第67話 康太は迷宮探索をする:その20「迷宮最終戦その2!」
俺はカレンさんに作戦指示を出した。
「不空羂索観音菩薩 捕縛呪!」
カレンさんから羂索が何本も伸び、「むせるクン」に向かう。
「その手も把握済みじゃ。もう手は無いのか、つまらんのぉ」
チエさんの言う通り、「むせるクン」はカレンさんから伸びる羂索をスイスイと避けていく。
そしてすぐ前に伸ばされた羂索をジャンプで避けた。
さあ、この行動まで読みきった俺の勝利。
チエさんが把握済みと言うのまで計算済み。
そして、その後チエさんが驚くところまでも計算通りなのだ。
「え!!」
俺の予想通り、チエさんは驚いた。
それは「むせるクン」があり得ない挙動をしたからだ。
「むせるクン」がジャンプして着地したところ、そこはさっきまでナナがコントロールする漏斗サンが居た場所。
そこに着地した「むせるクン」は盛大に転んだ。
びったーん、というよりずっしーんという音が聞こえた。
そして「むせるクン」は立ち上がろうとするも、また「びったーん」と転ぶ。
膝立ちまではするも、車輪は空回りするし、少しでも重心を上げると、すっ転んだ。
「むせるクン」は転ぶ度に自重でどんどんダメージを負っていく。
「なぜじゃ! オートバランサーには自信があったのじゃ。どうしてじゃ! コウタ殿、何かやったのじゃな?」
チエさんは「むせるクン」が転ぶ原因が分からず、驚愕している。
「チエさん、後でネタばらししてあげますからね。リタちゃん、お願い! 皆、伏せて――!」
「うん!」
リタちゃんは俺の指示で、杖に溜め込んでいた魔力を開放した。
「ひっさつ、えくす・かりばー!」
リタちゃんは掛け声と共に杖を横に薙いだ。
杖からは10個まで溜め込んだ大玉をトコトン絞り込んだ数ミリ幅の収束ビームが放たれた。
そのビームは軌道上のモノ全てを切り裂いた。
「むせるクン」はもちろん、迷宮の壁や柱、そしてチエさんの座っていた玉座までも。
「ひ――!」
チエさんは、俺の掛け声でしゃがみこんでいた。
もちろん、俺達は彼女を害する気は無かった。
まー、でも少しくらいは怖がってもらっても良いよね。
俺もトイレのウォシュレットの件、恨んでいるから(笑)。
チエさんの座っていた玉座の本来チエさんが座っていた頭上ぎりぎりから上をビームは通った。
さて、ビームが物体を切り裂いたらどうなるのか。
ずずず、どっしゃーん!
まず、玉座の上がずれて下に落ちた。
そして「むせるクン」も。
ずずずずっ、ずっしゃーん!
胴体の真ん中くらいから、すんばらりんと両断されて真っ二つになった。
両腕も上肢から切り裂かれていて、もはや攻撃力も移動力も残っていない。
そして、リタちゃんはスタスタと「むせるクン」に近づく。
「あの~、リタちゃん。危ないよ」
「だいじょうぶだよ、こうにいちゃん」
俺の心配を他所に満面の笑みを浮かべたまま、「むせるクン」に近づくリタちゃん。
頭上をビームが通った恐怖と、リタちゃんの異様な様子に動く事はおろか言葉も出せないチエさん。
そして「むせるクン」の至近まで近づいたリタちゃんは、杖を頭上に掲げる。
「ふっとべ! とーる・はんまー!」
リタちゃんは杖に3つくらいの弾を集め、それを雷撃に変えた。
そしてその「雷球」を「むせるクン」に叩きつける。
びっしゃーん!
大音響とオゾン臭を残し、「雷球」は炸裂した。
光が収まった後、「むせるクン」は焼け焦げ、カメラアイも消灯した。
リタちゃんはチエさんの方へ向いて小首を傾け微笑しながら話した。
「これでおわり。まだやるの、ちえおねえちゃん?」
「ん、ん、ん!」
驚き続きでまだ言葉が出ないチエさん、首をブンブンと左右に振る。
チエさんの敗北宣言を確認したリタちゃん、俺達の方に振り返って満面の笑みで話す。
「こうにいちゃん、わたし、かったよー!」
「お、おう。リタちゃん、お疲れ様」
俺もようやく言葉が出て、リタちゃんを慰労した。
というか、どこまでバケモノなんですか、俺の近くの女性って。
俺達は戦闘体制を解除してリタちゃんの所まで近づいた。
そのうちにチエさんも正気に戻り、早口で俺達に問いかけた。
「すごいのじゃ! すごいのじゃ! どうやって『むせるクン1号』を転がしたのじゃ! あのビームはどうやってるのじゃ! 作戦は誰が考えたのじゃ!」
チエさん、すっかり興奮状態。
自分が負けた事実よりも負けた手法が気になるらしい。
ワクワクしながら俺達に聞いてきた。
「チエさん、お尋ね致しますが、私達の勝ちで宜しいのですよね」
マユ姉ぇの問いにチエさんは、
「ワシの負けじゃ。でもそんなのどーでもいいのじゃ。早う、ワシの問いに答えるのじゃ!」
マユ姉ぇはチエさんの様子が可笑しいのか苦笑いしながら話す。
まー、俺もチエさんを笑わないようにするのに必死ですけどね。
「はい、では転がした方法を作戦立案者のコウちゃんから話してもらいますね」
俺はマユ姉ぇから促されたのでチエさんに答えようとするが、その時周囲からズズズという低音が響きだした。
「これは何?」
俺の疑問に周囲を見たチエさんが答えた。
「あ! もしかしてリタ殿、今迷宮の躯体、構造体も一緒にぶった切ったのでおじゃるか?」
チエさんの問いにリタちゃんは、
「てへ、わたし、きりすぎちゃった」
と、舌を出してテヘって皆に謝った。
「おい! テヘじゃないわい! 大変じゃ、迷宮が崩れるのじゃ!!」
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