第53話 康太は迷宮探索をする:その6「第2層へ」
俺達は昼食休憩後、第1層ボス部屋にあった階段を降り迷宮第2層へと向かった。
そこには第1層と同じく「地獄の門」があり、横にある石版には「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」とある。
おまけにその横にはどこかで見たブロンズ像までおまけにある。
「あー、ボクこの像知ってるよ。『考える人』だぁ」
そう、「地獄の門」と同じくロダン作の超有名な像。
この像も日本にオリジナルが複数あったりする。
「この迷宮作者、形から入りたいのかしら? 見栄重視っぽいけど」
「まあ、迷宮探索の本題には関係ないから感心だけはしてあげようか。どうもそれがお望みっぽいし」
ここからは第2層の本格的探索だけれども、第1層と違うのは未踏破な事。
これ以降はマッピングしながら動く必要があるし、罠が無いとも限らない。
一気にボス制覇とはいかないのだ。
「これからはマッピングが必要なの。シンミョウちゃん、お願いできる?」
「はい、真由子お姉様。タブレットにて記録しますので、皆様がお持ちの情報端末にも随時反映されますから、各自ご確認してください」
大昔のダンジョンRPGとかだと自力でノートにマッピングしたそうだけれど、地下でもGPS情報が入らないだけでジャイロと地磁気情報は入るから、今ではマッピングも楽になった。
迷う危険性が減ったのはありがたいね。
◆ ◇ ◆ ◇
モニター画面を食い入る様に眺める幼女。
手持ちぶたさに自らの黒くて長い巻き毛を弄ぶ。
「こやつら、マッピングの基本を一応は知っておるのか」
康太達は曲がり角毎に蛍光テープを貼り、どっちから来たかを分かるようにしている。
また個別部屋のドアもいきなり開けたりせずに、仕掛けを確かめてから開けている。
もちろん確認済みの部屋にも、通路のとは色違いの蛍光テープを貼っている。
「まだ第2層には、大きな仕掛けは一切しとらんぞ。しかし、油断は禁物じゃ。お、そこの部屋は第4層に鍵を取りにいかんと開かんぞ」
◆ ◇ ◆ ◇
「この部屋、鍵が掛かっているね。たぶん何処かに鍵があるって事なんだろうけど」
俺の意見にマユ姉ぇは怖い事を話す。
「じゃあ、後回しにする? この部屋、イヤな感じがするから第2層のモンスターじゃない強いの居そうなんだけど」
「そうですね、マップだとそこそこ広さがあるので、裏ボスとか居てもおかしくないですわ」
マユ姉ぇとシンミョウさんの意見に俺も同意。
ここまで第2層で大した戦闘もしてないから、まだ余力は十分だけれどもフロアーマップを作るほうが優先だしね。
「えー、せっかくここまで来たのに無視するのぉ。ボク、この鍵なら開けられそうなんだけど」
「それ、本当なのナナ?」
びっくりするマユ姉ぇにナナは言う。
「うん、そうだよね、リタちゃん」
「おねえちゃん、まほうのかぎ、もってるもん」
「まさか鍵の九十九神さんを味方につけたの、ナナ?」
「お、コウ兄ぃ。正解!」
ナナや、いつのまに「お仲間」増やしているんだか。
俺、ますます取り残されている気がするよ。
「じゃあ、出ておいで! 王鍵さん」
ナナのバックパックから出てきたのは20cmくらいの真鍮製の大きな鍵。
おそらく元は蔵とかの鍵だったのだろう。
真鍮無垢の金色に輝いているけど、それ何かのゲームで見たような気がしないでも無い。
「ナナ、一応聞くけど、この鍵は『無限の宝物庫』なんてのには繋がってないよね」
「いくらなんでもそんな訳無いでしょ。でもボク本当にあの古代王国の宝物庫の鍵持っていたら無敵だね」
今でも射出型の攻撃が主のナナ。
無限に魔法剣とか打ち出されたら、俺涙目だよ。
しかし、ナナ「アレ」知っているんだね。
「この子の力は、どんな鍵穴にも入ってそこの鍵を開ける能力なんだ。物理的な鍵や魔法・情報的な鍵にも対応できるんだって」
それ、もの凄い能力なんだけれど。
鍵の能力を悪用したらどんな宝物庫、金庫も無意味なのだから。
「もちろんボクは悪用なんてしないよ。だってそんな事をしても面白くないもん!」
◆ ◇ ◆ ◇
小部屋の中で幼女は、ナナが閉鎖された第2層の部屋を開けようとしているのを見て叫ぶ。
「おい、開けちゃダメなのじゃ! そこにいるのは裏ボスのドラゴンなのじゃ。死んでしもうたら終わりなのじゃ!」
幼女は画面を掴み、本気で康太達を心配して言う。
「あー! もうダメじゃぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「はい、鍵開いたよ。物理的だけで無くて魔法の鍵も掛かっていたよ」
俺、もの凄い嫌な予感しかしないんだけど。
「ねえ、本当にこのドア開けるの? 私は嫌よ」
「おねえちゃん、わたし、こわい」
「ナナちゃん、辞めましょうよ」
「ナナさん、虎穴ですよぉ、ココ」
「ナナ、命あってのもの、今日は無視して行こうよ」
俺を含めた皆、ナナが部屋に入ろうとしているのを阻止するが、
「大丈夫! 部屋の中のモンスターって中に入らなければ攻撃して来ないんでしょ」
「あくまで多分だぞ」
「ボク、せっかく必殺技作ったのに使いたいんだ。ドアを全開しなくても攻撃できるからやって良い?」
「本当に大丈夫なの?」
心配しているマユ姉ぇにナナは、
「うん、お母さん。その技は一度リタちゃんと試した事があるしね。リタちゃん、『アノ技』なんだけれど」
「あのわざ、すごいけどだいじょうぶ? すごくつかれるよ」
「多分、これでボク今日の分の呪力殆ど使い切るけど、これから第2層フロアーボス倒すんじゃなければ大丈夫だよ」
リタちゃんの反応からして、スゴイ技なのは確かなんだけど、少し不安もある。
それだけの威力があるのなら大抵術者への負担が大きい。
ナナが酷い目にあうのは見たくないぞ、俺。
「マユ姉ぇ、どうする? もう夕方だし、今日の探索をこれでお終いにするならなんとかなるけど。ナナ、本当に大丈夫なんだよな。ナナが傷ついたりしたら意味ないんだぞ?」
「コウ兄ぃ、心配してくれてありがとう。大丈夫、ちょっと疲れるくらいだから」
俺の心配に対していつもの笑顔で返してくれるナナ。
なら、大丈夫かな。
実際、第2層に入る前にお弁当を食べての探索、第2層も半分は調べ済みなので、そろそろ良い切り上げ時でもある。
それに「裏」の方にも今日中に第1層に拠点を作ってもらうほうが都合が良いし。
「じゃあ、無理だと思ったら必ず退く事。それが約束できるのなら許可するわ」
「お母さん、ボクのワガママ認めてくれてありがとう。ボクあまり皆の役にたっていないからやりたかったんだ」
ナナ、だいぶ強くはなっているけれど、俺やリタちゃんみたいに直接的なパワーを見せられる訳じゃないから思うところがあったんだね。
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