第70話 康太は迷宮探索をする:その23「チエさんとお食事:その2」
リタちゃんは、チエさんの孤独を理解し、「ほっとけない」と話した。
その言葉がチエさんの心に刺さったままだった孤独を溶かした。
そして溶けた孤独は、チエさんの目から大粒の涙となって流れた。
「ワシの事、分かってくれるのか! そうじゃ、ワシはずっと孤独じゃった。こういう性格じゃ、悪魔の中では誰もワシの近くに来ん。かといって、人間に正体を言えば、遠ざかれる。仕方が無いから、ワシは寂しさを癒したい一心で書物等にのめりこんで、知識を溜め込んだ。そうすれば、今度はワシの知識を使いたいバカ共が近づいてくる。そういうヤツらは脳筋、下品下劣、悪質で『騎』みたいな悪魔じゃ。ワシはそいつらとは付き合いたいとも思えん。まあ、アレが本来の悪魔の本質なのじゃろう。ワシが異端なだけじゃ」
泣きながら、一気に心に秘めたモノを吐き出すチエさん。
やっぱり苦労してきたんだ。
他の悪魔共とまるっきり違うんだ、孤独にもなるよ。
「『騎』とは、たまたま近くに居たのでワシの存在を察知し、向こうから無理やりに近づいて来て、ワシの事を上に知らせない替わりに知恵を貸せと言われたのじゃ。因みにワシは自分の死亡を偽って逃亡中の身じゃ」
それでチエさんが『騎』にしていたのが、あまり気乗りしない風なアドバイスだったのね。
「直接的な戦闘力は、正直『騎』の方がワシよりも上じゃ。まあ、あの通りの脳筋じゃから、勝負自体は多分ワシの勝ちじゃがな」
この辺りから泣き止んだチエさん。
しかし、「騎」の脳筋具合はダメだね。
結局力押ししかしないから、力があるモノが策を練ったら勝てるはず無い。
「で、仕方なく従っておった内に、マユコ殿達の事を知ったのじゃ。間者からの情報を知るたびに、お主らと遊びたい、話し合いたいと思うようになったのじゃ。で、今回の事を計画したのじゃ」
ふーん、じゃあマユ姉ぇが警察署で倒した間者デーモンはチエさんと繋がっていたのね。
「そうじゃ、紹介を忘れておったわ。『朧』、出てくるのじゃ!」
チエさんが呼ぶと、部屋の隅に霞が発生して、そこから見覚えのあるグレーターデーモンが現れる。
それは警察署でマユ姉ぇが倒したはずのモノ。
俺達はすぐに警戒態勢に入るが、
「皆の衆、大丈夫じゃ。こやつは元々ワシが生み出したモノじゃ。『騎』にはダブルスパイとして貸し出していただけなのじゃ。だからワシの命令無しにヒトを襲うことなぞ無いのじゃ。まあ、元々好んでヒトを襲いたがるヤツでもないしのぉ」
チエさんの言葉で、俺達は警戒を解く。
〝マユコ様、コウタ様。その節は誠に失礼を致しました。主の命令も無く戦ってしまい、申し訳ないです〟
「いえ、あの時は私もヤル気満々だったのでお互い様ですわ。でも良かったですわ、切ってしまった私が言うの何ですけど、助かって」
マユ姉ぇは切ってしまったデーモン相手で少しバツが悪そう。
〝はい、私はチエ様に助けてもらいました〟
うーむ、強面の悪魔が礼儀正しく話すのはどうなんだろう。
まー、命のやりあいする訳じゃないし、別に良いか。
「それは良かったですわ。そういえばあの時、生まれ変わったらお互い仲良くなれたら良いわね、って言ったけど、生まれ変わらなくても仲良くできないかしら?」
〝はい、喜んで〟
「『朧』よ、良かったのぉ。ワシもいつもお主には迷惑をかけておる。お主もこれからは楽が出来るから、コウタ殿達を鍛えてやるがいいのじゃ」
〝御意〟
おい、俺って悪魔さんに鍛えられないといけないんですか。
「チエさん、その申し出はありがたいのですが、流石に街中でデーモンさんが出てくると騒ぎになるんですけど」
俺の苦情(笑)にチエさんは、何の問題も無い風に話す。
「それは問題ないのじゃ。『朧』よ、変身するのじゃ!」
〝御意!〟
朧さんは濃い煙に包まれたかと思うと、その姿は小さくなり人型へと変形した。
「このお姿で如何でしょうか、皆様?」
朧さん、イケメン黒執事の格好で現れる。
「どうじゃ、なかなか良い趣味しているのじゃろ? ワシが姿を見立てたのじゃ。おかげでワシの必要なものをいつも買い出しにいってもらってるのじゃ!」
なるほど、さっきまでのゴミがどうやって発生したか分かったよ。
「朧さん、貴方苦労しているんですね」
「はい、そうなのですよ、コウタ様。いかな生みの親とは言え、無理難題は毎度の事。マユコ様の家の偵察などは当たり前。先日など、とある有名洋菓子店の限定スイーツを開店前から並んで購入しろとか、コミケの壁際サークルの新刊『薄い本』を山ほど買えとか。本来、気配を消しての隠密活動が私の仕事。なのに、目立つ行動をしろというのは酷ではありませぬか? またこの姿も何かと目立ちますし」
「騎」事件以降、警戒を増したマユ姉ぇの監視を突破しての偵察とは、朧さんはすごい優秀なんだ。
しかし、優秀なはずの朧さんは何故か「うんざり」とした顔、確かに聞くだけでも大変そうな事やらされている。
まー、隠密が目立つのは困るか。
人間体もイケメン執事じゃあ、目立って仕方が無いしね。
「朧さん、どうやらお互い女難に困る運命なのかも知れませんねぇ」
俺は朧さんの境遇に同情した。
これこそ、同類哀れむってヤツかな?
「ええ、そうですねぇ。コウタ様、困ったモノ同士、今後とも宜しくお願い致します」
苦笑しながら言う、朧さん。
「ええ、こちらこそ宜しく」
なんか、俺、悪魔の友達二人も増えちゃったよ。
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