第81話 康太の新たなお仕事:その5「諜報活動!その2」
「朧」さんからの報告は続く。
「まず教祖ですが、『次元石』所有者でした。石の力で自身の力を強化し、色々と行っております」
え、教祖が「次元石」持ちだって?
俺がリタちゃんと出会い、様々な戦いを通じて強くなり、チエちゃんとも仲良くなれたのは「次元石」のおかげ。
この石、壊れかけたのは古墳地下遺跡にあったのだけど、俺が遺跡に入るまでは持ち出されたような形跡は無かったはず。
遺跡内の石もマサトに調査を依頼しただけだ。
「マサト、あの『石』、他には持ち出されてなんかはしないよね」
「うん、コウ。ウチの研究室以外には、まだ持ち出してはいないよ」
「はい、コウタ様、マサト様。その通りで件の『石』の出所は別のようです。おそらくですが、教団が大きくなり出した3年程前に教祖が入手したものと思われます」
朧さんが言うのなら、その通りだね。
「教祖は『石』の力で弱い自然霊を集め、自分の手ゴマとして使える邪霊・使い魔にしています。強いモノとなった成功例は自分達の守護に用い、弱いモノを信者に憑り付かせて、生命力・思考力・精気を吸い上げて定期的に教祖の下へ送っています。その集めた力は一部が自分、大半が贔屓にしている与党国会議員の下へ送っています。また集約した布施も同様に大半がその国会議員への政治献金に使っています」
まー、聞けば聞くほどゲスな奴だね。
「なお、教祖のご子息には守護霊は付けているものの、事実上ノータッチでした。彼は近年の父の変貌に苦しんでいる様子でした」
じゃあ、その息子さん、確か翔太君だったけ?
彼を救う意味でも教祖をとっちめないとね。
「なお、特定の女性信者との関係でしたが、幸いにも危惧した事はありませんでした」
え、それはどういう意味なの?
「確かに数名の女性信者が入れ替わり立ち代りで、閨を同衾しておりますが、性的な接触は全く行われておりませんでした。会話を聞きましたが、教祖は妻を亡くして以来精神を病み不眠症にかかっているようで、女性に添い寝をしてもらわないと眠れないとの事。また、亡き妻に貞操を誓っているとの事で、性的なお付き合いをしている女性も現在別段見当たりませんでした。また例の国会議員から女性信者を貢げとの話があったものの、それは丁重に断っていました」
あら、そうだったんだ。
じゃあ、まだ情状酌量の余地は十分あるね。
「じゃあ、教祖をとっちめた上で不眠症も改善して、教団を健全な組織にすれば万事解決という事なのじゃな! まあ、邪な国会議員殿には後からしっかりとお灸をすえるのじゃ!」
「そですね。女性に手出ししていないのなら情状酌量の余地はあるし、誰もが泣かないハッピーエンド目指すなら、俺はそれでいいと思うよ。まあ、国会議員サンには泣いてもらうけど」
俺は甘いと言われるかもしれないけど、物語はハッピーエンド派だ。
現実では難しいからこそ、創作ではハッピーエンドにしたいし、出来るなら現実でもそうしたい。
「では、この方針で良いかな、皆の衆?」
「おー!!」
さあ、これからが作戦開始だ!
◆ ◇ ◆ ◇
「それは話が違いませんでしょうか? つい先日も沢山献金を致しましたのに、いきなりコレまでの事は無かった事にしたいとはどういう事ですか? なら、私共からお送りしていますエネルギーも途絶えますよ。そうなると、もう今まで見たいなムリは効きません。ご病気のコトもありますし、寿命にも影響しますが……」
電話口で吼えているのは、中年男性。
頭髪は豊かでオールバックにしているが一部が白髪状態でメッシュになっている。
身長は165cm、体格はふくよかでおそらく体重が80kg以上、メタボ体型に分類されるだろう。
彼こそが教団「光輝宗」代表の黒田光道である。
電話相手は、宗教法人申請以降何かと便宜をしてもらうために献金をしている与党国会議員である。
その国会議員は教団から資金だけでなく、生命エネルギーの援助も受けているにも関わらず、今回急に関係を切りたいとの連絡があったのだ。
「うむ、全く分からぬ。何が議員にあったのじゃ。何かに怖がっているようだったが、彼が怖がる存在なぞ与党フィクサーや総理以外におるとも思わんが」
光道は、内線で秘書を呼び出した。
「急な話ですまんが、生命エネルギー援助の中止をするので準備をしておいてくれ。また資金関係も変更があるので、関係部署の者達を集めてくれ」
光道は、豪華な椅子に埋まり胸元のペンダントの「石」を触りながら考える。
これで生命エネルギーや資金に余裕が出てくるが、今後どうすべきなのだろうかと。
もうここまで大きくなってしまった教団は、自分だけの都合ではもはや動かせない。
かといって、いくら資金が増えようとも、「力」が増えようとも愛した妻は帰ってこない。
本来、妻を救うために始めた「悪行」なのに。
息子とも最近は十分に話せていない。
どこかで自分は間違っていたのだろうか?
邪霊なんぞに頼り、ヒトにあるまじき悪行を重ねて、ヒトに生き方を問う矛盾した自分が。
天井を見ながら悩む教祖だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふむ、それでいいのじゃ! お主、これまでの悪行、ワシが知らぬとでも思いか? 寄生虫は宿主が死んでしもうたら意味が無いのじゃ。別に私腹を肥やすなとはワシも言わぬ。じゃが、寄生虫であるからこそ宿主を肥やしてから、そのお零れで私腹は肥やすべきなのじゃ。言っている意味は分かるのじゃな?」
与党国会議員の自宅応接室で、国会議員を睨みつけているのは、チエちゃん。
周囲には議員のボディーガードらしき屈強な男性がピクピクしながら多数倒れている。
応接室までの廊下にも死屍累々(死んでません)という風景だ。
そして国会議員もヒキガエルのような醜い腹を晒してひっくり返っている。
さっきまで教祖と電話をしていて、付き合いをやめるように電話をさせていたのだ。
ちなみに俺はチエちゃんの保護者名義でマユ姉ぇ共々一緒に来ているけど、俺の出番はまったく無し。
チエちゃん大暴れ(一応手加減、非殺傷モード)を横目で見ながら、この子が味方で良かったと随分安心したものだよ。
「そうそう寿命の問題と言っておったな。それなら、お主の黒い腹の中にあるガンをさっき吹っ飛ばしたときに、ついでに全部消し飛ばしておいたのじゃ。これは大サービスじゃ。後、血管の老化については今すぐにはどうともならんが、放置しておれば10年以内には関連病で必ず死ぬのじゃ。今からメタボ対策や投薬治療をすれば、20年は寿命が延びるやもな。これに懲りて、全うに生きるのじゃ。お主にも妻子や家族はおるのじゃろ。命は大事にして、その命を家族や社会を幸せにする事に使うのじゃ!」
そう言ってチエちゃんは、マユ姉ぇの方へ顔を向ける。
「これで宜しいのじゃな、母様?」
「ええ良いわ、チエちゃん。議員さん、今後は私達有権者の方を少しは見てくださいね。じゃあ、帰りましょうか、チエちゃん、コウちゃん?」
そうニッコリと議員に笑いかけて椅子から立ち上がるマユ姉ぇ。
チエちゃんの過激な「説教」をニコニコしながら見ているのは、怖いよぉ。
「そうじゃな、母様。そうそうワシは別に構わぬが、母様とかワシの家族友人に指一本でも手を出したら、次は一切手加減もサービスもしないのじゃ。生きている事を後悔させてやるのじゃ! 分かったのじゃな?」
そう言って、一瞬悪魔形態を議員に見せるチエちゃん。
議員は「ひぃー!」と叫んで、ズボンを濡らした。
「そうそう、普通の人間はそういう反応なのじゃ! 何故に母様の周囲の人間はワシを怖がらずに拝んだりするのじゃ?」
首を傾げながら幼女形態に戻るチエちゃん。
俺達は、「騎」事件の際に知り合った地元の名士、内藤翁から問題の国会議員について連絡を取ってもらい、アポをとって面会した上での「暴れん坊なんたら」だった訳だ。
まあ、オオゴトにはしなかった上に議員のガンさえもサービスで治療してあげたんだ。
怯えられる事はあろうとも、恨まれはすまい。
これで、「馬」は落とした。
残るは「将」だ。
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