第72話 康太は迷宮探索をする:その25「チエさんとお食事:その4」
マユ姉ぇは更にチエさんに質問をする。
「2階のドラゴンの部屋にありました剣は、壇ノ浦に沈んだアレでしたか?」
「うむ、マユコ殿達へのプレゼントという事で、海中で探して修復したのじゃ。アレあまり喜んでくれなんじゃったが、どうしてじゃ?」
「だって、正真正銘、神話の世界の神剣ですもの、畏れ多すぎて使うどころか、持っているのも困りますわ」
「そうか、ワシの感覚とマユコ殿達の感覚の違いじゃな。ワシはあの剣が海中に沈む頃には既に生まれておって、別の惑星でおったのじゃ」
そうか、やっぱり俺達よりも長生きなんだ。
1000年単位で生きて、宇宙をまたに駆けるデーモン。
是非とも味方で居て欲しいものだね。
「で、剣は『御所』に戻したのじゃな。では、いずれワシも御所に謝罪に行くべきなのかのぉ?」
「いえ、流石にそこまではどうかと思いますわ。まずは『御山』に謝罪をして頂き、その上でのお話かと」
流石に話題が話題なので、慌てた風なマユ姉ぇ。
俺も「あの剣」については、ノーコメントで逃げたいです。
「ふむ、そうかのぉ。後、他に聞く事は無いのでおじゃるか?」
「では、俺から。モンスターを倒した時に出るコインの使い道は何ですか? 何かあるようには思えませんが?」
俺の問いに明らかに動揺するチエさん。
「えーっと、あのコインの事じゃな。あれはのぉ、実は……」
珍しく口ごもるチエさん、さては……。
「すまん、勢いと雰囲気で作ってしまったのじゃ。実は、何か交換賞品でも考えておったのじゃが、時間切れで何も思いつかなかったのじゃ」
土下座でもしそうな勢いのチエさん。
やっぱりね、「魔術師」とかじゃお金でアイテム買ったり、宿屋代金になったけど俺達には何も必要も無いしね。
「じゃから替わりに皆に何かアイテムを作るから、それで勘弁して欲しいのじゃ!」
「はい、ではそれでお願いしますね、それで良いわよねコウちゃん」
マユ姉ぇに言われるまでも無く、俺は文句無いよ。
結構この「迷宮」で楽しませてもらったし。
「俺はそれで文句無いよ。一番被害被ったカレンさん達はそれで良いですか?」
俺に話を振られたカレンさん、
「私は今回あまりお役に立てませんでしたし、真由子お姉様が宜しいのでしたら、それでかまいません」
「私もそれで良いですぅ。最初はチエさんに少し怒っていましたが、事情が分かってちゃんとお話できるのでしたら、悪魔さんでもかまいません。仏教界や日本神話では荒神を神仏と拝むのは普通ですしぃ」
確かに鬼子母神や大黒天等、どう見ても悪神の方々も一緒に拝む仏教、そしてどんな神様も八百万の神々に組み込んでしまう日本神話。
その度量の大きさの前には、悪魔だどうだってのは意味が無い。
特にヒトを害しない存在なら、なおさらだ。
「本当に2人には済まない事をしたのじゃ。後、自分で言うほど役立たずなんかじゃないのじゃぞ。見事なもんじゃ」
チエさんは尼僧二人を褒める。
「じゃから2人には特別に良いアイテムを拵えるから希望を考えておくのじゃ。今すぐでなくていいのじゃぞ。慌てて答えを出す事も無いのじゃ。それと『御山』には今回で使った経費を全部補填するし、賠償金も支払うのじゃ。大丈夫じゃ、資金はFXや株等、ワシの知力で沢山儲けたのじゃ!」
どうりで羽振りが良いわけだ、チエさん。
彼女に掛かれば、資金不足の心配は無いのね。
「良かったですわね、カレンちゃん、シンミョウちゃん」
「はい、お姉様!」
マユ姉ぇやチエさんに褒められた2人とも嬉しそう、ホント良かったね。
「では、最後にお聞きします。チエさんは、各方面に謝罪が終わった後はどうなさるのですか? 何処か行くところはあるのですか?」
マユ姉ぇの質問に、答えにくそうなチエさん。
「実は無いのじゃ。この迷宮は一応住めるようにはしてはおるが、人里から遠くて何かと不便じゃ。もちろん今回の損害補填として『御山』には訓練場として貸すつもりじゃったが、別にワシが居る必要も無いのじゃ」
「あら、そうなのですか。では、どこかお部屋を借りてはどうですか? 不動産の手続きならお手伝いできますけど」
何か言い出しそうな顔のチエさん、でも我慢している風。
「ちえおねえちゃん、うちにきたいのじゃないの?」
リタちゃんが言った言葉にハッとするチエさん。
「どうしてその事が分かるのじゃ?」
「だって、おねえちゃん、さみしいんでしょ。ひとりは、いやだもんね」
「そうだったんだ。ボクは別に構わないよ。もう1人妹が増えるのも今更だし。あ、実年齢が上だから、お姉ちゃんかな?」
そこでボケるナナ、話題の重さを軽減する為の話であろう。
「俺は最終的にはマユ姉ぇの判断に任せるけど、チエさんがウチに来るのは賛成だね。だって放置していたら寂しいからって今回みたいな騒動起こされても困るしね」
「お主達、よう言うわい」
と、文句言いながら涙ぐむチエさん。
「マユコ様、私からもお願い致します。わが主は、こういう性格ですので、悪魔界には仲間は居ませぬ。また人と触れ合いたいが、自分の正体を隠すのもイヤだそうです。ややこしいし、困ったお方ではありますが、皆様にご迷惑をおかけする事は無いかと。もし危ない場合は、私が自身の存在をかけてお止め致します。ですので、ご迷惑かと思いますが宜しくお願い致します」
「朧よ、お主までワシの事をそう思っておったのか」
怒っているのか泣いているのか分からない状態のチエさん。
その様子を見たマユ姉ぇは、チエさんに話す。
「あらあら、皆にそう言われちゃったらしょうがないわね。チエさん、貴方お片付けが下手な様ですけど、ウチに来たらちゃんとしないといけないですよ。もちろん家事のお手伝いはしてもらいます。一緒に暮らす以上は、家族ですから。それと明日こっちに来る正明さんにも貴方から説明をする事。後、何かするときは必ず誰かに相談する事、独りで答えを出さないでね。チエさんが本気になったら何かと大変ですもの」
マユ姉ぇの答えを聞いたチエさん、大泣きしながら。
「本当に良いのか? ワシ悪魔じゃぞ。それも片付けヘタで暴走グセのある悪魔じゃぞ。それでも良いのか?」
「だから、ほっとけないのよ。放置しておいた方が被害が多くなるのですもの。ウチなら最悪ウチだけで被害を止められますし」
こうやって聞いてみるとチエさん、結構酷い事を言われている気がするけど、それは「ひとりのヒト」として認めてもらったからかな。
「ありがとうなのじゃ、ありがとうなのじゃ。ありがとうなのじゃ!!」
泣きながら感謝をするチエさん。
こうやって、またウチに新たな家族が増えた。
しかし、ますます戦略級女性が増えるのは、俺の女難増加フラグなのでしょうか。
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