第56話 康太は迷宮探索をする:その9「迷宮探査は続くよ、どこまでも」
神剣を「御山」の方々にお預けした俺達は、迷宮第2層の探索を続行した。
第2層で未探索なのは半分以下、もうすぐ見つかるフロアーマスターの部屋以外はたぶん放置しても問題は無いだろう。
「マユ姉ぇ、俺思うんだけど、この迷宮主、本気で俺達を楽しませに来ていない?」
「そうよね、悪意が殆ど感じられないのよね。ドラゴンのところも無理して相手する必要は無いし、負けても死なずに出発地点に戻してくれる。お土産まで用意してくれると至れり尽くせりですもの」
「それは力に余裕があるお姉様達だから言えるお話ではありませんか? 私達尼僧2人は結構酷い目にあいましたけど」
カレンさんは不満そう。
そりゃ2人と6人では敵モンスターの脅威度が全く違うとは思うけどね。
「本物の小鬼に負けると性的辱めを受けると言うけれど、そちらの方も無事だったのよね、カレンちゃん」
「小鬼殺し」とか最近の作品では、小鬼の厄介さは良く言われる話だね。
そういうのを知っているマユ姉ぇの守備範囲が侮れない。
「それはそうですが、でも怖いものは怖いです」
そりゃそうだ、俺でも防御手段無しで小鬼の集団に突っ込めと言われたら嫌だもの。
「まあ、とにかく注意していきましょうね」
と、グタグタなムダ話しながらも探索は順調に行え、殆ど接敵も無いままにボスフロアーを発見した。
「豚鬼の間って書いてあるね」
俺は部屋の入り口にある表札を見つけた。
これまた、ご丁寧に日本語、英語、ラテン語併記だ。
「部屋の広さはどのくらいかしら、シンミョウちゃん?」
「マッピング結果から、おそらく10m四方くらいだと思いますぅ」
シンミョウさんは、タブレット画面を見て結果を教えてくれる。
その部屋の大きさから考えて、豚鬼が単独な訳はあり得ない。
おそらく第一層ボスと同じく魔法使い等が混在する集団だろう。
「今回はどうする? また大技ぶっぱする? それとも地道にやる?」
「すいません、今回私に任せていただけますかぁ?」
そう言ったのは以外にも、シンミョウさん。
「皆様の活躍を見て、私もやってみたくなったんですぅ」
地上で初めて会ったときは自信無さげにしていたシンミョウさん、俺達と一緒に迷宮探索をしている間に、どんどんハキハキして来て自分から意見を言うまでに自信をつけてきているのは良い傾向だ。
もちろん裏付けの無い自信は危険と隣り合わせだけど、慎重派のシンミョウさんだとその心配もあるまい。
「俺は、シンミョウさんがやりたいのなら賛成だよ」
俺に続き、皆も賛成意見を言う。
「そうね、ここいらで皆、最大能力を把握する必要もあるし、シンミョウちゃんなら大丈夫よね」
「シンミョウ、貴方がやりたいと言うのは余程の事だと思う。お姉様達もいるし存分にしたら良いわ」
「うん、しんみょうおねえちゃん、がんばって!」
「シンミョウお姉さん、フォローはボクに任せてね」
「皆さん、どうもありがとうございますぅ。私やってみますね」
「じゃあ、今から作戦会議しましょうね。 ここも勝つわよ!」
「おー!」
マユ姉ぇの号令で意気揚々の俺達であった。
◆ ◇ ◆ ◇
「いよいよ、第2層ボス戦じゃ。今回はどんな手で来るのか楽しみじゃ」
幼女は、端正な顔をモニター画面の明かりで照らす。
康太達の会話から、おそらく自分の正体がばれているだろう事は分かっている。
そして自分に対して意外と好意的なので安心していた。
「てっきり嫌われていると思っていたのじゃが、そうじゃないのは助かるわい。これでワシの『岡本家居候計画』も現実味が出てくるのじゃ」
幼女は、ニヒヒと下品に笑った。
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ、皆行くわよ!」
マユ姉ぇの号令で、第2層フロアーマスター戦が開始された。
扉を開放すると同時に、俺とカレンさん、ナナの小物達が部屋の中に突撃する。
部屋の中にいるのは、豚鬼、豚鬼魔術師、大豚鬼、そして豚鬼王。
大体20匹くらいの豚鬼集団が俺達に襲い掛かる。
俺とカレンさんはお互いの背後を守るように動き、確実に一匹づつ撃破していく。
部屋の外からのリタちゃんやナナから魔術師相手の支援砲撃もあり、無事に戦闘は続く。
そして、マユ姉ぇからの次の指示が来る。
「シンミョウちゃんの大技が行くわ。念の為に対魔術用意!」
俺とカレンさんは背中合わせになって、追加で対魔術結界を自分達の周囲に張った。
「ナマク シチリヤ ジビキャナン サルバ タタギャナン アン ビラジ ビラジ マカ シャキャラ バシリ サタ サタ サラテイ サラテイ タライ タライ ビダマニ サンバンジャニ タラマチ シッタギレイ タラン ソワカ! 大金剛輪陀羅尼!」
シンミョウさんが唱えた呪は、弥勒菩薩の憤怒化身、大輪明王のお力を使った対魔広域殲滅呪文。
某「スパロボ大戦」で言うところの味方識別能力のあるマップ兵器。
俺達二人以外の豚鬼の周囲に、炎で出来た八輛金剛輪と呼ばれる宝輪が発生し、その宝輪が回転すると宝輪内にいた豚鬼達の集団は全て一瞬で塵と化した。
もちろん俺達には全くの影響無し。
呪文の派手さはリタちゃんやナナには劣るけれど、確実にかつ味方には安全な殲滅呪文というのは非常に優れた攻撃方法。
これだけの呪を持っていたはずなのに自信が無かったシンミョウさん。
いままで使う機会も無かっただろうけれど、リタちゃんやナナの活躍が刺激になったのなら良かったと思う。
「おーい、コウ兄ぃ、だいじょーぶ?」
俺はナナの呼びかけに答える。
「うん、カレンさん共々無事だよ。シンミョウさん、お見事でした」
「ええ、シンミョウ。よくやったわ。貴方すごいじゃないの。もっと自分に自信を持ちなさいね」
「康太様、カレンお姉様、ご無事で何よりですぅ。私、自分でも信じられないくらい上手く呪が成功しちゃいましたぁ」
嬉しそうなシンミョウさんをマユ姉ぇは褒める。
「良かったわね、シンミョウちゃん。貴方可愛いし強いんだから、モット自分に自信を持ちなさいね」
「はい! ありがとうございますぅ、お姉様!」
憧れのお姉様に褒められて良かったね、シンミョウさん。
◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、あのメガネっ子、シンミョウ殿か。魔物のみを選別しての広範囲殲滅呪文とはやりおるのぉ。一見地味かもしれんが、こういうのが油断ならなんのじゃ。もちろんワシには効果は無いであろうが、相手を選べば十分効果的なのじゃ。また面白い人材じゃ。ホントに見飽きない面子じゃのぉ」
すっかりご機嫌で、誰に話すでも無く解説しちゃう幼女であった。
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