第77話 康太の新たなお仕事:その1「仕事依頼?」
「センパイ、少しお話良いでしょうか?」
そう言って来たのは、ゲームサークルの女性後輩。
神津 明美、大学3年生で今年21歳になる女の子。
茶髪のポニー、スレンダー系で身長も160cm強、ドイツ文学が専攻だそうな。
可愛いより美人系なんだけど、問題は趣味が腐っている事(笑)。
俗に言う「暦女」、それも第二次大戦系の腐暦女で、「グデーリアン様ぁ」とか「ハルトマン様ぁ」と言っているお困り女子。
そっち方面から戦術ボードゲームやらお船がどうやらゲームとかを遊ぶので、俺達のサークルに入っている。
最近は日本刀がどうとかがお気に入りらしく、俺にも刀の由来を聞きに来る。
まあ、厳密には俺の専門じゃないけど、それなりには知っているので答えられるけど。
「実は、センパイがオカルトにもお詳しいとお聞きしまして、相談したい事があるんです」
俺の「秘密」は、サークルではマサト以外には言った事が無い。
どこから話を聞いてきたのやら。
ちょうど目の前にTCG対戦中のマサトが居たので聞いてみる。
「マサト、俺の事話したの?」
「いや、コウの事は言ったりしないよ。ということで、僕は無限ターンに入って良い?」
すいません、俺の負けです。
「投了です、参りました。後、疑ってごめん」
俺はさっさと机の上のカードを片付けながらアケミちゃんに聞いてみる。
「アケミちゃん、誰から俺の事を聞いたの? もし俺が知らないふりしたり、怒ったりしたらどうする気だったの?」
アケミちゃんは少し困り顔で話す。
「実は、高校からの同級生でセンパイと同じゼミのコから聞いたんです」
それを聞いて俺は情報の出所を理解した。
「なるほど、コトミちゃんね」
「はい、その通りです。彼女が言うのに、センパイはスゴイ『力』持ちでお人好しだから、困った風に話せば必ず力になってくれるって」
全くコトミちゃんと来たら、どこまで俺の行動を呼んでいるのやら。
ん?
言い方が可笑しいぞ、本来なら手の内晒す事まで話しているし。
「もしかして、疑われたら手の内全部晒して話したら、絶対力になってもらえるってコトミちゃんに言われたのかな?」
「はい、実はそうなんです」
う、完全にコトミちゃんの手の上で踊らされている俺。
これでは断る選択肢は最初から無いし、実際に困っている女の子を無視できないのが悲しいかな俺の性分。
「分かったよ、実際にどこまで力になれるかは分からないけど、まずは話を聞かせてよ」
「はい、では……」
◆ ◇ ◆ ◇
「では、洗いざらい話してもらおうかな、コトミちゃん」
俺はアケミちゃんに話を聞いた翌日、ゼミで教授のお手伝いをしていた彼女を捕まえていた。
綾瀬 コトミ、俺と同じゼミの学生で3年。
本当なら来年、4年生になってからゼミ入りするのが通常なのだけれども、彼女の特殊能力をゼミの吉井教授が惚れ込んで3年生のうちからゼミに入り浸っている。
彼女の特殊能力は、情報収集・推理・統計能力。
様々な雑多なデータを一つにまとめ、真実に導く力、探偵モノとかで良く聞く力だ。
「功刀君、あまり綾瀬君を責めないで上げてね。キミの事を彼女に話したのは私なんだから」
教授は彼女を庇う。
まあ、資料にあふれて崩壊寸前だった研究室を完全に整理した彼女に逃げられては困るのも分かるけど。
「教授、別に俺は怒っているという訳じゃないんです。ただ、事前に直接言ってもらっていたら話が早かったのに、態々別の子から話を聞いたからどうしてかと思っただけですから」
「だって、アタシみたいに魅力無い女の子よりも美人さんに頼ってもらった方が、話を聞いてもらいやすいと思ったんだもの」
そういう彼女だが、別に不美人とは言う訳では無い。
中肉中背で普通に胸もある。
おかっぱ系ボブでメガネっ子、可愛い系で少し身奇麗にするだけで十分モテル方だとは思う。
しかし、彼女は徹底的に存在感、いや気配が薄い。
それも意識しないと俺ですら存在を忘れるほど。
もはや隠行の域の使い手にして、気配感知や殺気感知も高く身近な危険からは必ず逃げている。
でも、今日は俺に捕まっているのは不思議だ。
「もしかして今日、いつもみたいに隠れたり逃げたりしないのは理由があるの?」
「流石、先輩ですね。先輩の今までの活躍は、噂から既に全貌を把握しています。今までアタシを放置していたのはしょうがないですが、今後は必ずアタシを噛ませて欲しいんです」
おい、その言葉は本当なのかよ?
「じゃあ、何処まで俺の行動を知っているんだい? それ次第で考えてみるよ」
さあ、どこまで知っているのかな、コトミちゃん。
「はい、では先ずは去年の夏、国道での除霊ですね、この事は教授のお付き合い工事業者と先輩のお休みの日、そして工事日程から把握しました」
う、どういう推理力だよ。
「次が、古墳内遺跡でのナニか。古墳上での草刈バイトをしていたのは、もうゼミ内では誰もが知っていることですね。その際、古墳地下の穴に落ちたのも記録があります。そして、その直後先輩の叔母様の家に女の子の居候が増えていますね。それがどう見てもエルフっぽい外国系美少女、ならタイミングからして古墳で何かあった、もしかしたら異世界から来たとか言うネタ話かもと。なぜならその女の子が記憶喪失で、仮の戸籍を取得したとかあまりに怪しすぎますしね」
おい、完全に正解を導いているよ。
教授も顔を青くしながら彼女の推理を聞いている。
「次に、急にお嬢様学校の女の子の家庭教師をなさっていますね。これは、先輩から直接聞いています。しかし、言うのもナニですが先輩がいきなりお嬢様の家庭教師というのも変な話。いかな自制心が強い先輩でも美人お嬢様女子高生、それもGとかHサイズの胸を見て我慢できるとは思えません。これも何かあったと思われますね。更にその後、家庭教師をする子が2人になった、こちらもアイドル級の可愛い子と明らかに先輩とは不釣合いの子、絶対何かあったと」
カオリちゃんとケイコちゃんの個人情報を把握とは、どういうスジからの情報だよ。
それにいい加減俺の自制心(笑)をバカにしていませんか?
最近頑張ってSAN値強化しているのに。
「その後、秋に古墳地主とのいざこざ。あの時先輩はアタシに地主の家族について聞きましたよね」
そう、あの時話を聞いたゴシップ好きな後輩が彼女だったのだ
「そして地主の孫の突然の失踪、直前には中学校にて孫が異形の姿になったとかいう証言も聞いています。その際に先輩の従妹が襲われたとも。警察が動いたとか、地主宅で爆発事故もありましたし。これも先輩が関与していますよね?」
どこまでコトミちゃんの情報網があるのか、もはや千里眼レベルだぞ。
「その後もこまごまと動いていらっしゃったようですが、最近で大きなのはゴールデンウイークに家族で紀州旅行だとか。妙に大荷物だったとか、高野山に入り浸りだったとか、帰ってきたらまた居候の外国系幼女が増えたとの事。これも明らかに変ですよね」
絶対、どこかにコトミちゃんの「目」が居たとしか思えないぞ。
一度盗聴器とか仕掛けられていないか調べないと。
「これでも全部違うと言いますか、先輩?」
俺は思わず教授の方を見たが、教授は顔を横に振るだけ。
もうダメ、隠し切れないという事だそうな。
うん、俺もそう思うよ。
「分かったよ。その通り、コトミちゃんの推理で大体当たっているよ。しかし、どうやってそれだけの情報を仕入れたんだい?」
「それは企業秘密、乙女のヒミツですね。では、今後はアタシも仲間に入れてくれるんですね?」
「それについては、俺だけの独断では決められないから、一度俺の叔母の家に来てくれないか?」
「えー、先輩のエッチぃ。いきなり家に招待して襲うなんて。アタシなんかで欲情できるんですか、先輩?」
「おい、それはどういう意味だよ!」
思わず突っ込む俺。
「冗談ですってば。それだけの度胸あったら、既に惚れられている巨乳女子高生とか、従妹に手を出していますよね。はい、分かりました。ではお伺いする日時を教えてくださいね」
あー、コイツ敵に絶対廻しちゃダメな奴だよ。
また女難フラグ、それも恋愛以外の変なフラグ立っちゃったよ。
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