第64話 康太は迷宮探索をする:その17「魔神将『知』」
今日は、迷宮探索の4日目、とりあえずゴールデンウィークで探索に使える最終日。
残るは最下層、第5層のみ。
いよいよ俺達を困らせてくれた迷宮主とご対面だ。
たぶん正体は「アレ」だろうけど、どんな姿で現れるかが気になる。
「騎」みたいに誰かを乗っ取っているのだろうか、それとも悪魔本来の姿なのか。
それももうすぐ分かるだろう。
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ、扉を開くよ」
俺達は第5層の「地獄の門」を開いた。
この「門」、もう5回も見ると慣れっこだけど、本物よりも大きいから作るのは大変だったのだろう。
「あれ?」
俺は「門」の向こう側を見て驚いた。
第5層の構造は、今までの層と全く異なり、ところどころに柱があるだけで、ずっと薄暗い空間が続いている。
そして、その空間の奥に光が見える。
「マユ姉ぇ、どうやら第5層はボス戦だけみたいだね」
マユ姉ぇは暗闇を奥まで見通して、
「そうね、気配は奥にあるだけで後は何も感じないわ。ボスが単独かどうかは別にして、ボス戦だけで終わりそう」
「でも油断できませんわ、お姉様。私は主を信用できませんから」
「そうですぅ。私も酷い目にあいましたからぁ。」
尼層二人がそう思うのも無理は無い。
何回も小鬼に蹂躙されては、しょうがないよ。
「ん? ボク、矢印みたいなのを見つけたよ」
ナナが右手を目の上にかざして遠くを見ていた。
「どこだい?」
「えっとね、この方向だよ。うっすらと光ってるのが見えない?」
俺はナナが指示した方を見た。
「あれかな」
それは床の上に矢印マーク(→)を蛍光色で書かれたものだった。
そしてその方向は、部屋の奥、光の方角を示している。
「どうやら迷わず、こちらに来なさいという事だね」
「そうね、じゃあ足元に気をつけながら進みましょうか」
俺達は迷宮探索の必須アイテム、10フィート棒で歩く先を突っつきながら進んだ。
しばらく歩いている内に、どこからか声なき声、念話が聞こえてきた。
〝そんなに警戒せんでも、もう罠なぞしかけておらんぞ。堂々とワシの処に来るのじゃ!〟
その「声」は以前に魔神将「騎」と戦っていた時、彼に助言をしてきたモノと同じ。
念話なのに、どこか幼い子供が「のじゃ」言葉を話している様な感じがする。
そして遊んでいる風は感じられるが、悪意を全く感じない。
そう、「声」の主は悪魔、それも魔神将クラスのはずなのに。
◆ ◇ ◆ ◇
そして俺達の前に現れたのは、大きな玉座っぽいものに座る幼女。
それも東欧系に見える整った顔と白い肌、長い巻き毛黒髪の黒系ゴスロリを着た身長120cm無いくらい、黒い目の8歳から9歳くらいに見える幼女なのだ。
幼女は、にこやかに俺達に問う。
「ようこそ、ワシの玉座へマユコ殿、そしてコウタ殿。どうでおじゃったかな、この迷宮は?」
今度は「おじゃる」幼女ですか。
俺、女難払いのお祓い、どこかで受けようかなぁ。
「お招きに預かりまして、どうもありがとうございます。色々と楽しませては頂きましたが、少々やり過ぎではありませんか? それと貴方のお名前をお聞きして頂いていませんが?」
マユ姉ぇは迷宮主たる幼女に堂々と意見をする。
「おお、すまんかった。もう大方、ワシの正体を分かっているとは思うが、自ら先に名乗るのが礼儀じゃな」
すまなそうな顔をした幼女は謝罪を言って玉座から立ち上がり、胸を張って今度はドヤ顔で言う。
まー、張る「胸」は全く無いけど。
「ワシは、魔神将、『知』と呼ばれておるが、実はこの名はあまり好かんのじゃ。で、ワシの事は『チエ』と呼ぶがいい。出来れば『チエちゃん』と呼んでくれると嬉しいのじゃ」
最後の方の「チエちゃん」の辺りで赤面して俺達から視線を逸らす幼女。
俺が見る感じでは、この幼女悪魔、とても表情豊かで実に悪魔らしくない。
「では、チエさんと呼ばせて頂きますわ。一応、まだ戦闘前ですので」
マユ姉ぇは、まだ気を許さず、幼女に対峙する。
そりゃ魔神将クラスを相手にするんだ、外見に油断する訳にもいくまい。
そういう意味では、俺は幼女の外見にすっかり騙されているから甘いなぁ。
「そうじゃ、まずは勝負してからじゃな。そうそう先に言っておくがワシの外見は、誰かを乗っ取ったモノじゃないぞ。ワシが長年研究したうえで丹精込めて作った義体じゃ。だからその辺は心配せんでいいのじゃ」
うーん、幼女のいう事をどこまで信用して良いものだろうか。
今度は自慢げに話すように、くるくると表情が変わる幼女。
この姿すら計算だとしたらスゴイ。
「後、ワシは基本的に嘘は言わんぞ。悪魔は半分精神生命体じゃ。特にこの世界原産で無い我らは不安定なものじゃ。嘘すら己の存在を不安定化させるからのぉ」
ドヤ顔で続けて話す幼女。
彼女を信用すべきかどうかは別にして、確かに「騎」も分かる限り嘘は言ってなかったな。
真実も言わなかったけれども。
「で、どのような勝負を致しますか? そのお姿のまま戦闘でも私は手加減致しませんが」
幼女に振り回されず、厳しい表情で一瞬たりとも幼女から目を離さないマユ姉ぇ。
「そう怖い顔をせぬで良いぞ、マユコ殿。せっかくの美人が台無しじゃ。後、マユコ殿は大丈夫だろうが、コウタ殿は無理じゃろ。じゃからワシも気を使って第4層は人形でお相手したのじゃから」
もったいないという感じでマユ姉ぇを褒めた後、苦笑いで俺を見ながら言う幼女。
あらー、俺って悪魔に気を使われちゃったのかよ。
「そういう訳じゃから、勝負はワシの作った『電気式ゴーレム』とでどうじゃな?」
幼女がそう言った時に、幼女の後ろにスポットライトが着き、布に包まれた高さ4m弱のモノが見える。
「これぞ、ワシの傑作。名付けて『むせるクン1号』じゃ!」
無い胸を張って自慢げに宣言する幼女。
これぞ、満面のドヤ顔。
布を幼女が引っ張って出てきたモノは、鋼鉄の鎧を着こんだ重戦士、四角い胴体に丸めの頭部、そこにターレットになっている3つのレンズの目、手にはマシンガンを装備し、足には車輪がついてある。
更に丁寧な事に右肩装甲が血のような赤で塗られている。
「あ、ボク知っているよ、このロボット『ボ……』」
「はい、それ以上言うと何かとマズイから、ナナ言わないでね」
「うん、お母さん」
ナイスフォロー、マユ姉ぇ。
「アレ」まんまじゃないかよ!!
「うん、その通りじゃ。昔のアニメなのに良く分かったのぉ、ナナ殿。分かってもらえてワシは嬉しいのじゃ」
本当に嬉しそうな幼女。
この幼女悪魔、完全にマジで楽しんでないか?
「なお、こやつは無人じゃから一切手加減はせんでええぞ。存分に戦うがいいわい。そうそうマシンガンの弾はスポンジじゃから痛いけど死なぬから安心せい」
ドヤ顔のまま説明を続ける幼女。
このあまりな状況に尼僧2人は、あっけにとられ、ぽかーんとしたまま。
その後、やっと口に出したのが、
「こんな幼女悪魔に私達『御山』は遊ばれていたのですか!」
「オタク幼女悪魔に私達は蹂躙されたのぉ!」
なお、リタちゃんも敵のはずの悪魔が、アレなのでどーしたら良いのかって感じだった。
ナナは、「あの子可愛いから良いんじゃない?」って感じでマイペースなのは流石だね。
このように困ってしまったのは、しょうがないよ。
かく言う俺も十分あっけにとられているからね。
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