第7話 康太の大変な一日:夜その2「冒険の始まり」
晩御飯を皆で美味しく頂いて、今はお茶を頂きながら歓談中。
〝今日は美味しい夕食をありがとうございました。また、コウタ様には命を救って頂きどうもありがとうございました。いつとは申せませんが、このご恩は必ず何かの形でお返ししたいと思います〟
「あらいいのよ、リタ様。今回の件はコウちゃんには良い修行になったし。私、実はもう一人くらい女の子が欲しかったのよ。なのでリタ様には悪いけど、綺麗な女の子がいてくれるのはとっても嬉しいの」
それでか、妙に姫様の身体を触っていたのは。
でもマユ姉ぇの外見だと、もう一人くらい子作りしても何の問題もなさそうなんだけど。
〝そう言って頂けると非常に助かります〟
「さて、コウちゃん。これからどうするの? リタ様は当分ウチにいれば良いけど、いつまでもこのままじゃいけないわよね。リタ様が帰る方法を探すなり、こちらで悪魔を迎え撃つなり、あちらに行ってボス倒すなり、考えないといけない事一杯あるわ」
マユ姉ぇ、帰る方法見つけるまでは当たり前として、ボス倒すまでは「やりすぎ」ではないですか?
まあ、マユ姉ぇが本気出したら、どんな相手でも勝てないまでも負けない気はするけど。
〝私としては、こちらに置いて頂けるだけでもありがたいお話、その上にまさか戦って頂けるとは望んでおりません〟
「いいのよ、リタ様。こうやって知り合ったのも何かのご縁。たぶんリタ様とコウちゃんは縁が強いの。コウちゃん、今日のお昼言ったわよね。その石が貴方と縁が深くて役に立つって。早速その通りになったんだから、がんばりなさい」
ああ、そうだよね。
こうなったのも「縁」。
無事に生き残れたし、何もやらない選択肢は無い。
「ああ、出来る事はやってみるよ。「門」発生用の施設はたぶんこの世界の何処かにまだあるだろうし、そのシステムに例の石が使われているのも分かった。近いうちに石の成分分析してもらうし、遺跡は何か観測を遮蔽する仕組みがあったことまでは分かっている。同様の遺跡を調べれば何か証拠が出てくるだろうし、古今東西の召還術調べれば何か繋がりもあるかもしれない」
「そうよね、出来る事やってから後の事は考えましょうね」
これから大変だろうけど、やれる事があるのは良い事だ。
それも人助け、もしかしたら世界を救うかも知れない話。
オトコの子なら誰もが夢見る冒険談。
やってやろうじゃないか。
まー、大分修行しないと命の保障無い気がしないでもないけどね。
「じゃあ、まずはリタ様をお風呂にご案内しないと。ナナ宜しくね」
「はーい、じゃあリタちゃん、こっちに来てね」
〝あの、お風呂とは〟
「そうよね、湯浴みで分かるかしら」
〝はい、分かります〟
「こっちでは毎日湯浴みをするの、特にこの国は皆お風呂好きで熱い湯船に入るのよ」
〝そうなのですか、分かりました〟
「じゃ、バスタオルに寝巻き、下着とお布団準備しておきますね。寝室は...」
「ボク、リタちゃんと一緒に寝るんだー!」
「そう言うと思っていたわ。お客さま用のお布団をナナの部屋に敷いておきますね。」
「お母さん、ありがとー。じゃあリタちゃん、一緒にお風呂入ろーね」
〝はい、お願い致します〟
◆ ◇ ◆ ◇
お風呂場からは、ナナと姫様のキャッキャとした声が聞こえてくる。
時々「うわふ!」とか「うきゃん!」なんかの変な声が聞こえてくるのは、ナナが姫様のどこかに触っているからだろう。
洗いっこでもしてるのかな。
どうも姫様は、触覚が敏感すぎて触られるのが苦手っぽい。
「コウちゃん、よく私のところに一番に連絡してくれたわよね。ありがとう」
「いえいえ、マユ姉ぇに相談せずに裸の美少女部屋に連れ込んでいたら、半殺しじゃすまなかったですから」
「ええ、そうね。9割9分殺しにしていたかしら」
あのー、マジで怖いんですけど。
「コウちゃん、多分これから大きくコウちゃんの人生が変わる事態になると思うの。それでもかまわないのね」
「ああ、大丈夫。オトコの子は冒険がしたいものだよ。その冒険が向こうからお姫様付きでやってきたんだ。これで盛り上がらなきゃオトコが廃るよ」
そう、冒険の始まりはいつもいきなりだ。
美少女姫様が空から降ってくるというテンプレな冒険の物語だとしてもね。
誰もが人生の主人公、戦える力があるのなら運命に立ち向かうべきだ。
まあ、敵は強くないほうが助かるんだけど。
「それなら良いわ。じゃ、私もやれる事しますか。明日にでも正明さんのお友達のお医者さんに連絡しないと」
「え、まさか姫様の事?」
「そうよ、異世界から来たという事はこの世界の感染症には免疫が無い可能性が高いの。だから免疫やら血液やら出来れば遺伝子とか調べてもらって、大丈夫そうなら予防接種も受けてもらったほうが良いし。もっと言うならMRIとか超音波エコーで内臓とかも見てもらったほうがいいんだけど」
考えてみればそうだよね。
確か南米の古代インカ帝国はヨーロッパから来た侵略者が持っていた伝染病で壊滅したはず。
それが異世界でも起こる可能性は否定できない。
「だから、リタ様には悪いのだけれど、私が採血と採便・採尿させてもらって、お医者さんに見てもらうの」
「でもそのお医者さんって信用できる人なの? もしかしたら姫様のことを研究材料にするって強引に略奪するかも知れないし」
「それは大丈夫よ。そのお医者さん、今は母校の大学病院に帰っているけど、私が正明さんと一緒になる前から3人で一緒に仕事していて、私の事よーく知っているから」
うん、じゃ大丈夫だよね。
マユ姉ぇを敵に回すはずないし。
「それに今までにも、そのお医者さんに妖怪とか魔物のサンプル持ち込んだ事あるし」
おい、すでにそんな事まであるんかい!
「じゃあ、ゼッタイだいじょうぶデスネェ」
棒読みの台詞しか出ねーよ。
マユ姉ぇこえー、というか無理を押し通しすぎなんですけど。
道理は一体どこにいったのかなぁ。
◆ ◇ ◆ ◇
そうこうしていたらナナと姫様がお風呂上りほっこりした寝巻き姿で居間へやってきた。
二人とも上気していて、妙に色っぽい。
ナナは、普段結っている長い髪を下していてオトナっぽいし。
姫様は肌色がとても白いからか、耳から脚まで全身ピンク色だ。
それが、お湯で温もったからなのか、ナナに全身洗われたからかなのかは分からないけど。
「リタ様、お風呂は如何でしたか?」
〝はい、とても気持ち良かったです〟
「それは良かったわ」
「リタちゃん、全身スベスベで洗ってあげた私も気持ちよかったの」
そんなところで百合の花咲かさなくて良いから。
「そういえば、リタ様。失礼ですが、御不浄と言いますか、排泄関係の事に関しては」
「それは大丈夫だよ、お母さん。ボクがさっきトイレの事付きっ切りで教えてあげたから」
大分不味い気もするけど姫様それでいいのか?
〝ナナ様には何から何までお世話になりました〟
ふーん、大丈夫なんだ。
中世ヨーロッパ貴族では着替えを下女さんにしてもらうのが普通だから同性に裸を見られるのに慣れているらしいし、それと同じ理由かな。
〝水で綺麗に洗えますし、紙をふんだんに使えるのは良いですね〟
こういう事が出来るのはこの世界の現代でも日本と数カ国くらいだもんね。
「さて、今日はもう遅いから二人とも寝ちゃいなさいね。コウちゃんも今からお部屋帰ってお風呂沸かすのもったいないから、ウチで入ってね」
◆ ◇ ◆ ◇
俺はマユ姉ぇ宅の浴槽に入りながら思う。
このお湯にナナや姫様が入ったんだよな。
そしていつもマユ姉ぇもこの浴槽に入っている。
同じシャンプーを使っているはずなのに、良い匂いが俺のアパートの浴槽よりも強くしているのは気のせいだろうか。
うぉほん。
さて、真面目に考えようか。
父さん、母さん、どうやら俺自分の運命を変えちゃったようだよ。
平凡な考古学者になれそうだったのに、「インディ・ジョーンズ」とか「孔雀王」の世界に飛び込んじゃったよ。
まあ、面白そうだし、女の子をほっとけないし、やるっきゃないよね。
こうやって、長かった「大変な一日」は終わろうとしていた。
また明日はどんな事が待っているんだろうな。
そう思うと怖いの半分、わくわくするの半分だ。
さて、まず明日は部屋の大掃除からかな。
あのまま放置していたら、マユ姉ぇが怖いからねぇ。
これにて、第一章終了です。
ここから物語は本格的に動き出します。
では、第二章もお楽しみくださいませ。