第58話 康太は迷宮探索をする:その11「ジャイアント・キリング」
迷宮第三層ボスは、どうやら単眼巨人らしい。
おそらく単体での登場、魔法よりも膂力に物を言わせるタイプだろう。
「マユ姉ぇ、ここのボスどうやって攻略しようか?」
マユ姉ぇは、考える時の癖で右手人差し指指を頬に当てる。
「そうねぇ、力押しタイプだと思うけど、入り口で立ち止まれないから全員部屋に入らないといけないのよね。今までのように部屋の外から砲撃という訳にもいかないし。それと全員同時に部屋に入れたら良いけど、誰か入り損ねたら困っちゃうわ」
「動く歩道」のおかげで部屋の入り口まで止まっていられないのが困るよね。
「前衛は必ず皆で入らないと、独りだと殴り倒されちゃいますね」
カレンさんの言う通り、いくら俺がガチガチに守備固めても独りでは圧倒的に膂力が強い巨人相手に長くは持ちこたえられない。
「伝承では魔法や息攻撃はしてこなかった気がしますぅ。上位種ですと確か雷撃などがありましたがぁ」
シンミョウさんの言っている、巨人の上位種といえばギリシャ神話の主神ゼウスの祖父になるウラヌスや父クロノス等のティターン(タイタン)神族、神様だからそんな方々には俺なんて到底勝てるはずありません。
聖闘士じゃないんですから、そういうのはご勘弁を。
「たぶん、ここの迷宮主は基本に忠実だから、一般的な巨人でしょうね。とりあえず、前衛3人は同時に入って、後衛は一周廻った後で入るのでどうかな?」
俺の提案にマユ姉ぇは、同意してくれた。
「そうね、魔法攻撃や息攻撃も無いのならそれで大丈夫かしら。一応、前衛は物理保護は全力でしましょうね。今日はここで勝てば終わりにして良いでしょうし」
もうお昼も大分過ぎている時間、その上ボス戦で呪力も体力も使い込んでしまうだろうから、その状態で第4層攻略はやるべきでは無い。
「うん、そうしよう。で、誰か巨人を簡単に倒せる方法思いつかない? あまり持久戦はしたくないし、固そうな上に呪文攻撃でも削るの大変そうだし」
俺の手持ちの武具や呪文では、防御と速度を上げたうえでの力押ししか手が無い。
かといって、全員が同じフロアー内で戦闘する必要がある以上、大規模攻撃呪文も使いにくい。
たぶん第2層で使った破邪呪文も巨人相手では効き目が薄いだろうし。
「でしたら、こういう手は如何ですか?」
カレンさんが提示してきた案は、賢くなくて力押しの巨人相手には効きそうな手。
特に一眼の単眼巨人では、視野の範囲からして効果的だと俺は思う。
問題があるとしたらカレンさんに大きな負担が懸るという事くらい。
「その手は効くとは思いますが、カレンさんが大変じゃないですか? ものすごい力が掛るから怪我しませんか?」
俺はカレンさんを心配して聞いてみた。
「そうですね、この手の武具を使う場合は指とか飛ばしかねないですけど、今回は防刃手袋もありますし直接紐に触らず輪の部分を持てば大丈夫だと思います」
糸とか紐使いは見た目よりも力が必要だし、負けるときは指を失う事もある。
「コウちゃん、今回はカレンちゃんを信用してあげてね。カレンちゃん、今まであまり役に立てていないのを気にしているんだから」
「え、お姉様、どうしてそれを?」
いきなり心情を言い当てられて驚いたカレンさんに、マユ姉ぇは言う。
「だって、ウチの娘達だけでなくシンミョウちゃんも活躍しているんだから気にしない訳ないわよね」
「それを言うならコウタ様やお姉様も同じでは無いですか? 私が無理に手柄を上げる必要も無いですし」
ちょっと狼狽えたカレンさん、俺達に手柄を譲ろうとする。
けど、俺は元々迷宮攻略には参加できなかった身、今現在参加できているだけで満足している。
「俺は別に一人で仕留めたいとか思っていないよ。それより皆が無事な方が良いし。だから出来るだけ楽に倒せる方法が無いか探しているんだ」
「私もそんな事は気にしていないわ。コウちゃんと同じでカレンちゃんやシンミョウちゃん、それにウチの娘やコウちゃんが無事ならどうでもいいの。倒せるなら誰がどんな方法で倒しても良いのよ」
マユ姉ぇも俺と同じ考えで嬉しいよ。
いくら死なないと言われていても、皆が死にそうな様子は見たくないよ、俺は。
「すいません、お二人には気をつかわせてしまって」
「だから気にしてないってば。逆に俺、カレンさんの技見てみたいし」
俺に続きリタちゃん達もカレンさんを応援する。
「かれんおねえちゃん、がんばって!」
「カレンお姉さん、ボクも気にしないから存分にやっちゃって!」
「カレンお姉様、よろしくですぅ」
「そういう事だからカレンちゃん、宜しくね」
「はい! 頑張ります」
カレンさんは皆に認められたのが嬉しそう。
さあ、いよいよ攻略開始だ、めざぜ「ジャイアント・キリング」!
なお、「ジャイアント・キリング」とは、下位の者が上位の者を負かす、番狂わせという意味。
大本の語源は「巨人を殺す」という事で旧約聖書の巨人兵士ゴリアテを羊飼いの少年ダビデが倒す話だそうな。
今回の敵は、単眼巨人なだけにぴったりだね。
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