第75話 外伝:魔神将チエの物語:1
ワシは、魔神将チエ。
当年とって1000うん歳の乙女デーモンじゃ。
うん、1000歳が乙女ってどういう意味じゃって?
本人が乙女と自認しておるんじゃ、文句あるまい。
実際、魔神将の中では若い方なのじゃからな。
今回、ワシの事についてマユコ殿達が詳しく教えて欲しいとの事なので、自伝風に纏めてみる事にしてみたのじゃ。
執筆しておれば、その間部屋の片付けから逃げられるからと言う理由もあるのじゃが、それはマユコ殿達にはナイショじゃ。
◆ ◇ ◆ ◇
ワシが生まれたのは1000年以上前、地球よりはるか離れた惑星での事じゃ。
ワシらは最初この世界に寄生した母悪魔からすれば第三世代目、二世代目になる魔神王と魔神女王から生まれたそうじゃ。
基本的に悪魔族は生まれた時点で、ある程度の強さが決まるのじゃ。
魔神将クラスは次世代の王や女王候補として数百年毎に生まれるのじゃ。
ワシも最初は女王候補として大事に育てられたのじゃが、ワシが普通の悪魔と大きく違っていて、彼らの「善」と「快」を受け入れられなかったのじゃ。
突然変異ともいえる個体じゃったのだろう。
後に、とある星の文献にあったを見つけたのじゃが、ごくまれにこの突然変異体が「神」となり星を救い守るモノになる事もあったそうじゃ。
まあ、ワシはそこまで大した存在じゃないのじゃがな。
なもので、あっという間にワシは女王候補から追い出されて、辺境の討伐に追いやられるようになったのじゃ。
辺境討伐に訪れた、とある惑星でワシは運命を大きく変える出会いをしたのじゃ。
◆ ◇ ◆ ◇
〝もうこの惑星も終わりじゃな〟
今から約800年程前になるのじゃな、ワシは辺境討伐にイヤイヤ連れ出されており、仕方なく消極的に戦っておった。
だって、拒否したら味方から殺されかねないわ、といって原住民を虐殺するのもイヤじゃった。
しかし、圧倒的な悪魔軍勢の前に原住民の兵力は風前の灯。
もうまもなく惑星全体が滅ぶ日が近づいていたのじゃ。
因みに惑星のその時点の文明は、地球で言うところのローマ帝国レベルじゃったな。
惑星が滅ぶ様子に耐え切れないワシは、戦場をトボトボと歩いていたのじゃ。
その時じゃ、声を聞いたのは。
「お母さん、起きてよ! 私をおいていかないで!」
それはちょうどワシの今の姿くらいの年齢の原住民幼女じゃった。
もちろん地球人じゃないから、姿形は少し違うのじゃがな。
幼女は倒れ伏した母親らしき女性をゆすっておった。
「そこに誰かいるの? お母さんを助けて!」
幼女はワシの方を見て叫んだ、いや正しくは見てはおらなんだが。
幼女の目は光で焼かれたのか白く濁っており、ワシの姿、もちろん悪魔形態じゃ、を見えてはおらんだろうが、ワシを呼んだのじゃ。
今までなら原住民の姿を見ても哀れとは思うておったが、その声はワシの心の奥に響いたのじゃ。
ワシはこの時まで使うた事が無かった声帯を使い、現地語で話しかけたのじゃ。
「幼女よ、ワシの事を呼んでおるのか?」
「うん、お母さんを助けて!」
ワシは幼女の母親を見たが、かなりの外傷を負っており既に事切れている事に気が付いたのじゃ。
「すまぬが、お主の母君は既にこの世におらぬ。ワシでは最早救う事は適わぬのじゃ」
ワシは思わず幼女に謝ってしまったのじゃ。
もちろん今ならあの時の感情、何故謝ってしまったのかは良く分かるのじゃがな。
因みに、死んでさえおらねばワシは大抵の外傷は治せるのじゃ。
幼女はワシの答えを聞いて、母親の亡骸にしがみ付いて泣き叫んだのじゃ。
「お母さーん!」
ワシはその姿を見て悲しくなり、またその幼女がとても愛おしくなったのじゃ。
その後母君を葬って、ワシはその幼女を引き取り育てたのじゃ。
後、これ以上幼女のような被害者が出るのが我慢ならなくなり、悪魔軍にニセ情報を流し、お互いに疑いあい同士討ちをするように仕向けたのじゃ。
元々お互いに同胞意識も無い愚劣で脳筋な輩共じゃ。
その上、同族は嘘を付かないという思い込みから、あっというまに自滅していき、最終的には原住民軍に敗北したのじゃ。
え、ワシは基本的に嘘は付かぬと言ったって?
そうじゃ、「基本的に」は嘘はつかぬ、ただし嘘をつく事がワシの中で正しいと思うなら、ワシは自らの存在を傷つけても嘘をつくのじゃ。
なお、その際にワシは戦闘で死亡したと悪魔側に偽ったのじゃ。
そういえば、コレも嘘じゃな。
うん、嘘も方便じゃ。
そして、そうこうしている内に十年程過ぎて、幼女も年頃の娘になったのじゃ。
今思い出すに、たぶん地球基準でも美人じゃったな。
しかし本当なら娘の目を治せるのに、ワシは姿を見られるのが怖かったのじゃ。
親の敵の同族に育てられたと知ったら、どう思うか怖かったのじゃ。
じゃから結局あの時まで治せなんだのじゃ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お母さん、いい加減私の事心配しないでよね。眼が見えなくても大抵の事は大丈夫なんだから」
その頃にはワシはお母さんって呼ばれていたのじゃ、とても嬉しかったのじゃ。
因みに、この頃は整理整頓はしっかりしておったぞ。
じゃないと、見えていない娘が危ないのじゃ。
「うむ、でも不自由なのは確かなのじゃ。なんとかならんでもないのじゃが……」
「お母さんって本当は私の眼、治せるんでしょ。私知っているのよ、お母さんが戦場で沢山の人を助けているのを。後、ものすごく強いんだって」
「どうしてそれをお前が知っているのじゃ。ここは戦場から遠いのに」
それが娘の「カマかけ」であろう事に気が付かず、びっくりしてしもうたワシは娘が言った事が事実である事を認めてしまったのじゃ。
「だって、お母さんが留守の時は必ず戦いの時だったし、行商の人の中で話題になっているのよ、『悪魔の姿をした天使』が味方にいるって」
「じゃあ、ワシの正体も知っておったのか?」
「うん、大分前からね。だって羽や角の生えたヒトはいないもん。お母さんが寝ている間に触って分かったしね」
しかし、「カマかけ」以前にバレていたとは、我ながら情けないのじゃ。
「それは、うかつじゃったわ。じゃあ、ワシが怖くないのか?」
「あのね、十年も育ててもらったお母さんを怖がる娘が何処にいますか?」
この言葉はとても嬉しかったのじゃ。
ちょうど、この間ナナ殿やリタ殿に同じような言葉をもらった時に、この時の事を思い出したのじゃ。
この時、ワシは始めて大泣きをしたのじゃ。
それ以来じゃ、ワシが涙もろうなったのは。
しかし、感激の涙は心地よいものじゃな。
また誰かの為に泣く涙も格別じゃ。
その後、ワシは娘の眼を治した。
そしてワシの姿を見た娘の初めての言葉じゃったのが、
「あー、もったいない。お母さんがこんなに美人だと知っていたら自慢できたのにぃ」
ワシ、泣きながら噴出してしまったのじゃ。
娘も泣き笑いじゃったな。
その後、ワシらは末永く一緒に暮らしたのじゃ。
娘は母となり、祖母となり、曾祖母になったのじゃ。
そして数多くの子孫に囲まれて、幸せに包まれたまま天国に行ったのじゃ。
「お母さん、先に天国に行っているから、必ず後から来てね」
それが娘の遺言じゃったな。
悪魔相手に言う言葉じゃないとも思うのじゃが、彼女にとってはワシは天使以上だったのじゃな。
その後、しばらくしてもう悪魔の脅威が無くなった惑星からワシは去った。
もうこの惑星に未練は無いし、これ以上ワシがいる方が危険じゃからな。
その後、色んな惑星を転移門を使って転々として、今から400年程前にこの地球に辿りついたのじゃ。
そこから先の物語は、また今後の機会じゃ。
さあ、今晩は何を食べさせてもらえるのか、マユコ殿のご飯楽しみじゃ!
泣き虫悪魔チエちゃんの外伝、過去話でした。
次からは新章、新たな康太の冒険談に入ります。
では、ブックマーク、感想、評価・レビュー等を頂けますと、とても嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します。