第59話 康太は迷宮探索をする:その12「瞬動法」
俺とカレンさん、マユ姉ぇは前衛として最初にボス部屋に飛び込む。
続いて残りの3人が「動く歩道」で一周回って部屋に入る段取り。
「じゃあ、手はず通りにやるわよ!」
「おー!」
俺達はマユ姉ぇの掛け声で気合を入れる。
「じゃあ、シンミョウちゃん、ドア宜しく!」
「はいぃ、お姉様!」
シンミョウさんがボス部屋の部屋を開けた処に、俺達前衛組は突入した。
ボス部屋の中はうっすらと暗い。
そこに一つ大きな赤いモノが見える。
それが単眼巨人の血走った「目」だ。
〝ぐわぉ――!〟
巨人は吼え、立ち上がる。
その身長は約3m弱、ここの天井は5mくらいあるから十分暴れられる高さだ。
巨人は右手に持った全長2m程もある棍棒を振り上げ、俺達に向かってきた。
「おーい、こっちだぞ!」
俺は巨人に叫んで、攻撃対象を俺に集中させようとする。
見た感じでは、想定内の敵なので予定通り俺が「的」をすれば良い。
俺は左手に盾を展開した三鈷杵、右手に独鈷を持つ。
「オン マリシ エイ ソワカ! 摩利支天 太陽剣!」
俺は摩利支天の呪により右手の独鈷から「光の剣」を生やす。
三鈷杵にあらかじめ仕込まれている呪を別途使う事で、盾を使いながら攻撃を出来るようにした。
防御重視の攻撃法という訳で、他にも部屋に入る前に多重に回避・物理防御呪をかけているので、俺はガチガチに「固い」。
これで俺に集中攻撃をしてくれる間、他の人は安全に攻撃なり呪の準備が出来るという事だ。
「ほい!」
俺は自分から巨人の方へ踏み込み、振り下ろしてきた棍棒の行方を見て交わす。
上からの攻撃は、怖いけど逆に踏み込んで最大威力を出す範囲から前に出て、威力が出る前に捌くなり避ければ良い。
対人なら捌くけど、巨人相手では避けた方が安全だね。
「おら、こんなものかよ!」
俺はそう言って巨人に右手の剣で数太刀程切りかかる。
しかしあんまり切れた感じがしないし、切った跡を見ても血すら滲んでいない。
そうしているうちに、今度は打ち下ろした棍棒を横薙ぎ払いに替える巨人。
「あぶない!」
俺は「瞬動法」を使って後方へ高速移動をする。
俺が居なくなった空間を、巨人の棍棒がものすごい勢いで薙ぐ。
「ふー、気をつけないと!」
「瞬動法」とは、フィクションでも良く言われる高速移動法。
元々、俺は韋駄天の呪による移動速度UPはしているけれど、それは通常移動速度の向上をするもの。
瞬動法は、瞬間的に「気」を脚から放出すると同時に脚力を開放する事で、短距離ながら瞬間移動をしたような移動が可能な方法。
前に魔神将「騎」の突撃攻撃を喰らったマユ姉ぇが無事だったのは、この瞬動法で避けたから。
マユ姉ぇクラスになると脚払いしながら瞬動法をするから、騎の様にすっ転んで自爆するように出来る。
俺の場合は、最近やっと術が形になったばかりで100%成功する訳では無い。
なので、あんまり無茶はしたくないんだけど、今回はしょうがないね。
単眼巨人は、俺になかなか攻撃が当たらないから焦れている。
でもこっちも攻撃が通らないから持久戦になりそう。
向こうはこっちに一発当てたらダウンさせられるけど、こっちはチクチクいくしか無い。
集中力を切らさぬように、巨人の動きを一挙手一足速見のがすべからず。
こういう時こそ、感の目を増す「後頭部に『みかん』」だね。
巨人は、再び俺に向かってくる。
今度は向かって右上から斜めに振り下ろす攻撃。
なら、右斜め前に踏み込み、棍棒をやり過ごしてから左手の三鈷杵も剣に替えて、二刀流で右薙ぎをする。
そして瞬動法で巨人の右わき腹に突撃気味に突っ込んで二刀を突き刺した。
その後、突き刺した光剣を捻りこんでダメージを増やす。
今度は血も噴出しているし、かなりダメージが通った感じがするね。
〝ぎゅわぁ――!〟
巨人は痛みに苦痛の叫びをして、棍棒を右薙ぎ払いして俺を吹き飛ばそうとする。
「ほいよ!」
俺は左手の三鈷杵を盾に替えて、瞬動法によるバックステップをする。
巨人の棍棒は想定よりも伸びて俺の盾に掠るがその勢いは凄く、俺はかなり後ろに吹き飛ばされた。
「うっつ。ひぇぇ、怖いよぉ」
巨人の攻撃は盾を掠っただけなのに、盾を持っていた左手は痺れ、肩も鈍く痛む。
あんなの、まともに喰らったら死んじゃうよぉ。
受け止めるのも無理ぃ。
「コウちゃん、お待たせ。今度は私が行くわ!」
次はマユ姉ぇが「的」役をしてくれるらしい。
俺は、すでに室内に入っていて支援攻撃をしてくれているナナ達のほうへ一旦下がった。
「コウ兄ぃ、すごいね。あんなバケモノと戦えるなんて」
「うん、こうにいちゃん、すごい!」
俺はシンミョウさんの治療呪を受けて息を整える。
「いやー、結構怖いんだよ。マユ姉ぇと違って、俺はまだ瞬動法が未完成だから完全に使いこなせないんだ。だもんで、いつも確実に避けられる訳じゃないし。今も盾に掠っただけで、腕が痺れちゃったよ」
そのマユ姉ぇ、瞬動法を多用してひょいひょい避けながら薙刀で切りつけて確実に削りに入っている。
あの単眼巨人を相手に、まるで舞踊を踊ってるかのように戦うマユ姉ぇ、すごいや。
◆ ◇ ◆ ◇
幼女は真由子達が単眼巨人をあしらいながら戦っている様子をモニター越しに、楽しそうに見ている。
「今度の部屋は今までのように力業では突破できぬぞ。どうするでおじゃるかな? ん? あの娘、確かカレン殿とか言ったか。何か呪文を用意している様だが何をするのじゃ?」
◆ ◇ ◆ ◇
俺やマユ姉ぇが単眼巨人を相手している間、カレンさんは腰に巻いていた縄、羂索を伸ばして呪を練っていた。
「真由子お姉様、いけます!」
そして、カレンさんは練っていた呪を開放する。
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