第76話 康太の新たなお仕事:その0「久方ぶりの平穏?」
これより康太の新しい冒険談、第2部新章の始まりです!
「うむ、こんな感じでどうじゃな? これで分かるのじゃ?」
高野山迷宮事件(?)が解決してから半月程が過ぎた。
チエさん、いや魔神将チエちゃんは、ゴールデンウイーク終了と同時にマユ姉ぇの所に引越しをした。
オタクグッズが多くて、配下の大悪魔朧さんに引越しの手伝いをさせていたけど荷物の収納する場所が無い為、俺が住むマユ姉ぇ経営のアパートの空室ひとつがチエちゃんの居室というよりオタク部屋となった。
そのチエちゃんは基本的にマユ姉ぇの母屋に滞在しており、今もナナやリタちゃん達の宿題の手伝いをしていた。
なお、迷宮で着ていたゴスロリは雰囲気で着ていたけど、普通に暮らすのには重いし邪魔だそうで、今は長い髪を後ろで纏めて結い上げ、見た目通りの子供らしく半そでTシャツにショートパンツで過ごしている。
そこで着ているのが、オタクアニメ柄のTシャツというのが実にチエちゃんらしい。
「うん、流石チエ姉ぇだね、コウ兄ぃよりも説明するの上手いよ」
ナナは、チエちゃんの事をチエ姉ぇと俺を真似た呼び方をしている。
「ちえおねえちゃん、ここもおしえて?」
リタちゃんは以前どおり、おねえちゃん呼びだ。
しかしすいませんねぇ、俺は時間が足りなくて教職取らなかったんだよ。
それに先生としての年季が違いすぎますって。
1000年と23年じゃ人生経験も違いすぎるし。
でも、俺もチエちゃんから色々勉強しないとね。
俺は家庭教師として、カオリちゃんやケイコちゃんを大学合格に導かないといけないし。
俺が考え込む表情をしているのを見て、チエちゃんは俺を慰めてくれる。
「コウタ殿、落ち込む事は無いのじゃ。こういうモノは相手のレベルに合わせた説明が必要なのじゃ。なまじ賢いコウタ殿が理解出来る事が、他の者すべてが同じように理解出来る訳無いのじゃぞ」
ふむ、勉強になります、チエ先生。
「あー、じゃあボクは賢くないって事なの! どういう事なの、チエ姉ぇ?」
「わたしはどうなの、ちえおねえちゃん?」
2人に詰め寄られて少し焦ったチエちゃんは、表情を真面目にして話した。
「いや、そういう意味じゃないのじゃぞ。ナナ殿は『ひらめき』はとても良いのじゃ。しかし、じっくりと考えたりする計算的なものが苦手なのが問題なだけなのじゃ。リタ殿は逆に計算はすごいのじゃ、ただじっくり構えすぎるのが弱点じゃ。時には「思い切り」が良い事が幸いする時もあるのじゃ。2人ともお互いの弱点を理解し庇い合い、そして自分の良い点を伸ばしていくといいのじゃ!」
チエちゃんは、俺にウインクしながら2人に的確な指摘をする。
俺に対しての助言でもあるだろう事を良く理解しないとね。
「チエちゃん、ありがとう。俺も頑張るよ」
「うむ、それでいいのじゃ! さて、もうすぐ夕食じゃな。今日は何かのぉ」
◆ ◇ ◆ ◇
そうそう、チエちゃんの立場だけれども、知らぬ間に岡本家の長女になっていた。
リタちゃんの時、記憶喪失を偽って戸籍取得をしたのだけれど、チエちゃんも見た目未成年の子が一緒に暮らす以上、なんらかの法的対策が必要なわけだ。
しかし、チエちゃんは準備があまりに良すぎた。
「ホレ、これでワシの身分保障は大丈夫なのじゃ!」
チエちゃんの身元をどうするのか、マユ姉ぇ達夫婦が本人交えて相談しようとしていた時、チエちゃんはお得意のドヤ顔で「ある書類」を提示したのだ。
因みに、この話は俺やナナ達が学校にいる時間での事だ。
「チエちゃん、これってどういう事なの?」
マユ姉ぇと正明さんが驚愕して見ていた書類は、戸籍謄本と住民票。
どちらにも「岡本チエ 18歳」と記入されているのだ。
戸籍には、ご丁寧な事にゴールデンウイーク明けに養女縁組をした旨が記載されている。
「見ての通りじゃ。年齢については、学校等面倒な事がないように、かつ未成年で通る様にしておいたのじゃ!」
呆れてしまっている正明さん、しかしマユ姉ぇは違った。
「チエちゃん、ちょっとこっちに来てね」
ものすごい迫力のある笑顔でチエちゃんにマユ姉ぇは言う。
アレは爆発寸前のマユ姉ぇ、すっごく怖いけど気が付かないのか、チエちゃんはニコニコして近づいたそうな。
「なんじゃ、マユコ殿。手間が省けたのを褒めてくれるのじゃな?」
「えい!」
マユ姉ぇは、かわいい掛け声でゲンコツをチエちゃんの頭上に落とす。
アレ、昔悪い事して叱られた時に喰らった事が覚えがあるけど、見た目より随分痛いんだよ。
何か呪や「気」でも練っているのかも。
「痛いのじゃ、どうしてじゃ! 何が問題なのじゃ、マユコ殿!」
涙目のチエちゃん、アレ魔神将にも効いたようだ。
恐るべし、マユ姉ぇ
「あのね、前に言ったわよね。何かするときは誰かに相談するって」
ニッコリ笑いながらゴゴゴという背景音をさせているマユ姉ぇ、その様子に怯えるチエちゃん。
そして、先日の約束を忘れていた事に気がついた様だ。
「あ! そうじゃったのじゃ。マユコ殿、すまん。ごめんなさいなのじゃ! また勝手に暴走していたのじゃ」
「もうしょうがない子ね。確かに最終的にはこんな感じにする予定だったけど、勝手にしないで欲しかったのよ。これ、もしかして市役所にハッキングをしたの?」
マユ姉ぇは迫力を消して、呆れ顔に戻る。
「うむ、住基ネット経由で市役所サーバに介入して書き換えさせてもらったのじゃ。皆の手を煩わさせるのも悪いと思ったのじゃが、自分勝手だったのじゃ。ごめんなさいなのじゃ!」
チエちゃんは頭を深く下げて謝る。
その様子を見て、そろそろ助け舟を出すべきだと思っただろう正明さんが言った。
「まあ、いいんじゃないかな、マユさん。手間が省けたのは事実だしね。じゃあ、チエちゃん、僕が『お父さん』として言うね」
正明さんはチエちゃんに向かって言ったそうだ。
「チエちゃん、キミは今まで1人で生きてきたから何でも自分でやっちゃうよね。でもね、キミの力は強すぎてキミの行動で困るヒトもいるんだよ。行動の影響をもっと考えないとね」
正明さんは背をかがめてチエちゃんの目線まで自分の顔を下げて話した。
「でも逆にキミの優しさで助かるヒトもいるんだ。だからね、もう1人じゃないんだ、誰かを頼っても良いんだよ。たぶんキミは僕や他の誰よりも長く生きるだろう。いずれは別れが来るのは、もうどうしようもないよね。でもそれまではせっかく『家族』になったんだ。頼りないかもしれないけど、僕らを当てにしてよね」
正明さんに頭を撫でられながら言われたチエちゃん。
涙を目に貯めて、
「ごめんなさい、なのじゃ! もうワシは勝手には動かないのじゃ。これからは皆に相談してより良い方法を考えていくのじゃ、父様、母様」
そう、この時からチエちゃんは、マユ姉ぇ達の事を「両親」として言うようになった。
この後、帰宅した俺達は、チエちゃんが「父様、母様」とマユ姉ぇ達を呼んでいるのを聞いてびっくりしたのだけれども。
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