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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第一部 第二章 功刀康太は普通(?)の日々を過ごす
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第8話 康太の日常:その1「姫様、病院に行く」

 姫様を保護してから10日程が過ぎた。

 あれから姫様や姫様の世界について分かった事が幾つかある。


 まず、念話以外、普通の会話で姫様と意思疎通が出来る事が分かった。

 それは、姫様がマユ姉ぇの家に来てから3日目の事。

 姫様もこちらの世界に大分慣れてきて、テレビを見てもおどろかなくなっていた。


 姫様の話によると、姫様の国は割と寒い地域にあり、酪農と少々の農業で暮らしていたそうだ。

 文明レベルでは地球で言うところの19世紀初頭くらいで、魔法があること以外は地球で言うところの家庭内手工業レベル。

 地動説の理解や航海術、火薬・印刷技術は発明していたものの、まだ蒸気機関までは到達していないらしい。

 これが異世界じゃなければ、地球外知的生命の発見だけど。

 うん? そうか異世界でも地球外なのは確かだね。

 なお、姫様が知る限りドワーフ等の異種知的生命体はいないそうだ、残念。


 そして姫様が不思議そうにテレビのチャンネルを動かしていたとき、国営放送の教育チャンネルが写った瞬間、姫様は声を上げた。


「え!」

〝どうして神聖語をこの方達がお話しているのですか?〟


 それは初級ドイツ語講座の番組。

 俺も驚いて姫様に聞く。


「姫様、この番組で話している言葉が分かるのですか?」


〝はい、これは魔法を使う時に用いる言葉、そして王族等の名前に使われるものです。普通の庶民の会話には使われないものなのですが〟


 そうか、そういえば姫様の中間名(ミドルネーム)にドイツ語で貴族を意味する「Vonフォン」があった。

 もっと早く気づけば良かったけど、これが何かのヒントになるかも。


「これは、ドイツというここから星の裏側にある国の言葉です」


〝そうなのですか。コウタ様もこの言葉が分かるのですか?〟


「学校で少しは習ったのですが、数字とか挨拶くらいしか覚えていません。EinsいちZweiDreiさんとかDankeありがとうとか」


Vielen(わたしも)Dank(ありがとうございます)


 そういえば、最初の魔法以外で姫様の肉声を聞いた事が無かったな。

 鈴を転がすとはこういう声の事かな、可愛い声だ。


「この機械に話しかければ、この国の言葉に変えてくれるからやってみますか?」


 姫様は俺が設定したスマホに話しかけると、

『今まで助けてくれてありがとう。』

 と、日本語変換してくれた。


 姫様はびっくりして、


〝通じていますか?〟


 と、念話を送ってきた。


「ええ、通じていますよ。そういえば、俺は意識して念話をしていませんが、どうして俺の言葉を姫様は分かるのですか?」


〝私の念話術は、相手の思考の表層に私の念を飛ばしていて、逆にコウタ様達の思考の表層を読み取っているものです。言語化された思考は読みやすいので、普通に会話していただければ、大体の事は分かります〟


 これで、今まで姫様が俺達と何の不自由もなく会話できていた理由が分かったよ。


「さて、ドイツ語がお互いの世界で使われているって事は、こちらのドイツと姫様の世界が強い繋がりがあるくらい行き来出来たという事ですね」


〝はい、神聖語は500年近く前から使われていると聞いた事があります〟


 これで調査のきっかけが一つ見つかったのは朗報だ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 次は、姫様の身体について。

 姫様がマユ姉ぇの家に来た晩に俺に話していた通り、後日マユ姉ぇは姫様に健康診断をするように話したらしい。

 俺はその日は大学で事態の報告中だったので、詳しい話は後から聞いた。


「リタ様、非常に申し訳ありませんが、リタ様がしばらくとは言えこの世界で安全に暮らす為に、少し協力をして頂きたいのです。誠に失礼なのですが、リタ様の血液を少々と排泄なされたものを頂きたいのです」


〝マユ様、それは何に使うのですか?〟


 姫様は少し怪訝な感じだったそうだ。


「そうですよね、普通は怪しみますものね。血液とかは魔術の触媒としてよく使いますし。なぜリタ様から先ほどお話したものを頂きたいかというと、リタ様の御身体がどれだけ私達と違うのか、そして病気になっていないのか確かめたいのです」


 マユ姉ぇは、姫様が納得できるように説明をしたそうだ。


「リタ様の世界でもあったとは思いますが、この世界でも伝染病というものがあって、最悪死ぬ事もあります。この病気になる原因の生物が身体に進入したときに、身体が持っている戦う力で悪い生物を退治できれば病気は大したこともなく治ります。しかし、この戦う力が無かった場合、ほんの軽い病気でも死んでしまいます。この世界でも他所の国から来た人から移った病気で国が滅んでしまったことがあります」


 真剣なマユ姉ぇの説明を、姫様はしっかりと聞いてくれたそうだ。


「そして、その悲劇がリタ様に起こっては大変ですので、出来る限りの手を使ってリタ様を守りたいのです。リタ様からサンプルを頂ければリタ様の体質や病気へのかかり易さが分かります。もし可能なら予防接種といって病気と戦う力を増やす方法もありますし」


〝マユ殿の行いたいことが私を守ってくださる事なのは理解できました。そこでお聞きしたいのですが、病気とは悪い『風』や『気』が身体に入ってなるものではないのですか? 私の世界ではそう習っていますが〟


「この世界でも昔はそう思っていました。今から100年くらい前にドイツという国のコッホ博士が、病気は細菌という目に見えないくらい小さな生き物が身体に入ってなるものだということを発見しました。その後、ウイルスという更に小さな生き物も病気の元になるのも発見されて、どうすれば病気になりにくくなるのかも分かったのです。姫様と私達はそう大きく変わりない『ヒト』ですので多分そこは同じだと思います」


〝そうなのですね。しかしマユ様は医術にもお詳しいのですね〟


「はい、看護士といって医者の仕事を助ける仕事を昔やっていましたから」


〝では、全てマユ様にお任せいたします〟


「どうも、ありがとうございます。そこで、もうひとつお願いがあるのですが、良いですか?」


 マユ姉ぇは大胆な事に姫様を病院に連れ込む案を話したそうだ。


〝それはまたどうしてですか〟


「実は私が採血をするより現役の方にやっていただいたほうがリタ様を傷つけないですし、他にも受けて頂きたい検査がありまして」


  ◆ ◇ ◆ ◇


 結局、マユ姉ぇに押し切られた形で姫様は、大学病院に行く事になった。

 なお、正体がばれない様に耳だけは幻覚呪文で誤魔化してもらったそうだ。


 そこで後日分かった事だが、姫様の種族は地球人類とほぼ同種、しいて分類するならホモ・サピエンスに属するものだったそうな。

 地球の現人類は、ホモ・サピエンス・サピエンスの単一種。

 姫様達は無理やりな分類をすれば、ホモ・サピエンス・エルフィシスって感じになるらしい。

 旧人のネアンデルタール人が、昔の学説ではゴリラっぽい原始人で現人類とは別種と思われていたけれども、実際には今のヒトと混血していた形跡が残っている(分類:ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス)くらいの違いでしかなかったそうだ。

 なので、おそらく俺達と姫様達も混血も可能なくらいの種の違いらしい。

 といっても、幼い姫様に欲情はしたらダメ。

 いくら「Yesロリータ、Noタッチ」と言われても。


 MRIとかの検査で内臓、血液、ホルモン系もほぼ同じなのが分かった。

 しいていうなら年齢の割に華奢なのだが、これは我々の間でも個人差が大きいので関係ないだろう。

 ここで初めて姫様の年齢を聞いたそうなのだが、地球年齢に変換するとナナより1学年年下だった。

(姫様の世界と地球では少しだけど公転周期が違っていた)

 また話によると姫様の世界の平均寿命は今の日本くらいなので、医療技術の差を考えれば姫様の種族のほうがやや長寿な可能性があるくらい。

 免疫系も地球の感染症と同類のものに感染した痕跡があったので、摂取可能と判断して緊急に不味そうなものだけ急ぎで予防接種をしてもらったそうだ。


 この時に対応した医者がマユ姉ぇの知り合い、豊原 隆(とよはら たかし)

 40歳過ぎで消化器外科の医学博士、医者としては一番油が乗りきった頃。

 しかし、彼には悪い趣味があった。

 この時点で姫様がドイツ語なら会話できる事は判明していたので、豊原医師は姫様に沢山話しかけていた。

 姫様も久方ぶりに話が分かる人と話せたので嬉しかったそうだ。


「ふむ、姫様のお話す言葉は中世ドイツ語が変化したもののようですね。いやー、姫様とこうやってお話できて光栄です」


 この時、豊原医師の鼻の下がずいぶん下がっているような気がして、マユ姉ぇは一瞬二人を会わせた事を後悔したそうだ。


「よし、姫様の事は病院については僕に任してよ。今回の医療費も治研扱いにしちゃうから心配ないよ」


 豊原医師、ちゃんと結婚していて中学生くらいの娘さんもいるそうだが、ややロリコン傾向があったらしく、すっかり姫様のファンになったそうだ。

 そりゃ姫様可愛いけど、これで良いのかよ、ニッポン!


 なお、この頃俺は俺で、困った大人の扱いに苦慮していた。


 ここからしばらくは日常(?)編が続きます。

 実際に異世界人がこちらに来た場合、どうしたら良いのか考えて書きました。

 では、宜しくお願い致します。

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