第57話 康太は迷宮探索をする:その10「迷宮第三層へ」
俺達は無事第2層を突破し、第3層へと向かった。
第3層ともなると、敵も強くなる。
レッサーデーモンにゴーレム、オーガにワイトと多種多様。
なかなか簡単には先に進ませてはくれない。
少しお疲れの俺は休憩を提案した。
「この辺りで少し一休みしたいけど、皆どうかな?」
「私はまだ大丈夫ですが、康太さんが結構無理なさっていますから判断はお任せします」
カレンさんの意見を聞いたマユ姉ぇ、
「そうね、前衛組は大分お疲れよね。後方組はどう?」
「わたし、まだだいじょうぶだけど、こうにいちゃん、おやすみさせたいな」
「そうだね、コウ兄ぃ、さっきからバッサバッサと悪魔なんかをぶった切っているし」
「私は、皆様の判断にお任せいたしますぅ」
「という事で、どこか安全な部屋辺りで休憩しましょうか。さっきあった無人の部屋なんてどうでしょうか?」
マユ姉ぇの決断に俺は賛同した。
「そうだね、入り口を警戒しておけば大丈夫かな?」
ということで、俺達は先ほど探索して安全を確認した部屋まで一路戻った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、休憩するのでおじゃるか。良く頑張った褒美じゃ。では、部屋の模様替えをするのじゃ!」
幼女は迷宮の設定を変更すべく、キーを叩いた。
◆ ◇ ◆ ◇
俺達は休憩をすべく探索済みの部屋に入った。
「あれ? さっきと部屋の中が違うぞ?」
俺は、明らかに違う部屋の様子に驚く。
先ほど探索した際には、部屋には敵がいない代わりに調度品も無く殺風景なものだった。
しかし、今は簡素な造りだけれども机と俺達の人数分の椅子が用意されており、部屋の隅には新たに扉が作られ表札に「お手洗い」とある。
俺は警戒しながらその扉を開いたが、中にはウォシュレット装備かつ紙もふんだんに用意された洋式トイレが鎮座していた。
「至れり尽くせりとはこういう事なんだろうか? マユ姉ぇ、どう思う?」
あまりにもの状況で俺は頭が廻らず、マユ姉ぇに助言を頼んだ。
トイレの状況を覗き込んだマユ姉ぇ、
「ここは迷宮主さんのご厚意に甘えましょうか。罠にしては稚拙でしょうしね。これで飲み物とかがあれば毒の心配もしなくちゃだけれども」
飲食物を置いておいて仕込んでおいた毒に引っかかるのはありがちだろう。
しかし今回は、ただ椅子と机にトイレの準備だけだから、本当に「主」の好意なんだろう。
「じゃあ、俺が先にトイレ使うので良いかな? たぶん大丈夫だろうけど、罠の確認もあるし」
「コウ兄ぃ、じゃあ次はボクが使うね。実はちょっと我慢しているんだ」
「そうね、女性陣は皆そろそろだったから本当に助かるわ」
という事で、俺からトイレタイム。
なお、俺は洋式だと座って用を足すようにしている。
立ってすると飛び散るし、その分トイレ掃除の手間が増える。
特に今回は後から女性が使うのが分かっている以上、綺麗に使うべし。
そう思ってトイレを観察すると、洗剤含めて掃除道具完備の上に芳香剤まである。
完璧を目指す「主」らしい配慮、もしかして「主」は女性なのかな?
「迷宮主さん、どうもありがとうございます。でも出来れば迷宮探索は簡単にして欲しいですね」
俺は多分聞いているだろう「主」にお礼を言った。
ちなみにトイレは罠なぞ無く、普通に便座暖房付の快適なモノでした。
◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、まさか感謝してもらえるとは思わなんだわ。まあ、女性なら男と違い、不浄な事は何処でもという訳にもいくまい。よし、これ以降にも『御不浄』は作っておくのじゃ」
感謝されたことが嬉しい幼女であった。
◆ ◇ ◆ ◇
「休憩所」で充分な休息を得た俺達は、第3層の探索を続けた。
「そろそろボスのいるフロアーがありそうだね。シンミョウさん、どうですか?」
「この先に開けた空間がありそうですぅ。準備しましょう」
そしてパーティ先頭の俺が、おそらくボスの居る部屋だろうと思われるところの角に踏み込んだ時、足元が動いた。
「え!?」
それは落とし穴のような凶悪な仕掛けでは無く、「歩く歩道」
俺は「え、え!?」と言いながら、ボス部屋の周囲をくるくる廻る。
ベルトコンベアの上で流されている俺は、部屋の入口と其処に書かれた表札を見た。
「あ、動きが早くて読めないよ」
「歩く歩道」のスピードは案外早く、早歩き程度。
暗がりで文字を読むには少し厳しい。
「コウちゃん、大丈夫?」
マユ姉ぇが流されている俺を心配して声をかけてくれる。
「うん、大丈夫。ただの『歩く歩道』だよ。でも途中にボス部屋があるから、ボス攻略は少し難しいかもね」
俺は、「歩く歩道」でもう一周廻って、部屋の前でスマホにて写真を撮った。
これで部屋の内容が確認できるはず。
そして、マユ姉ぇ達の前に戻ったので、俺は「歩く歩道」から降りた。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうじゃ、素敵な仕掛けじゃろ? 確実に敵を無力化する仕掛けも素敵じゃが、敵を楽しませる仕掛けも素敵じゃ。こういうのはいずれテーマパークに連れて行ってもらって勉強したいのぉ」
幼女はノリノリで仕掛けに「引っかかった」康太達を眺めていた。
◆ ◇ ◆ ◇
俺は、スマホ画面で表札を確認した。
「『単眼巨人の間』ってあるね」
さあ、今度は巨人攻略戦だ!
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