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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第二部 第一章 功刀康太はダンジョン攻略をする
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第69話 康太は迷宮探索をする:その22「チエさんとお食事:その1」

「うまいのじゃ。うまいのじゃ。いつものコンビニ弁当でも(みんな)と一緒に食べるとうまいのじゃ!」


 泣きそうになりながら弁当をがっつくチエさん。

 ホント、正体が魔神将(アークデーモン)だって言っても信じられないよね。


「良かったですね。でも急いで食べると消化に悪いからゆっくり食べましょうね」


 マユ姉ぇは先ほどから苦笑いと慈愛の表情の中間って感じでチエさんに接している。


「そうじゃの、あまりがっつくのも行儀悪いのじゃ。じゃあ、良ければ教えてもらえぬか、ワシの『むせるクン1号』が転んだ理由が何かを」


 俺はマユ姉ぇに頷いてチエさんに答えた。


「それでは俺からお話しますね。まず元話として第二次大戦中の話があります」


「ふむふむ、戦史からのネタじゃったのか。で、それはどういう話じゃ」


 よし、話の食いつきは良いぞ。

 これで面白く説明できそうだね。


「確かドイツ占領下の国の話だったと覚えています」


 なお、後から調べるとチェコスロバキアの話でした。


「そこのレジスタンスが対戦車にやった手法なんですが、石畳を進む戦車に石鹸水を流したそうです」


「ほう、それでどうなるのじゃ?」


 前かがみにして聞いてくれるチエさん。

 どうやらその名前の由来通り新たな知識を得るのが好きなんだね。


「そうなると石畳と戦車のクローラ、一般的にキャタピラという部分が滑ってキャタピラが空転して前に進まなくなったそうです」


「ふむ、それは興味深いのぉ。で、今回とはどう繋がるのじゃ?」


「はい、今回はそれを応用して「むせるクン」の進む場所に洗剤を散布しました」


「それで滑って転んでしまったのじゃな。となると、その前の紐も策なのじゃな」


 流石(さすが)知恵の魔神将(アークデーモン)チエさん、理解が早い。


「はい、うまく洗剤散布地域に追い込む為にワザと行いました。既にチエさんには知られている呪文ですので、対策はされているでしょうし、油断を誘い見せ技としても使いました」


「ほう、なかなかやるのぉ。流石(さすが)は大学院生じゃのぉ。で、洗剤は何処で入手したのじゃ? まさか地上から持ってきた訳じゃあるまいし」


 良いところに気が付いてくれて、俺も嬉しい。

 そうか、悪役がネタ晴らしするのもこういう理由なのかも。

 分かってくれない相手に説明してもムダだけど、理解してくれれば驚いたり畏れてもくれるし。


「洗剤の入手方法ですが、戦う前に俺達何をしたか覚えていますか?」


 俺の質問にチエさんは少し頭を捻って、


「コウタ殿やマユコ殿とお話した他は、……、そうじゃシンミョウ殿がトイレに行ったのじゃ」


「すいません、恥ずかしいのであまり大声で言わないで下さいぃ」


 シンミョウさんが恥ずかしそうに話す。


「おう、すまなんだ。尼僧のお二人には随分と迷惑をおかけして、申し訳無いのじゃ。で、トイレ、……、まさかトイレの洗剤か!」


 賢いヒトと話すのは楽しいね。

 こうやって気が付いてくれると話すコッチも楽しいよ。


「はい、正解です! 上層のトイレもそうなのですが、掃除洗剤・道具とも完備でしたので、もし最下層にトイレがあれば同じだろうと思いまして。後は隙を見てナナの漏斗(ファンネル)さんで運んでもらった訳です」


「そうか、うむ分かった。実に見事じゃ。牽制、虚偽、そして奇策。孫子曰く、兵は詭道なり。いついかなる時も考えるのを止めたら負けじゃ。あっぱれじゃ!」


 チエさんは自分の敗因を知って、とても嬉しそうだった。

 しかし「孫子の兵法」まで嗜んでいるとはね。


「次はビームでしたね。それはリタちゃんからお願いします」


 俺はリタちゃんに話を振った。


「うん、こうにいちゃん、わたし、おはなしするね」


 リタちゃんはチエさんの方へ向いて真面目な顔で話す。


「ちえおねえちゃん。わたし、さいしょ、おねえちゃんのこと、こわい、かたき、たおしたい、とおもっていたの」


 チエさんはリタちゃんが自分の事を倒したいと思っていたのを聞いても、慈愛の表情を崩さなかった。


「それはそうじゃ。誰が自分の国を焼き払い父親を殺した(かたき)と仲良くしたいと思うんじゃ。だからリタ殿、その事を思い悩む事は無いのじゃぞ」


 そうやって話すチエさんを見るに、見た目以上の年齢、母性的なものも感じる。

 チエさん、たぶん俺達なんかよりもはるかに長く生きているだろうね。


「うん、ありがとう、おねえちゃん。でもね、おねえちゃんのはなし、きいていて、こわくない、おもしろい、おともだちになりたい、っておもったの」


 リタちゃんの友達宣言でびっくりしたチエさん、少し動揺して顔が赤くなる。


「何故じゃ、ワシは正真正銘の悪魔じゃぞ。悪魔と友達になっても良い事なんて何もないのじゃぞ」


 チエさんの狼狽した姿を見て、リタちゃんは表情を崩してチエさんに笑いかけた。


「だって、おねえちゃん、とってもさみしそうなんだもん。わたしも、さいしょは、このほしでも、もとのほしでも、ひとりぼっちだったの。でも、おにいちゃんにあってから、おとうさん、おかあさん、おねえちゃんができたから、さみしくなくなったの。がっこうにいって、ともだちもふえたの。だから、おねえちゃんが、さみしがっているの、よくわかるの。だからほっとけないの」


 リタちゃんの言葉が、チエさんの心に刺さったままだった孤独を溶かした。

 そして溶けた孤独は、チエさんの目から大粒の涙となって流れた。

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