここからが正念場だ。
◆ ◇ ◆ ◇
祭りの前々日、俺達は教祖、黒田光道のご子息、翔太君と接触する事が出来た。
彼は父親の変貌や学校でのクラスメート達からの「眼」に耐え切れず、1人で登下校しているとの事。
それをコトミちゃん情報で知った俺達は、翔太君と接触して彼からも話を聞く事にしたのだ。
下校中、1人ぽつんと俯いて公園でブランコに座る翔太君。
そこに俺とチエちゃんが赴いた。
「黒田翔太君だよね、ちょっと良いかな?」
俺が呼びかけた事で翔太君は驚き、周囲を見た。
「お兄さんは誰? え、マリが居ない? お兄さん達、マリに何かしたの?」
俺を睨み上げる翔太君。
どうやら自分を守護監視していた使い魔が居ない事に気がついた様だ。
となると、この子も「力」持ちなんだ。
「ごめんね、キミと少し話したかったから、少し離れてもらったんだ。その子に酷い事は絶対にしないから安心してね」
そして俺はチエちゃんに言う。
「チエちゃん、すまないけど朧さんに穏便に済ませるように連絡してくれない?」
「うむ、事情があるようじゃな。了解じゃ!」
今回、翔太君と話す上で問題になるのが、彼に憑いている守護使い魔。
教祖に通報してもらっては困るから、朧さんにお願いして一時的に翔太君から離れてもらうようにしておいたのだ。
しかし、どうやら翔太君と守護使い魔は良好な関係らしい。
いきなり使い魔を滅ぼしたりしなくて良かったよ。
「ごめんね、翔太君。そのマリさんだったっけ? 無事に翔太君の元に返すから、俺と少し話してもらえないかな?」
「本当? 絶対マリに酷い事しない?」
翔太君、今度は涙ぐみながら俺達に問う。
どうやら彼と使い魔は友達に近い関係っぽい。
「うん、絶対。ね、チエちゃん?」
俺はチエちゃんに話を向ける。
「そうじゃ、絶対にマリ殿に酷い事はしないのじゃ! ワシは嘘は言わんぞ!」
チエちゃんは、いつものドヤ顔だ。
「そうなの。じゃあ、良いよ。お兄さん達、マリを居なくさせるという事は、スゴイ能力持ちなんだね」
今度は興味深そうに俺達を見る翔太君。
「そうじゃ、ワシに掛かれば何でもありなのじゃ!」
そう言って手の中から紫色の球電を出すチエちゃん。
「チエちゃん、それ危ないって!」
いくら珍しいからって球電は流石に危ないよ。
しかし、翔太君には大分ウケたみたい。
「キミ、スゴイねぇ。こんな綺麗なモノ作れるんだ!」
ウケた事が嬉しいチエちゃん、球電を消して、無い「胸」を張り出して全力のドヤ顔である。
「そうじゃろ、そうじゃろ!」
まあ、翔太君の警戒心を取れたのは良かったかな。
俺は、しゃがんで翔太君の目線まで下がって話す。
チエちゃんも翔太君の横のブランコに座った。
「じゃあ、お話良いかな?」
「うん、良いよ。もしかして僕のお父さんの事を聞きたいの?」
実に、察しが良い子だ。
「そうなんだ。翔太君のお父さんが『力』を使ってやっている事をキミは知っているの?」
俺はあえて単刀直入に翔太君に聞いた。
「力」もあり、悩んでいる風の翔太君だ、必ず何かを知っているはず。
「うん、信者の人たちに霊をくっつけて吸い取っている事でしょ? アレやめて欲しいんだ、僕。僕が小学校に入ったくらいの時、お母さんの病気でお金が無くなって困ったんだ。そうしたらお父さんが誰かから『力が欲しいか』って言われて、虹色の石をもらんたんだって。それからお父さんがおかしくなったんだ」
翔太君の話によると、「石」を手に入れた教祖は、セミナー等で集めた人に邪霊を憑かせて彼らからお金と精気を集めたそうだ。
そしてそのお金と精気を妻の治療につぎ込んだのだけれども、妻の病気の進行が早く、本来の余命よりは数ヶ月延びたのものの妻は亡くなったそうだ。
その後は、俺が知る内容のままの所業だった。
「そうだったのじゃな。翔太殿の母君を救うために行った事が全ての始まりじゃったのか」
腕組みしながら納得しているチエちゃん。
確かに悪行を成しているけど、それが妻の為だったのなら悲しい事だ。
しかし、生命エネルギーの転送なんて器用な事をしていると思ったけど、過去に同じ事をしていたのなら分かるよ。
「翔太君、ごめんね。君に悲しい事を思い出させちゃって」
俺は翔太君に頭を下げて謝る。
「ううん、良いんだ。他の人に話しても誰も信じてもらえなかったけど、お兄さん達はちゃんと聞いてくれたし、お母さんの事を悲しんでくれたから」
「翔太殿、父君が今行っておる事は悪じゃが、過去母君を救おうとしておったのは悪とも言いきれぬ。救う手段があるのなら、人が手を汚すのもありうる事なのじゃ。だから翔太殿は父君を嫌わないで欲しいのじゃ」
チエちゃんは、翔太君に近づき彼の頭を撫でながら話す。
「だから、ワシらは翔太殿の父君も救いたいのじゃ。将太殿、ワシらに協力をしてくれぬか?」
翔太君はチエちゃんを見上げて言う。
「え、キミお父さんを助けてくれるの?」
「そうじゃ、ワシらは正義のミカタじゃないが、ハッピーエンドが好きなのじゃ! 一件落着したいだけなのじゃ!」
すっかり時代劇マニアになったチエちゃん、ドヤ顔で良い事言っているね。
まあ、俺もハッピーエンド派だし、事情がより判ればソレもあり。
「うん、俺も皆助けたいんだ。お父さんを元に戻せれば翔太君も悲しくなくなるしね」
「ありがとう、お兄ちゃん達。うん、僕お父さんを助けるのを手伝うよ!」
さてさて、これでハッピーエンドのフラグは十分立った、
後は俺達が頑張るだけだ!
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